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「トップマネジメントに訊く」株式会社コロプラCSO長谷部潤×Longine泉田良輔

Longine(ロンジン)編集部より

Longineでは、個人投資家の皆様に、事業会社についての理解を深めていただくために企業経営者にインタビューをする企画、「トップマネジメントに訊く」を立ち上げました。インタビュー内容は、先日リニューアルいたしましたLongineの「トップニュース」のコンテンツとして、どなたでも無料でお読みいただけるようにいたしました。ご参考になれば幸いです。

今回のトップインタビューは、Longine読者をはじめとする個人投資家の皆様の「企業の事業戦略やビジネスモデルをもっと理解したい」というご意見をもとに企画をしました。一方で、事業会社もじっくり事業戦略やビジネスモデルを語りたいというニーズがございます。Longineでは今後もこうした情報のミスマッチを埋めていけるよう事業を展開していきます。

株式会社コロプラ 取締役 CSO 長谷部潤 × Longine 泉田良輔

第1回としまして、現在スマホゲームで注目されている株式会社コロプラ様に取材に応じていただきました。CSO(最高戦略責任者)である長谷部潤氏は元大和総研のメディア・インターネットセクターアナリストです。現在は前職の知見を活かし、同社の経営をデータ解析に基づく意思決定ができるように運用されています。こうした経営の背景を意識していただきながら読んでいただけるとより同社の競争優位への理解が深まると思います。尚、この最終取材は2013年11月18日に行われたものです。

泉田:長谷部さん、2013年9月期決算はすばらしい決算でしたね。おめでとうございます。

長谷部:ありがとうございます。私たちもびっくり!でした(笑)

泉田:2014年9月期の御社による業績予想も売上・営業利益もいずれも倍増計画ですが、事業が絶好調である背景や経営戦略を踏み込んで教えてください。よろしくおねがいします。

1. あらためてコロプラ社について

◆コロプラ社のゲームについて

泉田:はじめにコロプラ社のゲームの特徴を教えていただけないでしょうか。

長谷部:主にスマートフォン向けにゲームアプリを数多く提供しています。定義はやや曖昧なのですが、いわゆるネイティブアプリと呼ばれるものが多くを占めています。提供アプリ総数は、今では60タイトルを超えていますが、それぞれは以下の三つに分類することができます。

  • 【Kuma the Bear(クマザベア)アプリ】:集客用のネイティブアプリです。50を超えるタイトル数を提供しています。いずれもライトゲームであり手軽に遊べることが特徴です。まずはクマザベアのライトゲームで遊んでもらい、その後、オンラインアプリ(次に説明)へと移行してもらうことを目指しています。
  • 【オンラインアプリ】:収益用のネイティブアプリです。現在9タイトルを提供しています。しっかりと作り込まれたゲーム設計となっており、ライトユーザからヘビーユーザまで幅広い層に満足いただけることを目指しています。テレビCMによって皆様に良く知られております「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」はここに分類されます。
  • 【コロプラプラットフォームアプリ】:創業時より提供している位置ゲーを軸に2010年にプラットフォーム化した「コロプラ」に展開している位置ゲーアプリです。自社アプリである内製アプリとサードパーティアプリであるLAP(Location based Application Provider)アプリとの二つに分けることができます。

◆コロプラ社のゲーム事業が成功している理由とは

泉田:オンラインアプリである「黒猫のウィズ」が大ヒットしていますよね。コロプラ社のゲーム事業がうまくいっている背景を教えてください。

長谷部:本当に細かなことの積み上げで、正直これが決定打といえるものはないと思っています。あえて申すならば、データ解析とアプリをポートフォリオとして運用するという考え方が全社に浸透した結果が、最近の数字に表れてきているのではないかと考えています。

泉田:さらに詳しくお願いします。

長谷部:ゲームはどの時代でも「切り拓き役」としてのソフトまたはアプリが存在します。「ビッグバンの火付け役」といっても良いかも知れません。古い話ですが、ファミコンですと1985年登場の「スーパーマリオブラザーズ」がそれに当たります。ギネスにも「世界一売れたゲーム」として登録されているほどです。マリオが登場する前年である84年のファミコン国内出荷台数は165万台ほどですが、85年には一気に374万台と急拡大しています。切り拓き役の登場で、一気に端末さえもが急拡大したと言うことです。

