夏季五輪より冬季五輪のほうがドーピングが少ないわけ
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夏季五輪より冬季五輪のほうがドーピングが少ないわけ

オリンピックとドーピング問題は切っても切れない関係か。

平昌(ピョンチャン)オリンピックが盛り上がりを見せていますが、ロシアが出ていないことお気づきでしょうか。ロシアの選手は「ロシア」という国名や国旗などを使わず、個人として「ロシアからのオリンピック選手」として出場しています。ロシアは国家ぐるみのドーピングをおこなったことで、平昌オリンピックに出られないことになってしまいました。

実はドーピングで出場禁止になる選手は、2016年のリオより今年の平昌のほうが少ないのです。そして2020年の東京オリンピックでのドーピング選手は、平昌より多くなるともうすでにわかっています。なぜかというと、夏季オリンピックのほうが冬季オリンピックよりドーピング数が多いと、これまでの数値によって明らかになっているからです。

1968年から2014年の記録から、夏季オリンピックのドーピング数は冬季より約2倍。夏季は0.44%(2万6900件のテスト中144件が陽性)、冬季は0.28%(7783件のテスト中22件が陽性)という結果

ドーピングの専門家にとって、これは驚きではない数字だそう。公式に学術的な調査がおこなわれたわけではありませんが、『Drug Games』の著者で、オリンピックにおけるドーピング問題に詳しいThomas Huntは、「なぜ夏季のほうがドーピング数が多くなるのかの理由を探るのは簡単だ」と話しています。

「夏季と冬季では経済効果がちがいます。夏のスポーツはよりお金を生み出します」とHuntは語っています。スポンサーは知名度の高いスポーツにつきやすいのです。陸上、体操、水泳など夏のスポーツのほうが知名度が高いスポーツが多いのが理由です。

スポーツ観戦者も夏と冬ではちがってきます。夏季オリンピックのほうが冬季よりも観戦される傾向にあります。国際オリンピック委員会によると、世界中で2016年のリオ夏季オリンピックをテレビ観戦した人は35億人。それに対し、2014年のソチ冬季オリンピックは21億人。オリンピックに参加する国にも夏と冬ではちがいがあります。ソチには89ヶ国が参加。リオは205ヶ国。夏のオリンピックのほうがより国際的なんですね。

ドーピングの歴史を研究しているJörg Kriegerは、夏季オリンピックに出る選手たちは、政府、スポンサー、メディアなど、より多くのプレッシャーの中にいると話しています。そういったプレッシャーにより、ドーピングをしてしまう選手がいるとのこと。

しかしKriegerは、「だからと言って冬季オリンピックにでる選手たちに対するドーピング検査が緩いと言うわけではない、むしろ逆だ」と述べています。「冬季オリンピックに出場する選手の数は夏季より少ない。ということは、自分がドーピング検査される確率が上がるということ」だそうです。すべての選手がドーピング検査を受けるわけではありません。抜き打ちで選ばれた選手が検査を受けます。

夏のスポーツは冬のスポーツより競技人口が多いため、より多くの競争を生みます。そこからオリンピック選手に選ばれ、さらにオリンピックで成功するという道のりが待っています。

「陸上とクロスカントリースキーを思い浮かべてください。陸上をやっている人のほうが多いですよね」とHunt。と言うことは、勝つ確率が低くなる、それを避けたい、ドーピングに手を染める、という推測ができるとKriegerは言います。

「冬季オリンピックスポーツの種目というのも関係があります」とKriegerは話します。というのも、一般的なドーピング薬であるステロイドなどは、夏のスポーツのパフォーマンスを上げる薬だからです。重量挙げ、陸上はオリンピックで1番ドーピングが起こっている種目。1968年から2010年までに重量挙げで36件、陸上で28件もドーピングが判明しています。

一方、Huntはそれが本当に夏季にドーピングが多い理由であるかは確かではないと言います。「冬季オリンピックの種目でもそれらの薬物から同じような効果を得られると私は思います」とのこと。たとえば、クロスカントリースキーの選手が、赤血球の数値が上がるエリトロポエチンを摂取すると耐久性が高まることがわかっています。クロスカントリースキーはオリンピックで3番目にドーピングが多い競技。1968年から2010年までで12件のドーピングが見つかっています。

もちろん、ドーピングした選手が自己申告しているわけではありません。うまく隠して逃れている選手もいるでしょうから、公式の数字は実際の数よりはかなり少ないはず。でも夏季と冬季のドーピング数のちがいは明らかです。Kreigerは「ドーピングしている人を全員捕まえられたとしても、夏のほうが多いでしょうね」と話しています。一生懸命練習して努力してきたので、勝ちたい気持ちはすごくわかりますが、薬で勝ってもうしろめたさが残るはず。ドラッグフリーな五輪になるといいですね。



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Nicole Wetsman - Gizmodo US[原文
(岩田リョウコ)