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Darker Holic 作者:和砂

side1

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side1 惑星侵攻7

☆今回、完全にラブコメです。
 ご都合主義的な男女が苦手な方は、即退避願います。
 それでもおkな方は、どうぞ。
 気を失った女を倉庫に放置しておくわけにもいかず、シグウィルは鏡花を抱きしめたまま途方に暮れた。このまま彼女の自室に連れて行くのが一番いいのだが、私室のロックなど彼には知りようがない。かと言って、同性の知り合いなど皆無であり、異種族である鏡花を預けようという気もおきない。
 眉をひそめて唸っていたシグウィルだが、数分後には諦めて彼の自室へ彼女を連れてきた。

 しばし寝所の床を貸して、彼女の体を横たえておくが目が覚める気配はない。
 数歩ほど離れた場所で胡坐をかいて待つが、ふと彼女の顔に目がとまった。顔色は落ち着いてきているが、未だ苦悶の表情が残る。

 シグウィルは先ほどの格納庫での出来事を思い返していた。

 あの光景は驚愕の一言に尽きる。柔らかいだろう女の腕に巻きついた硬質なコードが、細かく、まるで女に寄生するかのように蠢く様に、彼は戦慄した。
 鏡花が傭兵として阿修羅族に接触した後、シグウィルは人気のない時分に彼女の機体を調べた事があったが、その際には何の異変もなかった。その数度の確認の際、寄生するように動いたことなど一度もない。
 故に彼はその光景を異常事態と判断し、戦慄から突き動かされるままコードに手をかけた。

 だが、「そうではなかった」ようだ。



 ――――――――――あんた、殺す、気?



 鏡花の鮮烈な恐怖の目と共に、台詞が脳裏を過ぎる。
 起きておくには遅い時間であるし、仮眠の様に目を閉じて瞑想していたシグウィルだが、はっとして目を見開いた。

 涙目で見つめられた。
 その女は噂の傭兵でもなく、小生意気にシグウィルを睨む幹部でもなかった。その事に大変驚いた。
 No.3を近くで見るせいか、女など毒婦か何かだ(現にNo.3は叩きのめした後も、諦めが悪かった)と思っていたのだが、ファートに引き合わされた時といい、この間の妙に気落ちしていた時といい、現在こうして失神している状況も、この女には。



「…調子が狂う…」



 シグウィルは、ちらりと女の、鏡花の顔を見た。
 特別美しい女ではないが、漆黒の髪や丸い目は、磨かれた黒曜石のようで美しい。小柄だが、小賢しくも正論を言う時の覇気は自信に満ちていて、本来のそれより大きく見える。
 媚びるでなく、活き活きとしている彼女は、シグウィルも好ましく思っていた。

 だがシグウィルは、それが演技でないと言い切れるほど、自分の目に自信があるわけではない。だからこそ、彼は阿修羅族の同胞であろうとも、相手と距離を取ることを常としていた。
 しかし要領が良いので、立ち回りする彼は中立という風に見えるのである。

 それに、と、彼は思う。

 内容こそ傍受できていないものの、鏡花がこそこそと何処かと連絡を取り合っているのは調べているし、人族にあって阿修羅族もの能力を行使できる事といい、何かと謎が多い彼女だ。

 不自然に傭兵として現れ、幹部まで登りつめた。
 それなのに、日常での彼女は気配にも疎く、単なる女である。
 No.3以降の幹部らの罠にもかかりやすく、ファートが居た時は奴が、今は自分が、彼女に向く悪意の幾分かの壁になっている状況だ。
 一族を出て行ったファートへの単なる義理だったはずだが、もはやシグウィルにとっても習慣化してきて、彼女の素性を調べる名目ついでになりつつある。



「何者なんだ、貴様は―――…」



 胡坐の上で反対側へ頬杖をつきつつ、シグウィルは見当もつかないことを繰り返していた。


















「…ぅー…ん」



 頭に響くようにして大きく聞こえた自身の声に、鏡花はゆっくり目を開けた。
 何だか全身がだるくて動きにくいと、もそもそやっていた彼女だが、存外に暖かく良い気持ちだったため軽く首を動かして布団にもぐりこもうとする。