泉田:これが今も続いているということですね。

長谷部:その通りです。ソーシャルゲームは、2007年から始まりましたが、ビッグバンが起きたのは2009年登場の「怪盗ロワイヤル」がきっかけです。そして、今回のスマホネイティブ爆発のきっかけは「パズドラ」です。一気に当たるコンテンツが出ないと、端末やインフラも同様に主力になることは難しいのです。逆にそうした切り拓き役が登場しさえすれば、端末数やインフラ利用者数にビッグバンが起こり、急激な広がりへと至ります。最初の切り拓き役たるアプリを作るには、天才的なひらめきや運など偶然性がその多くを支配しますが、ビッグバン以降であれば、地道な努力や緻密な分析により人為的に成功確率を高めることが可能になると考えています。偶然を必然に変えてゆけるかが大きなポイントになるということです。

泉田:ビッグヒットタイトルが出る前と出た後とでは攻め方や戦略は変わってくるということですね。

長谷部:その通りです。ビッグヒットが出た後は、市場が大きく変化します。市場ボリュームも格段に増えています。そうなると、どうやって面を取るかを考えなくてはなりません。長い一本の槍で攻めるよりも、二刀流・三刀流さらには弓矢や鉄砲など組合せで攻める方が良いということです。私は証券アナリスト出身ですが、ファンドの世界でも複数の銘柄に投資した方が、同じパフォーマンスを実現するにしてもリスクはより低くなります。ゲームの世界でも同様です。より多くのアプリを用意し、効率的に組み合わせて提供することが必要ということになります。それが偶然から必然への成立要件なのです。

2. コロプラ社にとってのゲームの重要性

◆ゲームは最強の集客手法かつ収益モデルである

泉田:オンラインアプリである「黒猫のウィズ」のクイズというジャンルはすそ野が広いなぁと感じています。コロプラ社はこの後も、ゲームで新しいジャンルを開拓して伸び続けていこうとされているのか、それともゲーム以外の施策もお考えであるのか教えてください。

長谷部:両方です。以前のようにゲームを専用端末機のみで遊ぶような状況ならば、ゲームというジャンル内での拡大を考えれば十分かと思いますが、スマートフォンという言わば真の意味でのパーソナルコンピュータ上で展開される今日、ゲームを主軸にそれ以外の分野にも目を向けていく必要があると考えています。スマホで利用するのはゲームだけではないのですからね。

泉田:具体的なイメージはありますか?

長谷部:2000年代前半の「ポータルサービス」をイメージしています。誤解のないように申し上げますと、私たちはポータルを目指しているわけではありません。ポータルの事業構造を参考にしているということです。ポータルは、集客モデルとしては当時最強のモデルでした。しかし、ポータルそのものは収益モデルではありません。トラフィックを集めるだけです。ポータルにさまざまな収益モデルを組み込むことで、トラフィックをどのように収益化していくかが重要でした。EC、広告、オークション、金融など多くの収益モデルが組み込まれ、活用されてきました。そして、収益モデルの複層化・重畳化に成功した企業がインターネット企業としてコングロマリット(複合企業体)となり、現時点においても業界を主導しているのです。ヤフー、楽天、さらに価格コム、サイバーエージェントといった企業群です。入口がポータルでない企業もありますが、私が強調したいのは、強い集客モデルと複数の収益モデルとを最適ポートフォリオで組み合わせることが重要である、ということなのです。

泉田:そうなりますと、これまでのポータルを運営していた企業のモデルと比較して、ゲームはどのような位置付けなのでしょうか。

長谷部:2010年以降、最もポピュラーな集客モデルは何かというと、それはゲームだと考えています。ただ、ゲームはポータルと決定的に違う点があります。それは――集客モデルであると同時に収益モデルである――ということです。多くのゲーム事業者がゲームだけで安穏としてしまっているのは、ゲームだけで集客と収益の両方が成り立っているからです。一つの事業の方が、採算性も高いですしね。一方で、弊社はアプリをポートフォリオ化すると当時に、収益モデルもポートフォリオ化したいと考えています。ゲームをコアとしたコングロマリット(複合企業体)を形成したい、ということです。なので、ゲームの周辺部分については当然ながら色々な目線を持って施策を練っているところです。弊社の社是は”Entertainment in Real life”です。エンターテイメントを基軸にリアルライフ、つまり皆様の普段の生活・日常に対しを様々なサービスを提供していきたいと考えています。

