【サンパウロ=外山尚之】政情混乱が続く南米産油国のベネズエラは「ペトロ」を独自の仮想通貨として20日に発行すると発表した。米国の制裁で経済が困窮する同国は世界的な仮想通貨ブームに着目した。ただ、裏付けとする原油埋蔵などの信頼性に疑問が拭えず仮想通貨にあたらないとの指摘もある。また、米政府はペトロの取引自体が経済制裁に抵触すると警告している。
ベネズエラ政府が公開した「ホワイトペーパー」と呼ぶ事業計画書によると、ペトロは世界最大級の原油埋蔵を担保とし、売り出し価格はペトロ1単位あたり60ドル(約6400円)と、原油1バレルに相当する価値を持つ。発行上限は1億ペトロ。3月には仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)も実施し、海外から広く投資を募るとしている。
仮想通貨の規制に傾く国・地域もあるなか、ベネズエラが「仮想通貨」の発行に踏み切る背景には、米国の経済制裁がある。ベネズエラの対外債務は1300億ドル(約13兆8000億円)とされ、国債や国営石油会社の社債の利払いで財政は逼迫している。また、米制裁で債券発行などによる資金調達を封じられ、同国経済は食料配給すら滞る事態に陥っている。
マドゥロ政権の命綱である原油輸出は、設備投資を長年怠ったツケで生産量が低下。米国は原油の禁輸制裁も示唆する。原油埋蔵を元手に仮想通貨を介して外貨収入を得る狙いだ。
だが、もくろみ通りに進む可能性は低い。米財務省はペトロの取引に「法的リスクがある」と警告。経済制裁で禁じるベネズエラ政府との商取引にあたるとの見解を示した。主な仮想通貨の交換事業者がペトロを取り扱うかどうかは不明だ。
ベネズエラのモラ貿易・国際投資相は国営メディアを通じブラジルやカナダなど世界中の企業や投資家からペトロへの投資を望む声が来ていると主張するが、企業名などは明らかにしていない。
今回のペトロ発行でベネズエラ政府が得るのは約50億ドルとみられ、対外債務の1割に満たない。投資情報などを扱うサイト「インベストペディア」は「原油の裏付けはなく仮想通貨ではない」との専門家の見方を載せている。