LET’S THINK ABOUT FREESTYLE RAP BATTLES

和製ラップの第一人者いとうせいこうとダースレイダーが語る──日本語ラップの可能性とデモクラシー

テレビの深夜番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系列)が人気だ。番組のご意見番で審査委員のいとうせいこう氏と、自身がプレイヤーとして参戦するダースレイダー氏に人気の理由を訊き、日本語ラップの可能性を語ってもらった。

文・大前 至 イラスト・東海林巨樹
和製ラップの第一人者いとうせいこうとダースレイダーが語る──日本語ラップの可能性とデモクラシー

テレビ朝日系列の深夜番組「フリースタイルダンジョン」が盛り上がりを見せている。日本語ラップの第一人者であり、番組の審査委員を務めるいとうせいこう氏、自らもバトルに参戦するダースレイダー氏を招き、「なぜ、即興ラップバトルがブレイクしたのか?」をめぐって対談してもらった。

 対談場所は都内のホテル。集合時間の5分前に到着したいとうせいこう氏から遅れること20分、「降りるバス停を間違えまして、すいません!」と大汗をかきながらダースレイダー氏が登場した。「フリースタイルダンジョン」の共演者は、ふたりとも紅茶を注文、さっそく対話がはじまった。

バトルのガチ感がウケた

いとうせいこう(以下I:「フリースタイルダンジョン」が人気になったのは、テレビにガチ(=本気)なものがなくなったことが大きいかもしれない。どのチャンネルも予定調和だし、なんだか芸能界のヒエラルキーもあったりして視聴者はテレビに冷めちゃってるからね。「どうせ本当のことを言ってないんだろうな?」って。

ダースレイダー(以下D:アメリカはテレビがまだメディアとして機能していて自由に意見を述べる土壌が残っていますけど、日本の地上波はどんどん息苦しくなっている。

I:だからこそ、年上の人に「このクソ野郎!」とかラップで戦っている「フリースタイルダンジョン」のガチ感がウケたと思うんだよ。

D:僕がAbemaTVでやっている番組「NEWS RAP JAPAN」は、ニュースを好き勝手なラップで紹介するスタイルがウケています。地上波のニュース番組はコメンテーターが萎縮しているし、言いたいことも言えてないですよね。ある意味、日本のメディアに風穴を開ける突破口がラップなのかもしれません。

I:「フリースタイルダンジョン」みたいな番組がなかったら、どんだけテレビが息苦しいことになっていたかって思うよ。

D:いま若い子の”ラップ耳”や”ラップ脳”がすごく進化していて、10代の子たちから凄まじいラッパーが生まれる土壌ができています。もうラップは特別なものじゃない。子供たちがラップで韻を踏む行為をごく自然に身に付けていって、ボキャブラリーを増やしたらどうなるのか? 近い将来、日本語力自体が驚異的にパワーアップするのじゃないか、とすら思うんです。

I:哲学的な視点も啓蒙していかないといけないよね。薄っぺらなラップの技術だけを競うなんてもったいない。

D:テクニックだけを競うとギターの速弾き大会みたいになっちゃいますからね。技術と中身とのバランスを啓蒙するのは自分たちのようなおっさんの役割かなって思う。そもそも「ラップをやっています」っていうだけで、年の差も関係なくバトルが成立しちゃうのは、じつはすごく面白い現象なんですよね。

I:社会にとっては健全なことだよ。そもそも民主主義ってイギリスのパブから生まれたっていう人もいてさ、パンクスが普通の身なりのおじいさんと政治論争してたりする。フリースタイル・バトルって、そういった欧米の文化の上にあったものを取り入れているわけじゃん。

D:ところが日本は旧態依然とした考え方がいまでも入り込んだりする。フジロックで「音楽に政治を持ち込むな」って論争になりましたけど、誰かが「そんなことラップしちゃダメだ」なんて言いはじめたら、危険な兆候ですね。

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和製ラップの第一人者いとうせいこうとダースレイダーが語る──日本語ラップの可能性とデモクラシー
いまもっとも盛り上がっている即興ラップバトルが「KING OF KINGS」(「KING OF KINGS 2016 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL at ディファ有明」より「HI-KING aka TAKASE vs 崇勲」戦)。2017年までダースレイダーがプロデューサーとして運営に関わっていた。
和製ラップの第一人者いとうせいこうとダースレイダーが語る──日本語ラップの可能性とデモクラシー
東京・渋谷区には「ラップスクール」も誕生。「フリースタイルダンジョン」の2代目モンスターとして活躍するラッパーのACEも講師を務めている。
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名刺交換からスタートする点がユニークな「ビジネスマンラップトーナメント」は社会人主体のバトル。
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秀吉時代が和製ラップの起源?

Iそもそも日本には昔から歌(=和歌、短歌、漢詩)を詠む文化があって、豊臣秀吉の時代には、でっかい花見の場とかで即興で詠み合ってたわけです。これ、ちょっとしたフリースタイル・バトルでしょ。偉い人だろうが、乞食だろうが遊女だろうが、歌がうまければ誰でも参加できて、認められれば褒美をもらって悠々と帰っていく。それと同じで、フリースタイル・バトルは年功序列とか身分とか関係ないし、1対1だから下克上が簡単に起きうるからね。

D:たしかにラップは自由であるべきですけど、最後まで自分の言葉に責任を負わないといけない。どんなことを言っても試合が終わって判定が出たら、「お疲れさまでした」って握手をして全部チャラになる、という感覚の人もいる。一方で「先輩にたて突くんじゃねえぞ!」って締め付けすぎてもつまらない。勝つためなら何を言ってもいいのか? っていう問題もあります。

I:自分の言葉に対してどう責任をもつかは重要だよね。フリーダム・オブ・スピーチ(=表現の自由)は大事だけど、だったらヘイトもいいのか? って。俺はまったくそうは思わない。人種差別的なラップをしていたら、大きく減点する。自分の言葉に責任をもった上で、その人の生き方や考え方も含めて評価しているから。

D:これまでの人生を凝縮したものが最大限に発揮されているバトルの瞬間が、僕はすごく好きです。

I:感動するよね。ラッパーっていう生き方をステージで問うている。言葉で自分の人生を表現する、それこそがラッパーだから。

D:年功序列だとか、キャリア何年っていうのは関係なくなる。同じビートの上で、同じ尺で、自分を表現する。平等に与えられた権利ですから。

Iそれって素晴らしいことだよ。まさに民主主義的。フリースタイル・バトルこそが現代のデモクラシーだね。


ダースレイダー
1977年パリ生まれ。東京大学中退。90年代後半よりラップを始め、2004年にインディーズレーベル「Da.Me.Records(通称ダメレコ)」を発足。10年に脳梗塞で倒れ、合併症で左目を失明。以後は眼帯がトレードマークに。昨年『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』を上梓。


いとうせいこう
1961年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、講談社に入社。85年には雑誌の企画「業界くん物語」から派生したアルバム内で、日本語ラップの先駆的作品「業界こんなもんだラップ」を発表。86年の退社後は作家、クリエーターとしてあらゆるジャンルで幅広い表現活動をおこなっている。

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