ピエール瀧(50)とリリー・フランキー(54)。本業は別ながら、俳優として今や日本映画界に欠かせぬ顔となった2人は、長年の悪友であることでも知られる。
2人は、2013年にヒットした映画『凶悪』に続き、白石和彌監督の映画『サニー/32』(2月17日公開)で、再び犯罪者のコンビを演じている。
漂白された正しさが押し付けられ、寛容さが失われる時代。2人の関係を聞く中、出てきたのは「ダメ」を認めることだった。
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――2人が出会ったきっかけを教えていただけますか。
ピエール瀧(以下、瀧):そういえば、どこなんだろうなあ。
リリー・フランキー(以下、リリー):もともと顔見知りは顔見知りだったと思うんですよ。ラジオ局で会ったりとか、「シルキー」で会ったり。
瀧:ああ、歌舞伎町のキャバクラね。
リリー:でも、今のような関係になる以前、あんまり会っていない時から、俺は『人生』(電気グルーヴの前身バンド)のライブを見てたし、(石野)卓球くんにしても瀧にしても、アンダーグラウンドのところで近い人という認識は最初からあった。
瀧:同じ衛星軌道を巡回しているけれど、お互い進む速さが違うので、一瞬近づくときがあったりして。そこから衛星軌道が変わるんですけど、たまに近づくとまたいるねと。それを繰り返していくうちにどんどん純度が高まっていった感じなのかな。
リリー:最近は飲みに行くのは少なくなりましたね。先月、麻雀はしましたけど。
瀧:たまに会う感じになりましたね。
リリー:一緒の仕事もしてたから、その帰りに飲むくらい。あとはお互いの草野球チームで試合をしたり。最近はどんどん、お互いの仕事のタイミングが合わなくはなってはいますね。
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――映画『サニー/32』の撮影中はどうでしたか。
瀧:新潟のすごい閉鎖されたところで撮影していましたし「撮影終わったらあの店に集合ね」というのも一切なく。
リリー:店も全くないところで。コンビニしかない。
瀧:そのコンビニまでも車で10分かかるところだったので。その分、俳優陣の距離はぐっと縮まりましたね。
リリー:みんなで食べ物を分け与えるとか(笑)。コンビニで買った焼酎を、風呂入った後、深夜1時か2時くらいになってるんだけど、明日の撮影は10時からなんで瀧と2人で部屋呑みしたり。
あの時思ったのは、東京にいたら何の酒がうまいとか、あの店がいいとかなるけど、あんだけ何にもないとコンビニで買った焼酎とひまわりの種食いながら、これで十分じゃんとなる。
瀧:十分ですね。せっかく来たからあそこのあれ食べたいとか、あそこは行かなきゃねというのが一切なくなるんで。
リリー:なんか知らないけど、瀧がひまわりの種だけは持って来てて、それをリスみたいに食ってた(笑)
瀧:その時、ひまわりの種が自分の中のピークだったから(笑)。
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――真冬の新潟での撮影は過酷で、瀧さんは寒さで低血糖になったと伺いました。
瀧:白石監督の撮影はいつもハードな環境で、撮影スケジュール的にもだいたいみんな多少無理しなきゃ撮り終えられないことが多いんですけど、僕もリリーさんも時間に制限がある中、どうしても撮り終えなければいけないのが浜辺のシーン。
あまりの悪天候に普通だったら中止になるんですけど、横殴りの強風と雹が飛ぶ極寒の中、スタンバイしていたら血糖値が下がってきたんですね。
リリー:あそこで撮影していて本当に寒いのは気温じゃなく、風なんだなと痛感する。寒さでいうなら俺は無茶苦茶着てましたからね。ズボン5枚くらいはいていた。
そんな状況の中でペラペラな服を着ている(北原)里英ちゃんを見ている方が寒さを感じましたね。
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リリー:俺は白石監督とは『凶悪』以来だけど、瀧は『日悪』(映画『日本で一番悪い奴ら』)も出てるよね。
瀧:さっき言ったようにしんどい撮影もしてますし、撮影の環境としてはベストじゃないかもしれないけど、白石さんが映画を通して伝えたいもの、むき出しにしたいことは理解しているつもり。
最近の白石さんの作品は問題作とも言われ、さらに、どれも仕上がりが素晴らしいじゃないですか。撮りたいようにやりたいようにやってもらうのが一番だろうなと。
リリー:今回の映画はあんまりお客さんが来ないかもしれないという前提に撮られているところが、俺らにはよくて(笑)。だから撮影日数も少なくなるし、制作費も少なくなるし、撮影はきつくなる。
でも俺とか瀧とかが呼ばれるものが、変わったものだから、環境が劣悪なものになるのはしょうがない。
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――前回、白石監督とお二人が組んだ『凶悪』はヒットしました。今や映画界に欠かせない存在です。
リリー:最初に会った頃や、そのあとに一緒に飲んでいる頃には、20年後に一緒の映画に出てるなんて想像したこともなかった。
