2018-02-17
■[ネット][近現代]兵本達吉の除名をもって日本共産党が政党として拉致問題を無視したという主張には無理がある
id:kanose氏のはてなブックマークで、興味深いページを見つけた。「拉致なんてないと言ってた人たちリスト」というのだが……
■日本共産党
日本共産党は実は80年代には拉致問題を「事件」と認識していた。国会でも共産党議員が拉致問題について質問している。特に共産党員で国会議員秘書の兵本達吉氏は、拉致事件を熱心に調べていた。
が、共産党は90年代になって主張を反転、「拉致は疑惑の段階でしかない」という論調に変わった。兵本氏も共産党を除名された。
初期に国会で疑惑をとりあげた日本共産党は、疑惑があると評価したことで否定したことになっている。しかし辞書的に解釈するとしても、疑惑という評価は否定とは解釈できない。
また、秘書の除名をもって政党全体が否定したと位置づけるならば、拉致問題を否定した政治家*1を自民党は除名したかというと、そうではない。
■自民党の一部
野中広務は1990年、金丸訪朝団の一員として北朝鮮を訪れて以来、国家公安委員長を含む政府と与党の要職を歴任しながら、日朝国交正常化を「ライフワーク」として取り組み、訪朝を重ね北朝鮮要人・朝鮮総連幹部とも接触を続けてきた。
とりあげられている政治家はどれもそれなりの要職についた有力者であり、「一部」として切断処理できるものではない。
これも先日にとりあげた事例*2と同じく、一方の勢力は100点満点でなければ全体を不合格として、もう一方の勢力は1点でも合格で不合格者は例外あつかいする、よくある詐術だ。
何より、国会で議員が質問したことは、政党としての動きと評価されるべきだ。良くも悪くも、日本共産党の場合は特にそう位置づけるべきだろう。
そして1988年に拉致問題を質問した政治家は兵本氏ではなく、橋本敦氏という。議事録を見ても政党の一員としての行動であって、党に反した動きではない。
1990年代に日本共産党が態度を変えて拉致問題の追及者を排除したのならば、橋本氏もそうなるはずだ。
しかし現実は異なる。除名されなかったどころか、1997年にも日本共産党の政治家として、国会で拉致事件について質問している。
弁護士として活動する現在も政治家時代をプロフィールに記載。参加している各団体を見ても政党との関係が悪化したようには見えない。
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こうした橋本氏を日本共産党が否定にまわった時期があるとは寡聞にして知らない。
橋本氏以外の質問者や兵本氏の除名もふくめて、日本共産党の機関紙で経緯のまとめがある。
誤解を恐れずにいえば、強硬一辺倒な交渉を求める立場からは方針に不満をもつことも理解はする。対立した党員を排除するという逸話も、いかにも日本共産党らしいとは感じる。
しかし兵本氏の除名理由については、まさしく現在進行形で話題になっている潜入工作員と関連しつつ、拉致問題とは異なることが説明されている。
警備公安警察官と会食し、国会議員秘書を退職した後の「就職」あっせんを依頼していたことがわかり、日本共産党から除名されたのです。日本共産党などにたいし、違法な情報収集や謀略活動をおこなっている警備公安警察の関係者とひそかに会い、「就職」あっせんを依頼することは、日本共産党員と両立しないからです。
こうした内部事情の事実確認は困難だが、たしかに外部から確認できる対外発信においては、程度はともかく拉致問題を追及する立場で政党が一貫している。
それでも日本共産党が拉致問題を無視したと主張するならば、成果の簒奪でしかない。せめて橋本氏くらいは正当な評価がおこなわれるべきだろう。