スマホが日本人の財布の形を変えようとしている 春の売り場に“異変”
春の財布の買い替えシーズンを前に、財布売り場に“異変”が起きている。
財布同様、常に持ち歩くようになったあるモノの影響で、求められる財布のタイプが変わり始めたのだ。客の要望に合わせて売り場レイアウトを変更するなど、店は“春の変”の対応に大わらわだ。
(2月5日の記事を再掲載しています)
スマートに携帯したい
お金がたくさん入って“張る”(膨らむ)財布をイメージさせ、縁起がいいとされる春財布。就職や新入学、進級…。クリスマスの贈り物シーズンに次いで売り場がにぎわうのが、立春(2月4日)から立夏(5月5日)までの期間だという。
そんな財布売り場で、“異変”が起きている。
「ランチのとき、スマホと財布をまとめて持ち歩きたい」
「スマホが入る財布はありませんか」
そう。あるモノとは、世帯普及率が7割に達したスマートフォンのことだ。
財布とスマートフォンを、まさにスマートに携帯したい。客からのそんな要望にこたえ、生活雑貨店「渋谷ロフト」(東京都渋谷区)は昨年10月、「ベルロイ」の売り場を2倍に拡充した。薄くて機能的な財布として世界的に知られるオーストラリアの財布ブランドだ。
見ためと裏腹 現代的な機能
同店によると売れ筋は、スマホや携帯電話を収納できる長財布「フォリオウォレット」(素材や大きさにより税抜き1万5千~3万1300円)や「キャリーアウトウォレット」(同2万1300円)。
フォリオウォレットはスマホを入れた上で、カード12枚まで収納可。広げると両サイドに札入れがあり、内側のジッパーには小銭が入る。スマホ、現金、カード、名刺、パスポートなどあらゆるアイテムをまとめて持ち歩くことができる。
海外では出張などが多いビジネスマン、ビジネスウーマンに愛用者が多いが、日本では「職場で同僚らとランチなどに出かけるとき、1つにまとめて持ち歩ける」と幅広い年齢層に受け入れられているという。
キャリーアウトウォレットも、スマホや現金、カード、名刺、パスポートなどあらゆるアイテムをまとめて携帯できる。それに加えて、財布の中にマグネットで取り外し可能な極薄の2つ折りミニ財布を備えた。必要最低限のカードや紙幣のみならミニ財布だけを持ち歩く、など使い分けもできる。
財布の中をよく見ると、小さなSIMカードなどを収納する専用の切れ込みも。工芸品のような風合いの外見とは裏腹に、こうした現代的な機能が、各国で評価されている。
同店によると投入を始めた昨年10月から今年1月23日までのベルロイの売り上げは前年同期比70%増。増加分の多くは、スマホ収納型の人気による。
ギフト雑貨チーフ、本間あかりさん(24)によると「薄い革1枚の仕立てなので、スマホを収納してもぶ厚くならず、取り出しやすく、かさばらないのが特徴」。
フォリオウォレットの新デザインが加わり、現在4シリーズ17種を展開、色や大きさなどさらに選びやすくなった。
総務省の通信利用動向調査によると、2010年にわずか9・7%にすぎなかったスマートフォンの世帯保有率は、5年後の15年に72%を突破。財布とともに必ず持ち歩くものとなり、財布の選び方が変わってきた。
小銭入れは不要
一方、最近、主に男性から「小銭入れは不要。紙幣だけ入る財布はないか」という声も寄せられ、札入れが復権している。スイカ、パスモ、イコカなど交通系マネーや電子マネーの普及を受けた動きとみられる。
また、クレジットカードやポイントカードなど種類の増加を受けて、カード収納が充実した財布も人気が高い。例えば、モルフォ(本社・東京都墨田区)のハニーセル型の長財布「ジップウォレット」(同1万6000円)。ハニーセルは「蜂の巣」の意味で、縫製の工夫で財布を開いたときひし形の部屋がいくつも開き、複数のカードがひと目で判別できる。
ITの進化に合わせて財布の機能が充実する一方、「この2~3年、クラッチバッグやミニバッグが流行しているのを受けて、女子力が高い女子を中心に、小さい財布も売れている」(同)と、財布の売れ筋はもはやひと口では表現できないほど多様化している。
財布を選ぶにあたり、本間さんは客の希望を丹念に聞き取る。好みは長財布か、二つ折りか、よく使うカードはどのくらいあるのか。手触りの良いシボなど皮の加工にこだわるか、求めやすい価格を優先するのか-。
本間さんは「財布は毎日肌身離さず持ち歩くだけに、どんなふうに使いたいのか聞かせてほしい。ぴったりの1点を選ぶ手伝いをしたい」と話している。(文化部 牛田久美)