瀧:そうですね。しっかりしてないところで会うんだろうなって感じだったのが、表舞台のしっかりしたところで会うようになったので、そこは意外といえば意外。
リリー:『人生』の畳三郎だった瀧が、NHKの『64(ロクヨン)』で主演して、しかもそのドラマが賞を取るんだから。
瀧:文化庁ですからね(文化庁芸術祭 テレビ・ドラマ部門大賞)。
リリー:その下の優秀賞を受賞したのが、俺が主演した『洞窟おじさん』。俺らが変わっているんじゃなくて、世の中がおかしくなってると思うんですよ。
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――リリーさんはNHKの『あさイチ』でも、今回『サニー/32』の取材でも事あるごとに瀧さんのことを可愛いと言ってます。
リリー:そうなんですよ。前から「かわゆす」なんですよ。畳三郎のときからかわいいと思ってました。前は痩せていたけど。
――どのあたりが「かわゆす」なんですか。
リリー:それは里英ちゃんもさっき取材で言ってたんですけど、5歳児みたいなんですよ。子供が無条件に可愛いみたいなものです。
瀧:記者の人の頭にでっかいはてなマークが出て、キョトンとした顔してますけど(笑)。
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――瀧さんは可愛いと言われてうれしいですか。
瀧:かわいいとは違うけど、さすがに僕も齢50を超えると、年上のお兄さんから「瀧、ちょっとこっち来いよ」と言われることはあんまりないですよね。そういう人ってだんだん偉くなっちゃって、距離感も出るし、疎遠になる。
リリーさんは最初から今も変わらず「瀧、ご飯行こう」と言ってくれますし。そういうお兄さんはリリーさんくらいになった。
リリーさんの最初の印象はサブカル畑のダメな人ですよね。というか、サブカル畑の人はもれなくダメだったんです。
原稿を書いたり、イラストを描いたりする人もダメ。それを束ねようという編集者の連中もダメ。それを読んでいる読者の連中もダメっていう(笑)。
リリー:昔はダメなやつを集めて連載をもたせてやろうという、出版社にも気概があったよね。
瀧:そうそう。こいつ、ダメだけどここだけ光っているから、他のダメな部分には目をつぶって、ここだけはブラッシュアップしようという人たちがいたんです。けど、今は平均的に安全な人たちで構築していったりするじゃないですか。
ダメ人間はダメ人間なりに集まれば、ビックバンみたいなのが起きてたんですよね。リリーさんはそういうところにいる人。
リリー・フランキーという名前もそうだし、ああこの人は真面目じゃなく、世の中を若干ふざけつつ、うまいことサバイブして、サーフしていく人なんだなという感じだったんです。
だから、すごく上の世代にいてくれるとありがたいですね。「お前らはまだまだダメでいいぞ」という感じ(笑)。だって安心じゃないですか。若い頃ってそういう人がいると。
みんなちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃと思っている中「ダメでいい。むしろダメが足らん」みたいな。だから慌てずにすみましたね。
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――お二人は喧嘩したことはあるんですか。
リリー:ないですね。俺、瀧に対してムッとしたこともない。意外とこの人は真面目だから、人を嫌な気持ちにさせることはないんですよ。それは卓球も思ってると思う
――仏のようなんですね。
瀧:はい。でも、犯罪者の役ばっかりやってますけど(笑)。
リリー:意外と人殺しの役をしている人の方がちゃんとしていることが多いね。新井(浩文)くんとかね。
瀧:そうかもね(笑)。
――瀧さんは、リリーさんにムッとしたこととかはないんですか?
瀧:ないですね。そういう人ですからね。ダメなところが好きなんだし。
リリー:俺らが仲がよくなる時は、そいつのダメなところを好きになれるかどうかが大事ですね。
――先ほど、かつての雑誌文化はダメな人を生かしたというお話があったんですが、今の日本、特にネットの世界は社会的にダメなものを見つけると一斉に叩く風潮です。
リリー:昔はダメなやつらがエロ本の中でいくらダメなことを言っていても、あいつらはそういうやつだと、別の世界の話だとほっといてた。
今は何かダメなことがあると、寄ってたかって叩いてる。それはくだらない。表面のところだけは真面目ぶっているんだけど、中身がダメなやつの方が信頼できないじゃないですか。
瀧:俺らも周りもダメではあるんだかもしれないけど、底のところには真面目な部分のある奴らばかりだし、そういう奴が今も残っている。
リリー:大作だったり綺麗な映画ばっかりじゃなくて、儲からないと思うけど、こういう褒められない映画も観たい。
白石さんも、『日本で一番悪い奴ら』をやったり、蒼井優さんがやった『彼女がその名を知らない鳥たち』であったり、この後、役所広司さんの『孤狼の血』と大作が控える中で、この作品は監督と脚本の髙橋泉さんの中にある、2人がまだマイナーな頃のぐちゃぐちゃやっていたものを映像化したもの。こういうものがなくてはいけない。
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