蹴球探訪
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【芸能・社会】藤井聡太五段、棋戦初優勝 六段昇段 羽生竜王との初の公式戦でも勝利2018年2月18日 紙面から
絶対王者を堂々撃破した-。将棋界最多の29連勝を成し遂げた最年少プロ・藤井聡太五段(15)は17日、東京都千代田区で行われた朝日杯将棋オープン戦準決勝に臨み、国民栄誉賞を受賞した羽生善治竜王(47)に119手で勝利した。午後の決勝戦では広瀬章人八段(31)と当たり、これも117手で破って優勝。15歳6カ月での棋戦Vは、加藤一二三・九段(78)が1955年に「六・五・四段戦」(現在は終了)を制した時の15歳10カ月を63年ぶりに4カ月更新し、史上最年少記録。中学生初の快挙となった。この優勝で六段に即時昇段。五段はわずか16日間という超スピード出世となった。 午後0時半、羽生竜王が投了を告げた瞬間、公開対局場に詰めかけた780人の観客から割れんばかりの拍手が湧き起こった。「羽生先生は憧れの存在で公式戦で対局するのが一つの夢でした。勝利を収めることができて感無量です」。藤井五段はそう語り、喜びをかみしめた。 この15歳はどれほど強いメンタルを持っているのか。午前10時半前、対局場に入ってきた藤井五段は、いつもと変わらぬひょうひょうとした表情で全くの平常心。羽生竜王と盤を挟んで駒を並べる姿からも、緊張は微塵も感じられなかった。一方、羽生竜王は本気モード全開。時折、鋭い視線を藤井五段に向けるいわゆる「ハブにらみ」も見せていた。 盤上は後手・羽生竜王の雁木(がんぎ)模様に対し、藤井五段が1歩損の代わりに飛車先の歩を交換しながら手順に飛車の位置を整える1手得を主張。この積極策が功を奏し、右辺でポイントを上げると、羽生竜王が反撃してきたところで、玉の頭に歩をたたく勝負手がさく裂。ここから一気に押し切った。 決勝戦は準決勝で久保利明王将(42)を破った広瀬八段と激突。後手の広瀬八段が藤井五段の得意戦法・角換わりを受けて立つ展開になった。こちらも藤井五段は積極的に踏み込み、細い攻めをつなぎながら相手の玉に食らいつくと、最後は桂馬の妙手を放ち、勝負を決めた。 加藤九段の優勝記録は六段以下の棋士が対象の棋戦で、今回は全棋士が参加する朝日杯での快挙達成となった。全棋士参加棋戦の最年少記録はこれまで、87年に羽生竜王が天王戦(93年、棋王戦に統合)で達成した17歳2カ月だった。六段昇段も中学生初。加藤九段の16歳3カ月を抜き、最年少記録となった。 「全棋士参加の棋戦で優勝できたことは自信になりました。まだまだ足りないところは多いと思いますが、これを励みにさらに頑張っていきたい」。藤井五段の面上に会心の笑みが浮かんだ。 ▽谷川浩司九段「全棋士参加の棋戦で優勝するのは、まだ難しいと考えていた。予想をはるかに上回るスピードで強くなっているようだ」 ▽将棋界を長年取材している作家大崎善生さん「藤井六段の将棋には人をひきつけ、熱狂させる力がある。将棋は自然によくなっていくところがすごい。しかも手厚く、安定感がある。これまで藤井六段はスターだと思っていたが、それでは失礼だ。今日からスーパースターです」 ◆優勝賞金750万円<朝日杯オープン戦> 全棋士に加え、アマチュア10人、女流棋士3人によるトーナメント。1次予選から本戦まですべてトーナメントで決勝も1番勝負。持ち時間は40分、使い切ると1手60秒。8大タイトルに次ぐ一般棋戦で、優勝者が獲得する賞金は750万円。 ◆竜王脱帽 「これからも伸びていく」羽生竜王は国民栄誉賞受賞後の初対局を白星で飾ることはできなかった。「難しいところはありましたが、終盤の入り口からずっと苦しいと思って指していました」と敗戦の弁。