日本のエンジニアは給与が低い。世界的にエンジニアの給与は上がっているが、その流れから日本で働くエンジニアは隔絶されているわけだ。最近ようやくファーウェイやサムスンなどの海外企業がエンジニア採用に高い給与を出すようになった。
まぁほぼ大前さんが書いているとおりではあるのだが、エンジニアの給料が上がらない理由は一つではない。経済産業省の「IT人材に関する各国比較調査 結果報告書(http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/27FY/ITjinzai_global.pdf)」を参考にして、理由を紐解いてみたい。
その1:日本の組織における問題
まず一つ目の理由は日本の組織における問題だ。下記のグラフを見ていただけるとわかるが、各国の年代別平均年収を比較したものだ。日本では見事なまでに右肩上がりの年収になっていることがわかる。アメリカやインドなど、大前さんが例で出している国は30代が高く、年齢を重ねると逆に低くなっている。中国も幅は小さいが似たような傾向にある。
さらに下記は学歴別の平均年収で、日本も緩やかではあるが学歴が高いほうが収入が高い。しかしアメリカや韓国、インドネシアなどは学歴が高いほど収入が高くなっている。特にアメリカは顕著に学歴と年収が結びついているし、韓国・インドネシアも博士課程の収入は日本以上になっている。
大前さんが言う高収入のエンジニアと言うのはいわゆる大学院卒、博士課程を修了している人材ということだろう。日本の場合は博士課程まで進んでも、さほど収入は上がらない。そのため魅力的に思われていないようで、日本で働くエンジニアは学位取得に関心がない。
年功序列なので専門学校・大学卒でもそれなりの収入を得られる。
⇒更に学位を取得しても収入はさほど上がらないので、博士課程などが少ない
⇒そのため先進的・高いレベルのエンジニアが生まれない
というように、日本の年功序列型賃金がレベルの高くないエンジニアを多く生む、負のスパイラルを産んでいるのではないだろうか。
その2:「でもしかエンジニア」がたくさん存在する?
「でもしか先生」という言葉を聞いたことがあるだろうか?高度経済成長の時代、教師が不足していたこともあり、特にやりたいことがなかったり、特別な技能を持たない人が多く教師という職に流れ込んできたのだ。「先生にでもなるか」「先生にしかなれない」などと言われていた。
どうも最近ではエンジニアもそのような傾向があるようだ。「でもしかエンジニア」とでも呼んだほうが良いだろうか。
下記のグラフは「この仕事は人気があると思いますか?という質問」だが、よく当てはまると答えた割合が日本は圧倒的に低い。アメリカでも8割がよく当てはまる・どちらかと言えば当てはまるを選んでいるのに、日本の場合は4割以下だ。
これについての理由としては下記にグラフが参考になる。日本はITの仕事が人気がある・つきたい人が多いという質問に「当てはまる」と答えた人が最も少ない。また実際に働いているエンジニアに「絶対に就職したいと思っていた」と答えた割合も最も少ない。まさに「でもしかエンジニア」だ。
さらに下記のグラフをご覧いただければ、仕事の充実感・やりがいが他国と比べて非常に低いことがわかる。さらに給与や報酬も日本と韓国の二国が満足していると答えている割合が少なく、満足していない割合が高い。
最後に労働時間も見てみると「労働時間」についても満足していない割合は高く、「仕事の成果に対する評価」についても不満を持っている労働者が多い事がわかる。
最初から望んでなったわけではないIT系の仕事なので、他の国に比べて満足感が低く、不満が多く見られるが日本のエンジニアなのだ。そのような状況で「よし、頑張って勉強しよう!」であるとか「頑張ってより良いエンジニアになろう!」などと思う人が多いとは到底思えない。
ちなみに下記は大学・専門学校でどういった内容を専攻していたかを表したモノだが、日本は圧倒的に情報工学系が少ない。社会科学や人文科学から就職したエンジニアも多く、専門性と仕事の結びつきが弱いと言えるだろう。
その3:エンジニアの定義が全く違う
おそらくこの3つ目が日本とアメリカ・インドなどの高収入エンジニアとの違いだと思うが、エンジニアについての定義や指している範囲が全然違うのだ。
下記のグラフを見ていただければわかるが、日本のエンジニアというのは主として「SE・プログラマー」を指している。しかしアメリカ・インドの高収入エンジニアが存在する国では「プロジェクトマネージャー」と答えた割合が最も高い。他にも「コンサルタント」や「IT技術スペシャリスト」と答えた割合が日本よりも高いのだ。
最初に紹介した記事では大前さんは下記の通り語っている。
国内に安住するエンジニアにも問題がある。日本の企業に就職して、下働きから始まってコーディング(プログラムを書くこと)経験ばかり延々積み上げた結果、40代になってもマネジメントができないエンジニアが多い。それでは給料は上がらないし、コーディングをやる人材なんてフィリピン辺りにごまんといるから、そのうち取って代わられる。エンジニアとして稼ぎたいなら海外に雄飛するべきなのだが、世界で活躍するには語学がパーフェクトでなければならない。
そう、つまり日本のシステムエンジニア・プログラマーの年収と、アメリカ・インドで活躍するプロジェクトマネージャー・コンサルタントと収入を比較しているのだ。日本でももちろんプロジェクトマネージャーやコンサルタントになることもできるが、上記のグラフの通り、その数は圧倒的に少ない。
日本もプロジェクトマネージャーやコンサルタントなど、技術者を使う側の人間が増えてくればエンジニアの収入は上がってくるだろう。エンジニアと呼ぶべきかどうかという問題はあるが、高収入エンジニアはコードを書くことを専門としないと推察できる。
日本のエンジニアが向かう道は2つある
以上のとおりだが、今後日本のエンジニアが向かう道は2つに分かれている。一つは大前さんが言うように「エンジニアを使う側」になることだ。アメリカ・インドのようにプロジェクトを回す側・コードを書かない側に回るという道だ。
もう一つは現在のコードを書く側を維持し続けるという方法だ。SE・PGでコードを書く側にずっといるという選択肢も日本型雇用の中では悪くはない。ただ、アメリカやインドの高収入エンジニアのようにはなれないので、それなりの収入でやっていくことになるだろう。
どちらの道に進むのが好ましいのだろうか、個々人が考えるべき時期なのかもしれない。