    3. コロプラ社は経営にデータ解析を導入して何が変わったのか

◆データ解析を経営に持ち込む

泉田:長谷部さんがコロプラに参画されて、最初にどのような点に一番注力されましたか。

長谷部:最初に注力したのはとにもかくにも「皆さん、数字を見ましょう」というものです。転職当時のコロプラはまだ設立2年目です。KPI(重要業績評価指標)どころか売上高すらそれほど気にしない、ゆったりとした空気感でした。社風としては良い雰囲気でしたので、それはそれとして残しつつ、社員の皆さんが数字を意識してくれるように徐々に社内の意識を変えていったという感じです。当然、反発もありましたので、経営企画部門の数字分析に長けた人間を開発部門に常駐させて、夜はお互い飲みに行ってもらうなど、今思うと結構地道なことをしてきました(笑)。その後、KPIを自動で収集し、アプリ関係者が自ら分析できるツールを作ったりするなどして、今では何するにしてもデータで見て判断するという姿勢が全社に浸透したと思っています。あんなデータはないか、こんな分析はできないか、新しいKPIを考えたのだけど…、など経営企画部門にある分析チームとゲーム開発部門とが毎日のように丁丁発止良い感じでやりあっています。

泉田:まさにアナリストと経営者のハイブリッドといったところですね。データで判断するプロセスをさらに具体的に教えてください。

長谷部:新規アプリを立ち上げる場合で申しますと、立上げ前そして立ち上げた後、ともにデータで検証します。立ち上げ前であれば、人口動態やスマホ普及率といったファンダメンタルや業界データを見ます。立ち上げ後であれば、ユーザの利用状況を様々なシーンでアイテマイズ化し、それぞれデータ解析を行っています。ダウンロード後にどこでドロップしてしまうのか、どこまで連続してステージを進めるのか、どこで課金するのか、何を購入するのか、などいわゆるパラメータと呼ばれるゲームチューニング用の係数を多角的なデータ分析によって判断します。以前はユーザの書き込みを読んでの定性的な判断が主でした。もちろん今でも書き込みは参考にしていますが、多くはデータに基づく定量的なアクションに変えています。

泉田:分析項目の多くはKPI分析という理解でよいでしょうか。

長谷部:日常的な分析ではその通りです。UU(ユニークユーザ数)やARPPU(課金者当り売上高)などは日次どころか時間当たりでチェックしています。ただKPIとして一般的に業界で言われている指標の他、さらに細かいデータで検証しています。実際には数十種類あります。また過去のデータ分析を今に活かすことのみならず、将来の予測推計も行っています。これはアプリ運営のみならず、広告出稿についても同様です。

泉田:広告に関してはどのような感じなのでしょう。

長谷部:どれだけ広告を打てばどれだけダウンロードがなされ、そのうちどれだけアクティブユーザが残り、課金ユーザとなり、広告出稿後の累計売上高がどの時期にいくらになるか、それこそ広告出稿前に広告メニューと出稿金額さえ入力すれば、かなりの確率で予測できるところまで来ています。弊社は業界内では、売上に占める広告宣伝比率がかなり低く、直近開示四半期では4%台となっています。最近では「黒猫のウィズ」でテレビ広告も始めましたが、実はテレビ広告としてはさほど大きな金額ではありません。それでも約10日間で100万ダウンロードを獲得するペースが続いています。精緻な数理統計手法を駆使することで、テレビ広告でさえ安定的かつ効率的な出稿が実現できていると考えています。テレビ広告が主力になっても、売上高に占める広告宣伝費が通期で10%を超えることはないようにしたいと考えています。チャンスと判断すれば、別ですけどね(笑)。

泉田:データを活用することで広告の無駄打ちがなくなったと認識されたのはどの時点でしょうか。

長谷部:分析手法が確立してきたのが転職して1年後の2011年の夏頃、それを元に運用改善につなげられたのがその年の暮れ頃でしょうか。とはいえ、当時はフィーチャーフォン(ガラケー)向けの広告が中心でした。スマホが出始めの頃は正直苦労しました。そもそもスマホ用の広告メニュー自体がなかったですからね。それもあって自社で集客用のクマザベアを立ち上げたりもしたわけです。一方で、スマホが出始めた当初から、代理店さんと一緒になってスマホ広告の手法や分析に関する研究ができたのはラッキーでした。業界内でも相当に先んじることができたのではないでしょうか。広告に関するアドバンテージが、「秘宝探偵」や「プロ野球PRIDE」のロケットスタートにつながったと思っています。

