ようやく落ち着きそうな気配が見えてきたものの、まだ不安定で予断を許さない株式市場。しかし日経マネーが取材した腕利き投資家の中には、昨年暮れから今回の調整を予想し、下落時の対応を考えていた人もいた。彼の2018年の株式投資における攻め技、守り技について聞いてみよう。
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「今の相場のクライマックスはまだ先だろう。18年の前半は押し目はあっても大きく崩れるとはみていない」
17年11月末。喫茶店に姿を現した男はこう切り出した。仕事の傍ら、株式を中心に投資で築いた資産は約10億円。株水兵というハンドルネームを使って、ブログやツイッターで自身の投資手法や個別銘柄の考察などを発信してきた。
「株式投資を始めた頃から1~2年単位で投資法をころころと変えてきた」。一時はバリュー(割安)株投資が主体だったが、「割安さばかりを追求していると、株価が高くなったら、それが心地悪くて売ってしまう。それで大幅な上昇による利益を取り損ねて、歯がゆい思いをすることが多かった」。
そこでグロース(成長)株投資や、景気に業績や株価が左右されやすいシクリカル(循環)銘柄への投資などに手を広げてきた。17年は、バリュー株投資、中小型のグロース株投資、カタリスト(材料)株投資、大型株のスイングトレードなど複数の投資法を組み合わせて実践したという。
■強気でも守りを怠らない
類いまれなオールラウンダーだけに、相場の先行きに対して強気でも、攻撃一辺倒にはならない。下げ相場に転じる可能性も頭の片隅に置き、しっかりと防御も固める。長期保有を前提として購入したグロース銘柄は持ち続けながら、別の2つの異なる投資法を手掛ける方針だ。
一つは、流動性が高く、「売りたい時に買い手が付いてすぐに売れる」大型株の短期売買。上げ相場を追い風にこの投資で売却益を積み重ねていく作戦だ。
もう一つは、保有資産に対して割安な資産バリュー株の購入だ。こちらは、買値からさらに大きく下がる可能性の少ない銘柄を買い集めて、下げ相場に対して耐性の高いポートフォリオにしていくのが狙いである。
値下がりする可能性をできるだけ低くするため、割安なだけでなく価格の上昇につながりそうなカタリストがある銘柄や、中期経営計画で掲げた目標を達成しそうな銘柄を購入する。後者は「中計の目標達成が株価を押し上げるカタリストになる」と話す。
カタリストが発現して株価が上がったら売却し、別の銘柄を買い入れる。そうすることで、ポートフォリオの下げ相場に対する耐性を落とさずに維持していく。中計の目標を達成しそうな銘柄として購入したのが、九州を地盤にディスカウントストアを展開するミスターマックス・ホールディングス(東1・8203)。期待通りに大きく値上がりし、価格が700円を超えた時点で売却した。
一方、カタリストのある資産バリュー株として保有中なのが、一六堂(東1・3366)だ。首都圏と名古屋で「天地旬鮮 八吉」「のど黒屋」などの居酒屋チェーンを展開する同社は、東京建物(東1・8804)などが東京・八重洲に計画している再開発の対象エリアに本社ビルや複数の店舗を所有している。それらの売却が進展を見せて株価が大きく上昇したら、売却する予定だ。
■先の一手も既に考慮済み
このように投資法を変更していくだけにとどまらず、相場が大きく崩れた場合の対応策も既に練っている。「もし金利が上昇し、債券の利回りも高まってそれで儲かるようになったら、株は大きく下落する。その場合は、株は流動性の高い大型株で割安な銘柄だけにして、余った資金は不動産や債券など他の資産に振り向ける。現金のまま持つことはない」
株式相場がどのような状況になっても、現金のまま遊ばせずに投資で利益を追求する。株水兵さんをビリオネアにしたモチベーションが衰えることはなさそうだ。
(日経マネー 中野目純一)
[日経マネー2018年2月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)
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