 窮屈なそれに強引に鼻頭をこすりつけていた鏡花だが、それがゆっくり振動していることに気がついてがっと目を見開いた。
 布団を弾き飛ばす勢いで上半身を起こし、戦いた表情で傍らに寝そべる人物を見下ろす。

 髪が乱れ、ゆっくりと顔が引きつっていく鏡花だが、髪に隠れた顔を恐る恐る確認しようと手を伸ばして何度か躊躇した後、結局できずにわなないて両手を掲げた。
 それでもそんなものを見なくとも寝そべるこれは男の体であるし、見慣れた長身であるし、もう間違えようもなく、シグウィルである。
 結局女らしい悲鳴を上げることも出来ずに、これからどうするかよりもどこに逃げ込めばよいのかを探して視線を彷徨わせた。

 だが、ふと流した視線を一点に引き戻した。
 鏡花が抜けた部分、布団を跳ね除けたせいかもしれないが冷気を帯び、シグウィルが微かに動いたのを見る。鏡花の思考は恐慌状態に近く、嫌々と、そうすればシグウィルが起きないとでもいうように首を振り、少しずつ後退した。
 同時に顔も上げていないシグウィルの太い腕が彼女の手を取る。



「ひ…っ」



 腕に感じたのは生暖かさだが、その現実的な感触に鏡花は息を呑む。
 息を詰めて声を殺す彼女の腕をゆっくり引きながら、シグウィルもまた上半身を起こし、顔にかかった髪をかき上げた。薄暈けた彼の目に引きつった顔の鏡花が映る。

 シグウィルはまるで弟と居る時のように、鏡花に対して柔らかく目を細め、空いた片手で頬から首の後ろに撫でる。
 細心の注意を持って触れられた感触にぞくりとして、鏡花は息が出来なくなり、お互いそのままの姿勢で数秒ほどじっと見詰め合ったままだった。
 だが、彼もまた何かしら違和感を感じたのだろう、鏡花と同時に弾かれたように飛び退いた。



「「……」」



 お互い肩で息をして、落ち着こうとしていた。
 妙に警戒したままゆっくりとシグウィルが息を呑み、鏡花を不可解そうに見つめる。
 かくいう鏡花も、赤くなったり青くなったりしていたが、何より困惑の表情を浮かべて彼を伺っていた。

 これまでの状況を整理したのか、シグウィルは鏡花が銅像のように動かないのを見ると、溜息を吐いて居心地悪そうに額に片手を当てた。



「…気分は?」



 低く漏れた声がシグウィルからと気がついて、鏡花は自失していた我を取り戻し、自分を抱きしめるようにしてさらに後ろに後退する。
 自衛する女の行動を見て、鏡花の妙な誤解を解こうと、慌ててシグウィルが前に四つ這いで出た。
 鏡花は戦いて、片手を伸ばして距離を保とうとする。
 鏡花の手が頬に当たりシグウィルは嫌そうにするが止まることはなく、強引に顔を動かして押しのけ、へたりこんで再び床に仰向けになった彼女を見下ろすようにして顔の両方に手をついた。



「…今にも猛獣に喰われそうな感じ」



 鏡花は先の質問の答えだろう、泣きそうに顔を歪めながら正直に答えた。
 シグウィルは彼女が声を発したことに安堵の表情を浮かべ、同じく身を投げ出すようにして鏡花の右側へと体を転げさせて仰向けになる。

 鏡花は目を点にしたように彼を眺めたが、そろそろと横向きになり、肘をついて上体を起こした。
 今気がついたが、鏡花は下着である白い着物様の装束しか身に着けておらず、それに一瞬だけ嫌な顔を浮かべる。
 また、視線の先のシグウィルも同様であることでもっと嫌な顔をした。



