米津玄師のイメージって春画描いてる浮世絵師みたいな名前のとおり「スゴい気持ち悪いのに気持ち良い音楽作ってるド変態」だと思ってた。
個人的にそこまで好みの声質でもメロディでも歌詞でもないんだけど、気になる。「米津玄師」って名前が注目された頃から、ヤツの曲が流れるとどうしても無視できない、みたいな悔しさに似た感情があった。それこそ「気持ち悪い部分」っていうのは、エフェクターのせいなのかなんなのか、聴いてると不協和音みたいに感じる部分があるんだけど、米津玄師はそれを逆に利用して印象づけてたり、普通は「違和感」にしかならない音を「気持ち良い」に変換するのがメチャクチャ上手い。それはメロディだけじゃなくて、米津玄師のザラついた声もそうだし、「そのメロディにその言葉当てるか」っていうような歌詞だったりもそう。「好きだろうが、嫌いだろうが、嫌でも印象に残る音楽」ってイメージだった。
それを踏まえてこの『Lemon』はイメージに反して、全音「気持ち良い」に振り切っててビックリした。ドラマ『アンナチュラル』で流れてもしばらくは米津玄師だとわからないくらい声も歌詞もメロディも気持ち良さしかない。歌詞の内容は終始マイナスなのに体揺らしてクラップしながらリズム取りたくなる感じとか、聴いててちょっと嫉妬するくらい完璧。アニメ『僕らのヒーローアカデミア』の主題歌だった『ピースサイン』にも感じたように、米津玄師にしては不自然すぎるくらいわかりやすい「良い曲」。本当に「人が好むわかりやすく気持ち良い音」しか鳴ってない。Aメロの鳥の鳴き声「クエッ」ってスクラッチ音?なんかの超細かいところまで気持ち良い。
しかも、いくらなんでもタイアップにハマりすぎてません?ドラマの一番良い場面で「夢ならばどれほど良かったでしょう?」って無音から入るのズルすぎるだろ。あんなもん中堂さんでも泣くよ。石原さとみの口びるがレモンの匂い、みたいな感じになるじだろうが、ヨッネーズ…。4話で我が家坪倉が必死に届けたチーズケーキ残されたあたりでわんわん泣いた。おかしい。えっ、米津玄師ってこんな優等生なミュージシャンだったっけ、もっと変なヤツじゃなかった?
そう、結局一番なにがこわいかって、米津玄師って最初はアンダーグラウンド側のたぶん「知る人ぞ知る」みたいな立ち位置だったのに、それが地上に出てきて地上の人間向けにわかりやすい音楽をわかりやすくやってる。それがこわい。
だからこそ、『Lemon』を聴いてると「すごくてこわい」。めちゃめちゃ知識があって専門的な話もできるはずなのに魚知らない一般人向けに「ギョギョギョ〜〜〜!」とかってピエロ演じてるさかなクンさんがたまに見せる素のスンとしたあの感じ。(音楽的に)ロングコートの中は上半身裸にガータベルトのド変態なはずなのに、普通の顔して普通にミュージシャンやってる。『モニタリング』でプロスポーツ選手がジジイの格好して紛れ込むような違和感が米津玄師にも感じて俺はこわい。
ある意味、俺たちアホのために「手を抜いてる」とも言えると思ってて。それは決して音楽的に手を抜いてるんじゃなくて、元々の変態性と大衆性をうまくミックスさせて『Lemon』みたいな極上の作品として昇華させてる。だからこそ、コアな音楽好きも俺たちみたいなアホも唸らせるやり方を覚えた米津玄師が、これからもしアルバム曲とかカップリング曲じゃなくて、「ノンタイアップのシングル」でリミッター外して好き勝手したらバケモンみたいな曲作りそうでマジでこわいです。
米津玄師、こわい。(まんじゅうこわい的な意味で)