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「長期的に投資を続けていくなら、相場変動を受け入れていくしかない」 1月後半から米国発の株価下落に見舞われて、動揺する投資家の方がたくさんおられるようです。特に、この1、2年で投資を始めた方にとっては、初めての本格的な下落相場です。肝を冷やされている方が多いでしょう。
運用のプロとして私からアドバイスさせていただくとすれば、まず、株式相場では大暴騰も大暴落もよくあることだということをお伝えしたいと思います。もちろん、投資家にとって大暴騰は大歓迎だし、大暴落は歓迎できないことです。
しかし、大暴騰の恩恵だけを受けて、大暴落を回避するということは、どんなプロでも不可能です。投資を続けていくのであれば、それを受け入れていくしかないのです。
■歴史的大暴落も10年たてば以前の水準を上回る
リーマン・ショックのような歴史的な大暴落であっても10年もたてば、大暴落する以前をはるかに上回る株価水準になっています。それは米国株のみならず、欧州株もアジア株も日本株もすべてそうです。
銀行預金なら安心かもしれませんが、現状のゼロ金利が続けば増えることはほぼないでしょう。一方、株式は暴落のリスクを抱えているものの、増えていく可能性があります。株式の価値がゼロになることは、倒産しない限りあり得ません。
長期的に資産を増やしていくことができるのは、資産価値が下がってしまうことを受け入れられる人、ということです。
これは投資とは違う話になりますが、私は5年くらい前から苦手な胃カメラを克服しました。胃カメラはよく人間ドックで体験しますが、うまく飲み込めなかったのです。その秘密は何でしょう? 実はあるとき、気がついたのです。それは「あきらめる」ということです。胃カメラを飲むとき、そうするようにしました。「もう仕方がない、この状況を受け入れよう」と。
すると、あら不思議。体の力が抜けて、するすると胃カメラが飲み込めるようになったのです。きっと今までは無駄な力が入っていたのですね。もちろん、先生や看護師さんはいつも「力を抜いてください」とおっしゃるのですが、意識を集中するとむしろ力が入ってしまいます。力を抜く状態になるのは、かなり難しいのです。ところが、精神的に「あきらめる」と脱力につながるということがわかりました。
■相場の上がったり下がったりは自然なこと
マーケットも同じだと思います。相場下落は「気にするな」といっても、気になってしまうもの。私は下落が起きたときは、あらがうのではなく、あきらめることにしています。プロとして適切な行動を取ろうと一生懸命動きますが、相場の下落にあらがっても仕方がないのです。そのような大きな出来事に人間は逆らえません。
そもそも、相場が上がったり下がったりすることは自然なことです。人が呼吸をするのと同じでしょう。株価が変動しないともうけることはできません。株価の下落は息を吐くようなものなので、必要なことですらあります。
もし、どうしても不安で仕方がない、株式を売りたいと思ったら、まずは「その会社にどうして投資をしたのか」を考えてみましょう。例えば、半導体の需要が強くなるから半導体設備企業の株式に投資したのならば、今回の株価下落がその企業の活動に影響を与えるかどうかを予想します。仮に大きな影響があり、業績が悪化すると判断するなら、その企業の株式は売りでしょう。
しかし、ほとんど影響を及ぼさず、業績も堅調に推移するとみるなら、その企業の株式は売りどころか買うべきタイミングです。株価が急落すると慌てますが、冷静に考えればむしろ投資の好機ということも多いのです。それこそが、当コラムで私が繰り返し述べてきた長期投資の心構えといえます。
長期的な視点で物事を捉えることはとても重要です。私が運用をしている「ひふみ投信」で過去約9年間の運用期間に、基準価格が1日で5%以上下がった日は11日ありました。11回しかないのか、11回もあるのかは感じ方によって違うと思いますが、その確率はというと、営業日は2000日以上なので、わずか0.5%程度です。
暴落を恐れて株式投資をしなかったり、暴落したから株式を売ってしまったりするのは非常にもったいないと思います。
さて、この連載もはや2年たちました。当初はこれほど長く続けられるとは思っていませんでした。多くの読者の方から反響をいただき、励まされながら、何とか頑張ってこれました。名残惜しいのですが、今回でひとまず一区切りをつけさせていただきます。
■日本経済は長いトンネルを抜けていく
平成も今年で終わり、新しい元号が来年からスタートします。平成は経済的には苦しい時代でしたが、一方で、日本は戦争もなく平和でした。次の時代も望むことはまずは平和な社会です。そして、それを前提に、平成では見られなかった「成長する社会」を見たいと思っています。実際に日本が再成長する姿が私にはイメージできています。
日本経済は長いトンネルを抜けて明るい未来に突入していく兆しがあります。また私自身が投資家として、そのような明るい未来に貢献できるよう、さらに精進したいと思います。より多くの人たちに投資の魅力を感じていただき、長期投資の仲間がますます増えていくことを期待しています。
長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。
藤野英人さんの「プロのポートフォリオ」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。3月からは大和住銀投信投資顧問のシニア・ファンドマネージャー、苦瓜達郎さん、東京海上アセットマネジメントの運用戦略部長、平山賢一さんが執筆メンバーに加わります。
藤野英人
レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(当時)に入社。ジャーディンフレミング投資顧問(当時)とゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業。15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。
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