これまで2回にわたってお届けした深圳ルポでは、秋葉原の30倍もある「華強北」(ファーチアンベイ)で、近未来型の最新技術を駆使した商品が、「深圳速度」で中国及び世界に販売されていくこと、その裏で若い起業家たちが、明日のチャイニーズ・サクセス・ストーリーを求めて、日々鎬を削っていることなどを述べた。
⇒第1回【「無限の欲望の街」深センを視察して見えた、日本産業の暗い未来】
⇒第2回【巨大ベンチャー都市・深センで見えた中国IT企業の「アキレス腱」】
第3回目の今回のテーマは、スマホ決済と、その行き着く先である。
前回述べたように、深圳市の研究開発エリアである南山区には、「深圳ソフトウエア基地」の中に、「深圳湾創業広場」がある。18棟の高層ビルを含む3.6万㎡の地域で、最終的に完成したのは昨年である。
この広場に4500億元(1元≓16.7円)を準備し、新興のIT企業などを後押ししている。BATと呼ばれるバイドゥ(百度)、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)の「BIG3」を始め、「中国IT企業50強」が、すべて深圳湾創業広場にオフィスを構えている。
その中でも、ひときわ高く聳え立っているのが、完成したばかりのテンセント本社ビルである。
テンセントは、1998年に、深圳大学を出て間もない馬化騰(マーフアタン)が立ち上げたITサービス会社である。「中国版LINE」ことWeChatで大成功し、いまや10億人が日常で使用しており、WeChatがないと中国人の生活は成り立たないとまで言われる。昨年末時点での株式時価総額は、並み居る巨大国有企業を抑えて、中国企業でトップに立った。世界では6位つけている。
テンセントの課題は、収入の95%を中国国内に頼っていることと、ゲーム収入に頼っていることである。そのため、海外での買収や経営の多角化を加速している。
そんなテンセントは、2009年8月に、同じ南山区の高新科学技術園北区に、39階建ての本社ビルを建てている。北京の科学技術地区にあたる海淀区・中関村にも、北京の本部を構えている(https://v.qq.com/x/page/m0181u877va.html? で、5分ほどのビデオが見られる)
だが、すでに社員は4万1000人に達し、「世界のテンセント」となったため、再び新たな本社ビルを建てたのである。北京の中国中央テレビ(CCTV)本社ビルを髣髴させる、ブルーのガラス窓が眩しいツインタワーだ。
その新たなテンセント本社ビルの1階に、遊歩道に面してバイキングのレストラン「超級物種」があったので、入ってみた。
このレストランは、壁伝いに、日本のデパ地下のように、寿司やステーキ、海鮮などが山となって陳列されていた。客が気に入った料理を手に取って、中央部分にあるフリーのテーブル席について食べている。全部で100席近くあるが、昼時とあって、IT企業に勤める若者たちで賑わっていて、ほとんど空席がない。
レストランの店員に、一番人気のメニューを聞いたら、「あちらの寿司セットよ」と指さされた。行ってみると、サーモンの握りを中心にして、タコの握りとサラダ巻きがついて、計8貫で39元(約650円)だった。
その寿司セットのパックを持って、店内をうろうろしたが、レジ台が見当たらなかった。それで地元の若者たちがどうやって支払っているのか眺めたら、彼らは、パックにスマホを翳して、支払いを済ませていた。WeChat Payである。
何とこの店は、現金お断りのレストランだったのだ。