藤井五段の対局姿については「秒読みのなかでも、一局を通して冷静に指していました。10代は成長期。これからも伸びていくでしょう」と舌を巻いた。 羽生-藤井戦はこれまで非公式戦で1勝1敗。公式戦では今回が初対戦だった。羽生竜王は今回優勝していれば棋戦優勝45回目で、大山康晴十五世名人の44回を抜いて単独トップに立つところだったが、それはかなわなかった。 ▽師匠・杉本昌隆七段「大きな注目を集めた中での優勝、そして六段昇段は見事。全力で相手に立ち向かう、藤井将棋の良さが出ていた。より一層の精進を望みます」
◆一問一答 積極的にできた-今日の内容は。 藤井 「思い切りぶつかるだけだと思っていた。その通り積極的にできた」 -今後の目標。 「まだまだ自分に足りないものは多い。日々精進して上を目指したい」 -足りないものとは。 「今日の対局も難しくて形勢が分からないまま指していた。形勢判断も含め強くなる余地はある」 -プロになり成長した部分は。 「いろいろな経験をして、技術的な面でも成長できた。最近はどの対局も平常心で臨めている」 -4月から高校生。タイトル獲得を目標に? 「タイトル戦は将棋界最高の舞台。実力を付けてその舞台に立てるよう成長したい。(今日の結果は)自分としては望外。まだまだ実力を付ける時期だと思っている」 -賞金の使い道は。 「特に決めていないが、それで遊ぶことのないようにしたい」 -優勝の実感は。 「会場の多くの皆さまに祝福をいただいてうれしかったが、ゴールでは全くない。引き締めなければいけないと思う」 ▽加藤一二三・九段「15歳6カ月での朝日杯優勝まことにおめでとうございます。新たな才能の誕生を手放しで喜びたいと思います。史上最年少優勝記録の更新ならびに史上最年少、最速での六段昇段という二重の偉業に心より御祝いを申し上げます。中学生ながら羽生竜王、佐藤天彦名人、A級棋士広瀬八段という並居る強豪を撃破しての優勝は空前絶後の大記録だと思います。これからもその若芽をすくすくと伸ばし、将棋界の大樹へとご成長されることを棋士のひとりとして温かく見守ってゆきたいと思います」 <番記者メモ>「大運」…将棋史に刻まれる一日強く耳に残っている言葉がある。「藤井君には羽生さんのようになってほしい」。藤井五段がプロになった時、名古屋で「祝う会」が開かれた。その席上、青野照市九段(65)が天才少年に贈った言葉だ。 青野九段の思いは将棋界全体の願いでもある。「100年に1人」と評される2つの頭脳が、くしくも同じ時代に存在する幸運。羽生竜王は「永世七冠」という前人未到の記録を打ち立てながらも「将棋そのものを本質的にどこまで分かっているのかと言われたら、まだよく分かっていないのが実情」と語る。将棋を深い所で見ているがゆえの発言だ。そんな異次元の探求心を、藤井五段も受け継ぎ、次代の将棋界を背負ってほしいとの願いだ。 昭和の名棋士・升田幸三九段は、勝負師が大成する条件に「4則」があると説いた。「運・勘・技・根」がそれで、筆頭に「運」を挙げている。藤井五段が「運」それも「大運」の持ち主であることは、29連勝を見ても明らか。だが「大運」の最たるものは、羽生竜王という最高の手本に恵まれたことだろう。 しかも、2人はすれ違うことなく朝日杯準決勝で戦う機会を得た。この舞台設定が何とも劇的。佐藤天彦名人(30)を破って4強入りを果たした藤井五段は史上初の中学生五段として登場。日本中が注目するなか、公開対局というオマケまで付いた。2・17は将来、藤井五段の「大運」を象徴するシーンとして将棋史に刻まれるだろう。 (海老原秀夫)
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