4. アプリをポートフォリオで管理するとは

◆アプリ・ポートフォリオを管理するという考え方

泉田:アプリのポートフォリオ管理について詳しくお聞かせください。

長谷部:ソーシャルゲーム以降、モバイル端末向けのゲームアプリの多くは、アプリ運営を通じて収益を得ます。ソフトを販売して収益を得るゲーム専用機向けアプリとは違い、リリースした後が勝負なのです。継続して複数のアプリを運営することを考えれば、それぞれを最適に組み合わせるアプリ・ポートフォリオという概念が重要となってきます。シンプルな例で説明すると、似たようなゲームアプリが、似たような時期にリリースされ並行してサービスされていたら、大変不合理ですよね。ジャンルをきれいに分散化し、その時の状況を分析して、投入ジャンルの順番を決めるなどしています。他にも、例えばKPIに軸足を置いて分散化を図ったりもしています。高ARPPUで低課金率のアプリを出した次には、低ARPPUで高課金率のアプリを出すなどは、分かりやすい例かもしれません。一般にゲーム会社で開発している人はその時にヒットしている方向に行きがちです。これをポートフォリオで一括管理しリスク分散を徹底、最適解を求める、ということです。そういった意味では、金融の世界と変わらないかもしれません。証券分析で良く言われる効率的フロンティアと同じ考え方ですからね(笑)。

◆コロプラ社はこれまでアプリ・ポートフォリオをどのように運用してきたか

泉田:コロプラ社のコンテンツを例にアプリ・ポートフォリオについて具体的にご説明いただけますでしょうか。

長谷部: 先ほど述べましたデータ解析とも絡むのですが、アプリの立ち上げ前にどういうポートフォリオ思想に基づいてリリースに関する戦略設計してきたのかについてお話ししたいと思います。オンラインアプリの第一号である「秘宝探偵」ですが、こちらを開発し始めたのは2011年秋頃となります。その頃のスマホの普及率はまだ10%台でした。いわゆるイノベーター理論でいうところの、イノベーター層とアーリーアダプター層といったガジェット好きで先端を行くような人々のみで占められている時代です。そういったユーザ層に刺さるゲームは…と考えた結果、思いっきりカードバトルにしました。キャラクターもいかにもゲーム好きに受けるオリジナルデザインで描かれています。

次いで、2012年4月に「プロ野球PRIDE」をリリースしました。スマホの普及率も20%を超えてきた頃です。普及率の高まりを鑑み、間口は広げるべきと考え、ゲームモチーフをマジョリティ層にも受けるプロ野球としたのです。普及率は高まりましたが、課金にまで至るユーザはデータの上でもまだゲーム好きな層に限られていたので基本的なゲーム設計は、「秘宝探偵」を活用しています。

2012年12月の「ディズニー・マジシャンズ・クロニクル」はタイトルにもありますが、世界で最もポピュラーなキャラクターであるディズニーがモチーフです。ゲーム設計もトランプで勝つと敵を倒せるという分かりやすい内容でした。普及率も30%を超えてきていましたから、モチーフもゲーム設計も一般受けする方向に振りました。アクティブユーザは相応に獲得できたのですが、ユーザが女性や子供に偏り過ぎてしまい、課金率やARPPUという面では、ちょっと早かったかなと思っています。

こうしたことを踏まえ、2013年3月、満を持して「クイズRPG 黒猫のウィズ」のリリースとなります。クイズを解けば敵を倒し、かつカードバトルの要素もこれまでになく分かりやすい設計としています。普及率も40%を超えていましたし、ネイティブアプリ市場を切り拓くようなアプリも他社より出ていましたので、これまでになく一般層を意識した作りとなっています。KPI的に見ても、高課金率・低ARPPUであることから、薄く広く課金されていることが分かります。データの上からもまさにマジョリティに受け入れられたと考えています。

