◆第1部 起業家たち 「Graatia」(グラアティア)

 「おいしい料理を囲むと気持ちがほぐれて自然と会話が弾みますよね。『食』を通して、コミュニケーションを円滑にする機会を提供したかったんです」。2016年11月に東京で「Graatia(グラアティア)」を立ち上げた那覇市出身の新垣道子氏は、同社の事業理念を語る。

工夫を凝らしたサラダの出来栄えを競うチームビルディング(同社提供)

 グラアティアは、ランチや懇親会を活用した会議、ゲームを通して参加者の一体感を高めるチームビルディングを企業に提供。社員間のコミュニケーションを促進し、チーム力を向上させる支援事業を展開している。

 新垣氏は県内金融機関に就職した後、米国での留学経験を生かし日本IBM、アマゾンジャパンなど外資系企業に勤務。世界中から集まるビジネスマンが、チームの結束を強めるため、同僚とのコミュニケーションを重視していることに気付いた。

 ランチタイムに新規プロジェクトなどの重要な会議を開いたり、食事を取りながら打ち合わせをしたりする中で、新たなアイデアや事業計画が生まれていくのを目の当たりにしてきた。

 一方で、国内企業はプライベートな付き合いが減り、人間関係が希薄になっている。「若手が飲み会に参加しなくなりコミュニケーションが取れない」「隣の人がどんな仕事をしているか分からない」−。

 国内の経営者や人事担当者の悩みに触れ、外資系企業の手法が、ビジネスとして成り立つと確信。16年に開かれた経済産業省主催のビジネスプランコンテスト入賞を機に、外資系企業で共に働いた竹内恵子氏と起業した。

 グラアティアは700人のシェフと契約し、モロッコ料理から国内各地の郷土料理、ハラール対応など幅広い料理をそろえる。新垣氏は「おいしい料理は会話のきっかけにもなり、記憶にも残る。共に食べることで、同僚の新たな一面も知れる」と料理にこだわる理由を説明する。

 空間演出にも力を入れる。「新規事業の決起式だから華やかに」との顧客のイメージにも空間デザイナーと協力し、カーテンやテーブルクロスなどの色調を鮮やかにするなど細かに対応する。

 手間を掛けた料理や空間演出は、参加者から「非日常の体験で刺激を受け、いつもとは違う発想が次々と生まれる」と好評という。

 グラアティアのサービスは口コミで広がり、立ち上げからわずか1年で取引企業は150社を超え、ニコンやキリンホールディングスなど国内大手も名を連ねる。新垣氏は「社員のコミュニケーションに悩む企業は業種を問わず多い。潜在需要を掘り起こし世の中に喜んでもらえるサービスを提供したい」と意気込む。(政経部・久高愛)