「……何処まで記憶がある?」



 こちらを見上げるシグウィルに、鏡花は片眉を不機嫌そうに上げてしばらく悩んだあと、視線を逸らしながら口を開いた。
 居心地の悪そうな鏡花をシグウィルは何をするでもなく眺めている。



「貴方に殺されるだろう場面」



 至極簡単に答えた鏡花に、シグウィルは憮然といった。



「害意を加えたわけではない」



 それでも痛みと嫌な感触だけははっきりしている鏡花はその言葉に疑いのまなざしを向け、彼に睨まれた。
 シグウィルは睨んだあと、やはり鏡花同様に身を起こして真顔で見つめ返す。



「お前は、何者だ」



 ふと息を飲み込んだ鏡花の視線が揺れる。
 シグウィルから逸らし、下方を彷徨うそれに、シグウィルは鏡花の頬に手を当てた。
 びっくりと顔を上げた鏡花に、シグウィルは不思議な視線を投げると何か言おうとするように小さく口を開く。

 言葉は結局でなかったが、先ほどの寝起きに見た、鏡花を慈しむかのような表情のシグウィルがフラッシュバックした。

 鏡花の失神を引き起こしたのが、シグウィル自身と彼が理解し、気を使われているのだろうか。
 否、組織No.2のシグウィルは、そんな男では断じてない。
 それでも気遣いに満ちた優しい動きだった。変に艶っぽくもある。
 疑問の表情を浮かべた鏡花だが、次第に首を後ろに引き、何となしに逃げの姿勢を取った。
 シグウィルが前に出る衣擦れと、肩を流れていく長めの髪の音に、鏡花ははっと顔を上げた。

 シグウィルの顔が近づいてきていると認識したのは、彼の目が、正確には赤味を帯びた灰色だと気がついたときだ。
 微妙な空気の流れに本能的に逃げようとしたのだと鏡花は思い至るが、手は寝床の限界、壁の際。



「…シグ、ウィル」



 何だか逃げられない気分になり、追い詰められた気分で彼の名を呼んだ鏡花。
 シグウィルはさらに距離を縮めようと片手を支えに前に出る。

 この人は、誰だ。

 彼の指が鏡花の手に触れ、手の甲まですっぽりと包んだ。
 体温の差があまりないことが余計に意識される。
 さらに片手が鏡花の顔に伸ばされ、鏡花は目の前が真っ赤になったと感じた。


 そのまま二人が近づこうとしたところでけたたましいアラーム音が鳴り響く。
 何てことはない、警戒サイレンが鳴っているだけの事で、とっくに部屋中が真っ赤に染まっていた。


 現実を認識して二人同時に真顔に戻り、光に赤く染まったお互いの顔を見て、ぱっと離れる。
 艦内に異常、それも上位幹部の自室まで知らせるほどのアラームは、敵襲に違いない。



「…え、なっ、何?」



 サイレンの音も聞き逃す程忘我していた状況も、現実に戻るといっそう滑稽だ。

 鏡花が顔を逸らして何となしに装束の襟元を正しながらシグウィルに声をかけると、彼も彼で髪を首から払いつつ曖昧に唸った。
 自分で自分の行動に首を捻っているシグウィルを横目で確認し、先ほどのは勘違いだったと、ある意味ほっと息をついた鏡花。

 いそいそと床から這い出ながら視線をずらすと、下に畳んであった黒いボディースーツを発見、身に着ける。

 恐らくシグウィルが畳んでくれたのだろう。
 細かい男だと鏡花は感じたが、投げ捨ててあれば半狂乱になったかもしれない。


 途中で視線を感じて振り返ると、シグウィルが呆然とその様子を観察しているのに気がつき、鏡花の表情が変わった。
 男に着替えを見せる趣味なんぞない。

 何か侮辱される前に、そのまま走って部屋から逃げた。

 もちろん精神的拠り所であり、すぐにも必要になる、鏡花の最も頼りとする最愛の彼の元へ。

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