5.スマホ向けゲーム会社は今後どのような方向に進むのかスマホ向けゲーム会社は今後誰と競合していくのか

泉田:スマホ向けゲーム会社とこれまでゲーム専用機端末業界をリードしてきたゲーム会社とは今後どのように競合していくのでしょうか。

長谷部:大手ゲーム会社とスマホ向けゲーム会社との比較論はいつもながらあります。しかし、中長期的にはそういうくくりはなくなるのかなと思っています。私が証券会社に入ったばかりの90年前半においても、ゲーム会社は出自で分けられていたように記憶しています。アーケード系、玩具系、新興ファミコン系、といった感じです。しかし、今ではそういった分け方は滅多に見ることはありません。いずれも大手ゲームメーカーという呼称でまとめられています。今の私たちは、大手ゲーム事業者とは分けてカテゴライズされていますが、時間が経てば横一直線で見られるのではないかと考えています。そうした同じカテゴリ、同じ土俵の上で、それぞれがライバル企業として競合してゆくのではないかと思っています。

◆ゲームのインフラはどのように変わるのか

泉田:その前提に立つとすれば、今後ゲーム業界はどのように変わっていくのでしょうか。

長谷部:ゲームインフラとして、今後さらにスマホが主流になってゆくのではないかと見ています。ポータブルゲームは言うに及びませんが、テレビ画面で遊ぶことが前提の据え置き型向けゲームについても、スマホが主流になると考えています。例えば、ゲーム画面はテレビの大画面を使うものの、それ以外は全てスマホがカバーできるだろうと予想しています。すなわち、ゲームのダウンロード回線、ゲームプログラムの格納場所、ゲームを処理するCPU、ゲームを操作するインターフェイス、こられは全てスマホでカバーできるようになると思います。一方でグーグルグラスのように、これまで予想もしていなかった端末が主流になることも考えられます。ゲーム事業者としては、いち早く主流になるかもしれないインフラや端末を予見し、それらに対し他社よりも先により楽しいゲームを提供できるかが勝負だと思っています。

◆ハードウエアから見る長期でのスマホ向けゲームの変化

泉田:私はハードウエアが変化することでユーザ体験が替わると考えています。たとえば、任天堂は過去30年間に3回のイノベーションを起こしていますが、それは「十字ボタン」、「タッチパネル」、「モーションコントローラ」というようにハードウエアの入力インターフェイスが変化したことによるものです。ユーザインターフェイスが変わらないと新しいゲームをしている感覚になりません。その点スマートフォンは入力インターフェイスに変化がなく飽きられるのではと危惧していますが、その点はどうでしょうか。

長谷部:入力インターフェイスに変化がないのであれば、飽きられる可能性はあります。しかし、依然としてゲーム会社はスマホのスペックを生かしきれていないと考えています。私はよくNintendo DSが出たときのこを思い出して欲しいと言っています。当初のDS向けのソフトは十字ボタンでも動かすことができました。そこに「脳トレ」が出て、みんな驚いたのです。アミダで線を引いたり、正解を丸で囲んだり、更には文字をそのまま書くなど、ペン入力を本当の意味で活かしたソフトだったからです。DS一つとってみても、ペンというDSならではのインターフェイスを活かすまでに、結構時間がかかったと考えています。スマホもウェブアプリからネイティブアプリへとシフトしてゆくに従い、徐々にスマホならではのインターフェイスを活かしたアプリが出てきました。「パズドラ」では、皆さん、パズルを普通にニュルニュルと動かして遊ばれていますが、あれはスマホとしては画期的な動きなのです。逆にゲーム専用機であれば普通の動きです。ゲーム専用機の普通をスマホの普通にしてしまったことが、パズドラのすごい点なのです。ただ言い換えれば、スマホアプリは、まだまだそうした駆け出しの時期に過ぎないとも言えるわけです。

◆スマホにおける入力インターフェイス以外の工夫とは

泉田:スマホでのゲームのポテンシャルは入力インターフェイスの工夫だけでしょうか。他にあれば教えてください。

長谷部:改めてスマホは24時間肌身離さず持ち歩く真の意味でのパーソナルコンピュータであることを認識すべきだと考えています。ポータブルゲーム機もいつも持ち歩けるよ、とおっしゃる方もいるかもしれません。決定的な差異は、二つあります。一つは繰り返しになりますが、ゲームだけなのかゲーム以外のアプリもあるかの違い。もう一つは、情報の入力およびデータストックに寄与できるか否かの違いです。ゲーム専用機はゲーム操作というインプットはあるものの、本質的にはゲーム画面をアウトプットして楽しむだけの存在です。一方で、スマホはアウトプットを楽しむだけでなく、様々な情報をインプットしてそれらをストックすることにも価値を見いだせる存在です。この二つの違いをしっかりと咀嚼したうえで、事業戦略を組み立てる必要があると確信しています。これ以上お話しすると、弊社の戦略の根っこが分かってしまうので、ここで止めておきますが、ま、そういうことです(笑)。

