ここは東京、大崎。駅から直通の超高層タワービル、大崎ウエピコゲートタワーに医療器具メーカーウンタラ・サイエンティフィックはありました。
そこで顔を険しくして働いているのは、内部監査室の瑠雨図奈乃(ルウズナノ)さんです。
なぜ、瑠雨図さんが鬼のような形相で働いているかというと……。
瑠雨図さん『こいつ働きやがらねぇ……』
隣の席の愚図(グズ)さんのせいでした。愚図さんは瑠雨図さんの同僚でして、働かないマンなのでした。
瑠雨図さん『私と愚図さんとでマネージャーに頼まれた仕事、まったく愚図さんがやってないようだけど……これってなに? 私が全部やる羽目になるの? コ〇スぞ?』
昨今の言葉狩りに配慮しつつも、瑠雨図さんはめっちゃイライラしながら、隣の席の愚図さんに
瑠雨図さん「あ、あの~。愚図さん、こないだマネージャーに言われてた仕事ですが……」
と話しかけました。すると、愚図さんは
愚図さん「えっ。あれ、俺がやるの?」
と冷たい目で言いました。
瑠雨図さん『な、なんだってー!?!?!!?!?!』
瑠雨図さんは怒りのあまり頭が爆発するかと思いましたが、それを抑えて続けます。
瑠雨図さん「そ、そうですよ~。二人で手分けしてやるようにマネージャーが言ってましたよ~。メールも来てます」
愚図さん「あ、そう? メール見てなかった」
瑠雨図さん『な、なんだってー!?!?!!?!?!』
瑠雨図さんはまた頭が爆発するかと思いました。いや、むしろ爆発しました。しかし、それをぐっと抑えてまた続けました。
瑠雨図さん「そ、そうなんです。締め切りは今週末までなんですが…」
愚図さん「じゃあやっておいて」
瑠雨図さん「え」
愚図さん「おれ、いま手が空かないからさ。瑠雨図さん、やっておいて」
瑠雨図さん『な、なんだってー!?!?!!?!?!』
瑠雨図さんの頭はさらに爆発し、ビックバンが始まりそうな勢いでした……。
瑠雨図さん「愚図さんって本当にひどいんですよ~」
そういって瑠雨図さんは、ずんずん先生のオフィスでぷりぷりしていました。
ずんずん先生「それであなたはどうしたの?」
ずんずん先生は、社内政治オフィサーという社内政治のプロフェッショナルです。なんで、ずんずん先生が先生と呼ばれているのかは、前シリーズを読んでみるといいと思います。
瑠雨図さん「締め切り今週末だから私が全部やりますよー。だってしょうがないじゃないですかー」
ずんずん先生「ばかちーん!!」
すぱーんとずんずん先生のハリセンが瑠雨図さんの頭に炸裂しました。
瑠雨図さん「いったーい! なんでこう毎回毎回ハリセンで叩くんですかー!」
ずんずん先生「もうハリセンの方だってぼろぼろよ! 新しいの買って経費申請しなきゃ……」
瑠雨図さん「え? それ経費で買えるんですか?」
ずんずん先生「というか会社の備品よ」
瑠雨図さん「備品?」
ずんずん先生「それはさておき…」
ずんずん先生はごほんと咳払いをしました。
ずんずん先生「2人に頼まれた仕事なのに瑠雨図さんだけがやるなんて、瑠雨図さんの負担だけ増えて、愚図さんはおいしいとこどりじゃない」
瑠雨図さん「うっ。確かにそういわれてしまえばそうなんですけど……」
ずんずん先生「なんでその仕事をしない同僚を上司にチクらないの?」
瑠雨図さん「チクる?」
瑠雨図さんはきょとんとした顔をしました。
ずんずん先生「できない奴はそれとなく上司にチクる、これは社内政治の基本よ?」
瑠雨図さん「え~! チクるとか小学生じゃないんですからできませんよ~! 『××さんがやってません~!』ってチクるんですか? かっこ悪い……」
ずんずん先生「いい大人がそんなチクりかたをしちゃいけないわよ。もっと頭を使いなさい」
瑠雨図さん「うぐぅ」
瑠雨図さんは言葉をつまらせました。
ずんずん先生「チクるのが悪いか悪くないかで言えば、チクるのはいいことなのよ」
瑠雨図さん「チクるのはいいこと!?」
ずんずん先生「仕事をやらない奴がいるという時点で、チームの生産性が落ちて、会社にとっての損失!」
瑠雨図さん「そ、そう言われればそうですが……」
ずんずん先生「会社のためにヤバい奴がいたらアクティブに上司にチクる! そしてパージ(粛正)する!」
瑠雨図さん「めっちゃ過激なんですが……」
ずんずん先生「言ったでしょ、会社はジャングル。弱肉強食の世界なのよ。できない奴が足を引っ張ってきたら早めに対処しなきゃ」
瑠雨図さん「はあ…」
瑠雨図さんはずんずん先生の勢いにあっけにとられました。
しかし、確かに自分だけがやった仕事を愚図さんに横取りされるのはいらっとします。
瑠雨図さんは「やっておいて」と言った愚図さんの顔を思い出して、今にも念能力に目覚めそうな自分を感じました。
瑠雨図さん「ぐぐ……あいつが得するのはむかつく……。会社のためならチクっても問題ないですよね! でもチクるってどうやって?」
ずんずん先生「そこはとっておきのストラテジーを用意してあげるわ……」
そう言ってずんずん先生は薄く笑うと、カタカタとPCでレポートを作り始めたのでした。
(次回へつづく)