――加藤さんご自身も、平安時代の甲冑「大鎧」を研究、制作されています。特別な思い入れがあるのでしょうか?
「大鎧」は弓矢で戦う時代に発達した甲冑で、漆芸・板金・染色・組紐・皮革などの工芸技法の集大成ともいえます。革から金属まで、これだけ多岐にわたる甲冑は、世界中を見渡してもありません。なくしてしまったら日本の恥だという思いが強いんです。日本だけではなく、世界の損失になってしまうとすら思います。ですから、復元はもとより、現存している甲冑を修理するときにも、800年前の方法や素材を使わないといけないと思っています。新しい材料を使えば簡単に修復できるかもしれませんが、これまで守られてきたものが失われてしまう。さらに言えば、別の素材を用いたとして、これからの800年間、同じように維持できるか分からないわけですよね。
――だからこそ、当時の素材にこだわることが大事なんですね。加藤さんは加工もすべて手作業で行っているとか。
そうですね。革ひとつとっても、牛・馬・鹿・猫の4種類を使い分けますので、どこに何を使うか分かっていないといけません。なので、しっかりとした知識が必要になります。また、金具も平安時代のものは、それ以降のものと微妙に作りが異なるので、より再現性を高めるには外注よりも自分で彫金した方が望ましいんです。