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Darker Holic 作者:和砂

side2

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side2 悪役たちの日常5

ふふふ。とうとう一か月を切りました。
遅くなりましたが、また、ぼちぼちupしていきますーorz



「やっべぇ、遊びすぎた」



 9時を回った時計を見て、啓吾は呻く。

 いくら夜勤業務からの残業で頭が回っていないとはいえ、女の子のゴールデンタイム、魔女っ子シリーズの時間に差し掛かった事は、DH社員としては痛い。

 それまでにヒーローズとの対戦を終えるに限るのだが、今回は戦隊ヒーローの登場が遅すぎた。
 奴らも学生やっている身なので啓吾は同情もするが、それよりオーバーした分の短縮をエフェクト・編集班の職人はどう処理しているのだろうかが気がかりだった。


 その一方で、このまま屋上に立っていても切りがなく、啓吾は帰社するためワイヤー一式を片付けた。手慣れた様子で収納ケースに巻き取り、現場にやり残したことがないか再度チェックする。





 休日の早朝であり、人目につかない4・5階程度の高さであるが、全身黒尽くめの《シュートランス》の姿は目立つ。

 啓吾は悪役幹部であるため意地でも長いマントを外せないが、これからの移動は長距離走を兼ねており、本心ではせめて邪魔にならないよう紐で括っておきたいところだ。
 油断すると、すぐ標識やフェンス、電線に引っかかる難儀な代物を標準装備としておかなければならないことに、彼は一瞬だけ衣装担当の職人を恨んだ。



「Set、ha…!」



 陸上のスタートのように膝をつき、彼は一瞬の溜めの後、足を踏み出した。

 加速時の空気が圧縮される音が聞こえ、途端に彼の視界は全て、スローの景色に変わる。
 限りなく無音に近い空間に、彼は嬉々として屋上フェンスから隣接する民家の屋根に着地した。





 変な会社に勤めているとはいえ、啓吾は元から単なる一般人である。
 若い時に多少のやんちゃはしていたが、それも普通の人間の範囲に収まっていた。

 ところがDHに入社し、下っ端戦闘員として活躍していた時期に、不意にヒーロー達からの攻撃が受けられなくなった事から、彼の快適下っ端ライフから面倒な幹部業務への左遷が始まる。









 映像が映るエリアというのは、案外狭い。

 だが、アングルを考えて視野が広がるように展開する。
 それは、下っ端の注意すべき点であるが、《職人》と呼ばれる大ベテランの指示に従っていれば、そうそうヘマをすることはない。

 ヒーロー各自周辺を密に、外側を過疎に展開する下っ端達。

 彼らの間を分配するように、さらに散って対応するヒーロー戦隊。

 当時の啓吾は、今週は中央の密集部分の担当であり、ヒーローの前にいた。



『でえぇいっ!』



 掛け声と共に振り下ろされる得物。

 啓吾の一番大切な役目は、それを必ず当てられるようにして、且つすぐに動けるように致命的なダメージを回避し、「やられたー!」と体で表現しながらカメラの死角に転がる事である。

 振りあがった獲物を確認し、啓吾もタイミングを合わせて軽くのけ反って万歳した。



 ―――が、何時までたっても衝撃が来ない。



 不可解に思って薄く目を開けた視界で、ヒーローはあり得ない程ゆっくり得物を振り下ろしていた。

 タイミングを間違うなんて、初歩的なミスである。



 だがよく観察すると少しずつヒーローの顔が驚愕の表情になる事に気が付き、啓吾はそれを間抜けた気分で眺めた。啓吾は思わず身を起こしてヒーローを見つめる。





 気が抜けたと言っていい、その瞬間。



 スローな空間が解け、あっと思った時には受け身も覚悟も取らずに啓吾はやられていた。

 肩口からざっくり入る斧と同時に全身を走る電撃のような衝動が、啓吾をホームランボールのように弾き飛ばし、彼は転がる。

 半端ない痛みの中、啓吾は悲鳴を上げた。



『イィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』



 全力で「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」と叫んだが、悲しい事に仲間内だけは理解できて、ヒーローには「イィィっ」しか聞こえない。

 演技でなく本気で倒れた啓吾を庇い、他の下っ端が即座にヒーローに殺到する。

 すぐ近くには、啓吾の異常にいち早く気が付き、同時にやられたふりをする《職人》が、ナイスなタイミングで彼の傍に転がり寄ってきた。
 倒れた姿勢のまま職人が啓吾にコンタクトを送るが、啓吾は呻く事しか出来ない。



