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【神奈川】

「一瞬の夏」は終わらない カシアス内藤の挑戦 (上)東洋王者の若者2人

スーパーライト級に階級を上げてパンチに重みが増し、東洋太平洋王座をつかんだ内藤律樹

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 「バシッ」「バンッ、バンッ」。生暖かい空気がこもるジムにサンドバッグをたたく音、ミットにパンチが当たる音が響く。一ラウンドと同じ三分たつと音はやみ、選手は一瞬の解放感を味わうかのように周りと軽く言葉を交わす。三十秒後、真剣な表情に戻り、それぞれの目標のため、またトレーニングを始めた。

 三分、三十秒、三分…が繰り返される夜の「E&Jカシアスボクシングジム」。JR石川町駅(横浜市中区)近くにあるジムの会長は、一九七〇年代に活躍した元東洋太平洋ミドル級王者カシアス内藤(68)=本名内藤純一。

 ジムには現在、世界のベルトを視界に捉えている二人の若者がいる。一人はスーパーライト級(61・23~63・50キロ)東洋太平洋王者で、内藤の長男律樹(りっき)(26)。中学一年の時にジムができ、身近にあったボクシングを自然に始めた。父譲りのセンスと持ち前のスピードを生かし、磯子工高(磯子区)で選抜、総体、国体の三冠を達成。二〇一一年にプロデビューを果たすと、二年半で日本スーパーフェザー級王者になった。

 ただ、順風満帆に思えたのもつかの間、タイトルを奪われ、その相手にもう一度敗れ、減量にも苦しんだ。引退を考えて父に打ち明けると「納得できたのか」という問い掛けにうなずけない自分がいた。「とことんやりきろう」と再びグローブを握った。

 身長一七三センチの律樹はスーパーフェザー級としては大きい。階級を二つ上げるとパンチに重みが増し、今年一月に東洋太平洋のベルトをつかんだ。戦績は19勝(7KO)2敗。「『ここまでやったんだから負けるはずがない』と思えるまで毎回、準備してリングに立つ。そうすれば世界のベルトも取れると信じている」

プロデビューから12連勝(8KO)と勢いに乗る小浦翼=横浜市中区で

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 もう一人は、律樹を「兄貴みたいな存在」と慕うミニマム級(47・62キロ以下)の小浦翼(23)。一四年のプロデビューから11連勝(8KO)して昨年七月に東洋太平洋王者になり、十一月には判定で初防衛を果たした。

 小学一年で空手を始め、横浜総合高(南区)でボクシング部に入った。ボクシングは試合日から逆算し、スパーリングや減量の予定を数カ月前から組んでいく。「体が出来上がってくると気持ちも高ぶってくる。審判に手を上げられる勝利の瞬間は何物にも代えがたい。でも、東洋はただの通過点。世界しか考えていない」

 まだ予定はないものの、世界戦を熱望する二人の姿に内藤は目を細める。「世界王者への道は私も知らない。ここから先は、彼らが自分の足で歩いていくしかない」

 ◇ 

 自身は手が届かなかった世界の夢に、往年の名ボクサー・カシアス内藤が地元横浜に開いたジムで門下の選手と共に再び挑んでいる。作家沢木耕太郎のノンフィクション「一瞬の夏」の主人公にもなった内藤の「今」を追う。(敬称略)

 =この企画は鈴木弘人が担当します。

 

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