リオンとヴァイオレットを交互に映すカッティング・カットバックが多く見られた今話。「こういう顔なんだ」と言ったリオンの言葉宜しく、無表情であること、怒っているように見えてしまうことを逆手に取った表情の機微を取らえるコンテワークがとても印象的でした。ポン寄り*1などの心に踏み込むようなショットや、交互に何度も切り返す映し方は前話でも見られましたが今回ではさらにそれが顕著だったと思います。
交互に映し、少しずつ近づけていく。過程を切り取る。二人の距離感と反応を伺うよう繋がっていくカット運びは緊張感もありつつ、しっかりと両者の対話を描いていました。コミュニケーションが得意とは言えない二人ですが、その距離を詰めるように段々とヴァイオレットを理解し、心惹かれていくリオンの姿を克明に刻むカッティングがとても丁寧でしっかりとその心の変遷を捉えていたと思います。
そしてリオンの解読に遅れることなくタイプを続けるヴァイオレットに何かを感じ取るリオン。最初の邂逅から何度目かの表情の機微がここでもしっかりと描かれていて、その徹底ぶりには少し驚かされました。室内でのやり取りなのでどこにカメラを置くのかが難しく、バリエーションも多くは作れない場面ですが、ここまでバストショットやアップに拘りそれを交互に繋いでいたのは、それだけ彼ら (特にリオン) の反応をしっかりと映したかったからなのだと思います。そしておそらくは、その原因がヴァイオレットであることを指し示すカッティングでもあったのでしょう。彼女を映し、彼を映す。その繰り返しにはリオンの変化を捉える上での強い意味もやはり多く含まれていたはずです。
ここも同様です。少しコメディっぽくもありましたが、リオンの感情が強く示唆されていた場面でした。フランスパンは二人で分けるのに丁度良い大きさなのか、『聲の形』でも何度か描かれていたプロップ。そしてここでもカットバック。込もる力が少しずつ強くなり感情的になっていくのが面白いですし、アバンでのぶっきらぼうな態度から辿れば、こういったリアクションを取ること自体が彼にとっては大きな変化であることがしっかりと感じ取れます。そしてヴァイオレットにもカメラが少しだけ寄る。リオンの感情的な物言いに充てられたような、そんな少し強張った彼女の表情がとても良い味を出していました。
こういった描き方・カッティングが本話ではやはり多く、以降の彗星観測の場面でもやはり同様のカット運びが見られました。劇的だったり、トリッキーな見せ方ではなく、非常に堅実でオーソドックスな見せ方。でも、だからこそリオンの反応と変化、その理由をカメラはしっかりと拾うことができるのでしょう。彼が目を見開く理由。眉根を動かす理由。手に力が込もる理由。そのすべてを明らかにしてくれるコンテワーク。だからか本話を観終えて一番最初に感じたのは “感情を切り取る丁寧さ” であり、それ故の感動でした。
ラストシーンも同じです。徹底した対話。分かり易い構図・配置。けれど、だからこそ響く言葉の力とリオンの変化。手紙を通してなにかが変ってきたこれまでの話とは違い、言葉と会話の果てに誰かの生き方が変化していく物語だからこその映像。
ゴンドラとリオンを交互に映すカット。拓く視界。陰から陽のあたる場所へ。そして澄んだ空をバックに映るリオンの涙と笑顔。これまで同様、この作品らしいエモーショナルな締め方でしたが最後のモノローグに切り替わる瞬間まで基盤となるカットの運びは変化していなかったように思います。遠く彼方、ゴンドラが見えなくなるまでその行方を追ったカットバック。まるで彗星のように彼の心に強く根付き、束の間に去っていった “もう出会えないかもしれない” 彼女の存在を象徴するようなシーンです。
なにより本話において彗星は別れの象徴そのものでした。母との別れ。少佐との別れ。そして、ヴァイオレットとの別れ。けれど、裏を返せばそれは出会いの象徴としても描かれていて、そうした200年に一度の出会いによって目の当たりにした美しい光景を胸に、私たち人は今日も前を向いて歩くことが出来るのかも知れない。少佐を「世界そのもの」と言い切れるヴァイオレットの様に。ヴァイオレットに出会い新たな道を歩み始めることが出来たリオンの様に。
「その別離は悲劇にあらず。永遠の時、流れる妖精の国にて、新たな器を授かりて、その魂は未来永劫守られるが故にーー」
だからこそ心配しないで。前を向いて、あなたには “あなたの道” を歩んで欲しい、と。もしかすればそんな想いが、この一節のあとには続いていくのかも知れません。そうした予感を含め、リオンとヴァイオレットの今とこれからを映してくれたのが本当にグッときましたし、彼らを見守れたことがとても嬉しかったです。
また、本話にはこれまで書いてきたような対話的な見せ方とは違う、非常に印象的で余白のあるカットが要所で挟まれていました。それはバックショットです。上記に挙げてきたようなカッチリした画面より、こちらはもっとエモーショナルな画面。レイアウトが巧く、被写体の背中越しに景色や空を見るようなカットの数々が描かれ、その緩急が今回のフィルムに視界の広がりと感傷的な雰囲気、言葉に出来ない感動多く生んでいました。
本話の演出を担当されたのは木上益治さん*2。最近では『響け!ユーフォニアム』5話*3などで素晴らしい挿話を手掛けていましたが、あの話数のラストカット同様、こういった独特な絵をスッと入れることが出来るのは木上さんの演出の強さだと思っています。それだけが木上さんの特徴というわけでは決してないですが*4、余白があったり、背中で語る情感の良さは最近の木上さん演出回ではよく見ることが出来るシチュエーションです。フレームと被写体の間に多くのものを詰め込むというか。登場人物たちの情動がそこに存在しているよう感じられるのが堪らなく良いです。
参考:『響け!ユーフォニアム』5話の演出について - Paradism*5
こちらも同様。どちらもバックショットから情感を得られるシーンです*6*7。
今回の話もそうですが、こういった絵を組み込み静かに訴えるような映像に纏められるのは木上さんの演出の良さだと思っています。『響け!ユーフォニアム』12話なども印象的でレイアウト的にも何かを想起させるような余白のあるカットが多く、その積み重ねが力強さを生んでいました。直近の『小林さんちのメイドラゴン』6話などは特にバックショットが冴え渡っていて素晴らしい挿話でしたが、そういった情感のあるカットと映像の運びが今話で垣間見れたことにも嬉しさを感じています。
もちろん、 シリーズ演出の方向性も加味してのフィルムなのだと思いますが、要所要所で木上さんらしさを感じられた氏特有のフィルムだったことは間違いないと思います。対話と情感。そのバランス。話としても、演出としても。とてもグッとくる、素敵なエピソードでした。
参考:『小林さんちのメイドラゴン』6話の演出と『MUNTO』のこと - Paradism