 全身タイツという笑える下っ端スーツは、現場のスタッフが致命傷を受けないよう改造された刃物を通さない最強素材のスーパースーツだが、その時ばかりは衝撃を全て吸収できなかった様だ。

 さらにきちんと受け身を取れなかったことで危険性が上がり、アクシデントに意識を失いかけた啓吾だったので、職人の判断と当時の幹部より怪人が早めに現場投入された。





 ―――その後、DH社での検査の結果、啓吾は特殊能力に目覚めている事が判明。
 なし崩しに幹部へとジョブチェンジさせられた。














 幹部に入る必須条件が特殊能力の開花であるが、普通はそれだけでチェンジできるわけではない。
 当時の幹部が引退を考えていたことが大きく関係していたようで、啓吾は今でも彼に小さな恨みがある。





 この特殊能力は、DH No.1である暗黒神に影響されて変化するという噂もある。

 だが、特殊能力が出現しただけ(まぁ、普通じゃないことは確かだが)で、啓吾に特別な変化はなかった。
 普通に飯を食うし、寝る。
 体が丈夫になったわけでもなく、インフルエンザにはかかるし、二日酔いだって今まで通りだ。





 啓吾の特殊能力の名は《瞬加速》。


 DH No.4《マッド》の言葉を借りると、一時的・部分的な身体強化によって、早く走れる、それだけ。

 脚の力が強くなるわけだからと思って、加速をつけて飛び跳ねてみたが、一般的な跳力を越えることはなく、悪役として活用(要するに無駄に華美に、格好良く登場)するには《瞬加速》を使ったまま、塀をよじ登らなければならない、便利か不便かわからない力だ。

 ただ、体を強化して使う以上、運動不足が著明な能力開花初期は地獄の筋肉痛に苦しめられたし、もう四捨五入すれば40にも届くというのに、アスリート並みに運動の欠かせない体になってしまっている。


 そんな能力の上手い活用法がワイヤーと能力のコラボ使用だが、なまじ車より早いだけに、発進時の周囲の確認と停止距離の確認不足は命に係わる。


 また他者から見れば、能力使用中の啓吾に追いつける者はなく、用があって呼び止める場合、DH支給の幹部標準装備であるデバイスでの通信が有効で、それ以外ははっきり言って不可能だ。





 もし、強引に止めるとするならば―――。





 風を切るより、風と成って走る啓吾だが、不意に肌が泡立つような気配(殺意)を感じて急停止をかけた。


 ぎぎぎと靴底がすれるのは、毎度の事。
 停止するかというところで反動によりマントが顔にかかり、彼は視界が消えた事で床へと転がった。

 が、運悪く、後頭部をしたたかにぶつけて、悶絶する。



「痛ぅ、ててててててっ…!!」



 一瞬、目の奥がフラッシュしたような感じに、脳への衝撃が心配された。

 啓吾が涙目になってしゃがみこんでいると、まさか彼と同じように屋根の上を走ってでも来たのか、近くで着地する音がした。
 どういう方法で来たにせよ、一般人というよりはDH関係者だろう。



「大丈夫か、《シュートランス》」



 多少申し訳なさそうな、聞き覚えのある声が降ってくる。
 打撲部分を圧迫して痛みを紛らわせている啓吾が顔を上げた。


 昇ってしまった朝日に輝くブロンドの髪に意思の強い緑の目。

 蘇芳のように背が高いわけでないが、標準的な体型にシンプルな私服。

 朝という爽やかさをさらに引き出す、好青年の姿。


 啓吾は、その声に殺意を混ぜた。



「死んでしまえっ」



 反射的に啓吾が呻いたとしても、誰も彼を責めないだろう。

 こんな好青年な格好をしているのに、業務時間以外は善良な市民でもある啓吾にあっさり殺気を向けるほど、こいつは腹黒だ。



 見た目は20代前半、しかし啓吾の一つ下の彼は、ずっと以前に啓吾がDHの仕事中に会った、元は反乱軍の勇士、現SRECの勇者だ。
 正義の味方にありがちな変な義務感やヒロイズムもなく、悪い奴ではないとわかっているのだが、どうしても以前の仕事中に起きた事故と因縁のせいで、啓吾は彼に深く付き合おうなんては思えない。


