枡野浩一『愛のことはもう仕方ない』発売中
【1】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~いくつもの枝編」
【2】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~雑誌と年表編」
【3】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~血まみれ編」
なぜ渋谷陽一にがっかりするのか? なぜ亀和田武に裏切られたと思うのか? なぜ蓮實重彦と決別したのか? 反商業主義と3時にあいましょうとスカーフェイス。サブカルだってアジに乗る。サブカルだって裏切られる。サブカルだって猛烈に反発する。――の第4回。BGMはやはり『翼なき野郎ども』でしょうか?
【第4回の初登場人名】渋谷陽一、岸信介、中村とうよう、関川誠、スティーブ・ジョブス、亀和田武、羽良多平吉、田口トモロヲ、PANTA、長谷川和彦、前田武彦、松尾貴史、蓮實重彦、沢田康彦、本上まなみ、スティーヴン・スピルバーグ、ブルース・リー、野田幸男、鈴木則文、アル・パチーノ、ブライアン・デ・パルマ、深沢哲也、ハワード・ホークス(敬称略)
「渋谷陽一なんていないよ、あれは岸信介だよ、って、町山さん」(水道橋博士)
博士 町山さんが変わってるなぁ~って思うのは、たとえばロッキング・オン文化の対抗でやってたわけじゃん、町山さんは。それでそりゃ、もちろんライバル雑誌同士だからさ、(『ロッキング・オン』vs『宝島』で)よしッ、こっちは絶対負けねえぞってのはあるとも思うよ。
だけど、実際に俺と町山さんで試写会に行ったときに、そこに渋谷陽一(ロッキング・オン社長)がいるわけだよ。それで俺が「あれ、渋谷陽一さんがいるよ。町山さん、挨拶しないの?」って言ったら、「や、渋谷陽一なんていないよ」って言うわけ。「あれは岸信介だよ」って。最後まで言い張るの、町山さん。
枡野 なんですか、それは(笑)。
古泉 岸信介って首相の? 昭和の妖怪?
博士 そうそう。(渋谷さんと岸首相の)これって顔が似てるからなんだけど。
町山 僕にとって、『ロッキング・オン』の影響力って大きかったんですよ。俺が中学生のとき、それまでロックファンは『ミュージックライフ』を読んでたの。ところが『ミュージックライフ』って雑誌は、まあ、いわゆるミーハー的で、顔のいいミュージシャン優先だったの。芸能誌的だった。だけど、『ロッキング・オン』はそうじゃなかった。
博士 中村とうようの?
町山 違う違う、中村とうようは『ミュージックマガジン』。
博士 あ、そうかそうか。
町山 『ミュージックマガジン』は音楽全般なんだよ。ジャズやブルーズから演歌まで批評する。でも、『ロッキング・オン』はロック主義みたいなものがあった雑誌だったの。
枡野 文学的な解釈ってことですか?
町山 反商業主義だったり、不良性とか、反体制的な感じ。
古泉 僕はね、『ロッキング・オン』は感情的な気がして、ハマらなかったんですよ。だから『ミュージックマガジン』読んでました。
町山 あと、『ミュージックマガジン』はウエストコーストぽかったの。
古泉 そうだったんですかあ。
町山 もっとロンドンっぽかったのが『ロッキング・オン』だったんですよ。パンクの先回り。だから、ニューウェーブといわれていたものですね。『ロッキング・オン』は。
古泉 ほお~~!
町山 だからそのころ、中学生くらいのロック好きの男の子が読む雑誌は『ロッキング・オン』だったの。女が読むのが『ミュージックライフ』で、おっさんが読むのが『ミュージックマガジン』だった。で、『ロッキング・オン』の創刊編集長の渋谷陽一さんはいつも、すごくアジってたの。反商業主義と反体制を。ねえ、博士?
博士 そう。だから、「産業ロック」っていうのをすごくバカにしたのよ、『ロッキング・オン』は。それで「ロックを産業にしてはいけない!」って言ってた人(渋谷陽一さん)が、今は、どっぷりロックで一儲けして「社長日記」を書いてるっていうのが、俺たちの世代からすると「裏切りだ!」となるわけ。「なんだよお~」ってなっちゃう。
枡野 そういう長いあいだ見てて、「この人、裏切った!」と思ってしまう人が、おふたりには多くいるってことですか?
町山 なんで俺が今の『ロッキング・オン』を嫌いかといえば、中学の頃、『ロッキング・オン』のアジに乗せられて、彼らの反商業主義を信じていたからですよ。
枡野 かつて自分が好きだったから?
町山 「ロックは革命だ!」「社会に対するカウンターだ!」ってアジを信じて読んでたのにっていう。一番がっかりしたのは、『ロッキングオン・ジャパン』ですね。まさに商業主義の権化で。広告を出さないと記事にしない、という形でページを金で売ったからです。
『宝島』編集部では、僕ら編集者が「このバンド気に入ったんで記事にしたいです!」といえば、編集長の関川さん(関川誠)が、「どんなにいいバンドなのか、書いてみろ!」と言ってくれたんですよ。でもロッキング・オン系列の雑誌は、「広告を出稿しないバンドは記事にしない」と。
枡野 そうでしたねえ。
町山 まあ、『キネ旬』も広告出してもらった映画を特集するから、それと同じなんだけど。
枡野 僕は一時期、音楽雑誌ビクターブックス「R&Rニューズメーカー」のライターをやっていたので、その構造はよく知っています。デカい広告が出るとインタビュー記事が同時に載るんですよね。
博士 だから町山さんや俺なんかは『ロッキング・オン』が投稿だけで占められていて、雑誌を編集者たちが配って売り歩いてた時代から知ってんのね。雑誌コードもない時代から。そのころにおれも投稿して、載らなかったんだけど。『方法論バカ』ってタイトルでさ。「渋谷陽一が語るのは方法論でしかない」なんてさ、すごい批判したような投稿を送ったりしたよ!
古泉 編集長に対する批判を投稿してたんですか!(笑)
博士 そう! だけどさ、俺らからすればさ、そのときの熱さや想いをね、裏切るなって。
町山 現在、ロッキングオン社は雑誌じゃなくて、フェスの運営で食っていく、イベント屋になっちゃったけど、もう、それは金儲けしかないよね。渋谷陽一はシステムに対抗してたのに、自分自身がシステムになってしまった。それは、例えば誰だろうなぁ、スティーブ・ジョブスのアップルとかはそうだよね。アップルはIBMに対する戦いとして始まった。当時、コンピュータは政府や大企業にしかなかったから、ジョブスたちは、コンピュータをすべての庶民に! という民主的なイデオロギーの下に、「パーソナルコンピュータ」、つまりパソコンの開発を始めたの。それが、晩年はアップルのコンパチを許さない、独裁者に変わってしまった。だから、ジョブスは裏切り者だって言われてるわけだけど……おれがもっと許せないのは、亀和田武さんですよ。