◆「プラットフォームは成功したその日からレガシー化が始まる」by長谷部潤

泉田:ゲームのプラットフォーム化についてはどのようにお考えでしょうか。

長谷部:プラットフォームとして成功した以上、当り前ですが、それを継続していかなくてはなりません。任天堂のようなハードウエア会社であればハードウエアの移行リスクはありますが、同時に刷新の際には、皆が一斉に買い換えてくれる可能性もかなり高いわけです。新製品が魅力的であればあるほど移行はスムースとなります。またハードウエアは参入障壁にもなります。彼らがプラットフォーム化を目指したのには相応の理由があると思っています。しかし、インターネットの世界は別だと考えています。プラットフォームサービスのドラスティックな刷新は難しいどころか、ほぼ確実に不可能と言えます。ユーザの多くは変化を嫌うからです。ミクシィの「足あと」一つ取って見ても分かるかと思います。一方で参入障壁は低いのでどんどん革新的で新奇な類似サービスやプラットフォームが出てきます。ツイッターやフェイスブックがあっという間にソーシャルサービスの主流となり、そしてそれらは既にラインに取って代わられている状況です。インターネットサービスにおけるプラットフォームビジネスの成功は、成功したその日からレガシー化が始まると言っても過言ではないのです。

泉田:では、コロプラ社ではプラットフォームに対してはどのようなスタンスで経営をされているのでしょうか。

長谷部:まず一つ言えるのは、私たちがプラットフォーマーを志向することはないということです。位置ゲープラットフォームを運営はしていますが、いわゆる規模のプラットフォーマーを目指しているわけではありません。位置情報取得と不正利用防止等に関するファンクションの提供者としてのプラットフォーマーでありたいと思っています。一方でプラットフォームへのアプリ提供者という目線であれば、主力になりそうなプラットフォームにいち早くジョインすることだと思っています。ダメならまた別のプラットフォームを見つる、その繰り返しであるということです。大上段になりますが、人類におけるゲームのプレゼンスを鑑みれば、主力となるゲームプラットフォームが相当期間出現しないということはあり得ないと思っています。個々のプラットフォームの栄枯盛衰は当然あるものの、何かしら主力となるプラットフォームは出現するでしょうし、私たちはそれをいち早く見つけ出し、いち早く乗ることを目指したいと考えています。

泉田:でもそれは相当インテリジェンスがないとだめですね。

長谷部:その意味では、現在コンソールゲーム機向けに生き残っている大手ゲームメーカーを私は大変尊敬しています。変化が激しく先の読みにくい家庭用ゲーム機というプラットフォームにおいて生き残り、相応のプレゼンスを維持していますからね。更にはソーシャルやスマホという新しいプラットフォームにも貪欲に挑んできています。

泉田:生き残ることがまずは重要ですからね。

長谷部:そうです。コロプラ社の上場時も、フェイスブックとジンガの例を挙げて、プラットフォームと一蓮托生ではダメでしょ、と繰り返し繰り返し投資家に対し主張しましたからね。ロードショー時のキャッチフレーズは「スマートフォンの拡大を『ピュアに』自社の成長へとつなげます」――でしたから(笑)。

泉田:今後コロプラ社が成長する中で開発のリソースはどの様に対応されるのでしょうか。

長谷部:人を採用して積み上げていくしかありません。M&Aも当然選択肢としてありますが、原則は採用です。そのリソースですが、開発リソースの効率的活用という目線では、弊社は他を圧倒していると自負しています。弊社社長の馬場はプロデューサーとエンジニアの役割を十分に理解している稀有な経営者です。ゆえにゲーム開発とゲーム運営の最適なリソース配分が、大変美しく実現できていると感じています。

泉田:数字にも表れているのですか。

長谷部:はい。業界内でも弊社は、新作アプリにかける開発人員数はかなり少なく、開発期間も明白に短いと考えています。その結果である開発費用も相対的に小さいものとなっています。これに冒頭からお話させて頂いております、アプリ・ポートフォリオなどデータ分析という経営思想が加わるわけです。高効率な開発手法と、高効率な運営思想のマッチングが、今のコロプラの業績数字を作り上げていると考えています。

泉田:長谷部さん、大変お忙しい中ありがとうございました。

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