 それは啓吾に限ったことでなく、奴も同様な素振りをみせるが、そこは腐っても勇者。
 何とか話し合いによる友好と、元来の人嫌いを直そうとしている。
 大変立派な心がけであるが、あいつ絶対腹黒だと思う啓吾だ。



 そんな彼とのプライベートでの遭遇率は少ないが、時折、何気なく会う。

 なんせ奴は、DH本社と同次元にあるSREC社の社員だ。

 帰宅時間が重なれば、会社周辺の飲み屋なんて限られているし、高確率で会う。
 まぁ、悪役の会社であるDHと正義の味方の会社であるSRECは、なんとなく馬が合わない印象を互いが抱いているので、そうそう親しい話なんかしないけれども。


 多少交流のあるライバル社の勇者だからと言って、やっと残業終わったばかりの啓吾を途端に呼び止めたことに、彼は多少の違和感を受けた。

 だが、勇者のほうは気楽に声をかけきただけにも見える。



「酷いな。たまたま声をかけただけだろう」

「阿呆。てめぇ、こっちが能力使っている時に、声をかけるなんてあるかっ」

「ま、それもそうだな」



 元々現代の一般人である啓吾にとっては、高速道路での急ブレーキをしたように恐ろしいことだが、剣も魔法も使う勇者からすればどうということもないのだろう。
 彼に軽い調子で返されて、啓吾もそれ以上は強く言えない。
 渋い顔で再度唸ると、顔を上げた。



「で、何の用だ。SRECの古狸どもがまた何かしてきたのか」



 ついガラが悪くなるのは仕方がない。
 社会人とはいえ、相手は顔見知り以上友人以下という間柄で顔馴染みだ。



「脅すなよ。こっちもわざとじゃないのに。
 まぁ、そっちの懸念は今のところないって言っておこうかな。特に目立った動きもない」

「なら、なおさら、どうして…」



 啓吾がさらに先を続けようとしたとき、両者とも、場の空気が変化したのを感じて別方向へ避けた。

 反転して着地する啓吾が場所を確認すると、二人のいた場(赤レンガの小さなビルの平面屋根)のコンクリが割れる。

 小さな破片が飛んで来、啓吾はマントを翻して回避し、ここぞとばかりに活用した。
 しかし、残念なことに片手は先ほどぶつけた後頭部に置いている。痛いのだ。



「これは――――――…《ESP》?」 「《プラチナ》!?」



 不可視の衝撃を勇者が冷静に分析し、啓吾が上空へと視線を向ける。


 悪役と正義の味方は、バカと同類なので高いところを好むものだ。
 さらに、対する正義の味方の会社SRECの勇者が場にいるのだから、悪役の王道を踏むというもの。



 太陽光に紛れて人影が見えた。

 口にすると怒られるだろうが、触覚が広がるようにツインテールが靡いているのも確認する。
 詳細はわからないものの、たぶん、あれがプラチナだろう。



 と、さらに啓吾は回避して、横に走った。



 啓吾も一緒くたにして、次々と打ち込まれる不可視の念動力。



 勇者が危なげなく回避しつつ、対抗して聖剣を構えようとするのを確認。
 勇者の脅威をよく知っている啓吾は、プラチナを庇うために《瞬加速》を使ってそれを弾き飛ばす。


 プラチナの無差別攻撃以外にも啓吾は勇者と対峙するなど、場は混乱を見せていた。


 こんな街中で且つ勤務外にするのは、単なるSRECへの威嚇が目的だと思われるが、ESPで宙を飛べるプラチナが下りてくる気配もなく、このままここにいても、啓吾も危ない。



「次々と…御嬢さん方には困ったものだね」



 すれ違い様、そう勇者が足を止めたのに、啓吾は不思議そうに距離をとった。
 すると、タイミングを合わせたのか、ビル横のパイプラインからコードが広がり、伸びた。


 これは《ESP》での念動でなく、《感応力》。



「《キョウカ》!?」



 彼女は蘇芳が研修のために一時抜けた穴を補佐し、かつDHの仕事を進めるために異次元にある世界、DH分類でいうSFフィールドに居るはずである。
 いくら啓吾が時間オーバーしているからといって、DH幹部二人も来るだなんておかしすぎる。


 鏡花のコードはともかくとして、プラチナのESPの回避のために問いたくともできず、啓吾は勇者を狙うコードに巻き込まれないよう、彼らから距離をとった。


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