水俣病被害者救済特別措置法(特措法)に基づく未認定患者への一時金(1人210万円)の原資として、原因企業チッソが熊本県などから借りた約800億円の公的債務について、政府と同県は15日、債務を順次無利子とした上で2019年度からの返済は3年間猶予する新たな支援策を申し合わせた。患者補償などに伴う従来の債務に特措法の債務返済が加わり、今後の補償財源が確保できない恐れがあると判断した。
環境省によると、水俣病の被害賠償の原資は、同県が県債を発行し国などから資金調達してチッソに貸し付けており、公的債務の残高は17年3月末現在で1990億円。このうち特措法に関する債務は814億円に上り、全ての償還期限を迎える44年には992億円に膨らむ見通しだ。
特措法に関する債務は当初、15年度から返済予定だった。しかし、毎年の返済額が20億~40億円増えて、「従来の債務に加え、資金繰りが苦しくなる」とするチッソの求めに応じ、国と同県は返済開始を4年間、先送りしていた。今回は債務を無利子とし、返済をさらに3年間猶予する。その後は、チッソの業績に応じて返済猶予を3年ずつ更新するという。
一方、特措法以前の患者補償や、メチル水銀を含む水俣湾のヘドロを埋め立てた事業の債務について政府は00年から同県に補助金や地方交付税を投入し、チッソが支払いきれない債務返済を国が無利子で肩代わりする支援策を続けている。肩代わり分を含む債務は1176億円に達し、当面はこれらの返済を優先するよう求める。
チッソは11年、全事業を子会社JNCに移管する分社化を行い、JNCの経常利益からの配当金を患者補償や債務返済に充てている。JNCは主力の液晶事業が不振で業績が悪化し、17年度は55億円の経常利益と予想するが、環境省によると年間50億~60億円の経常利益を確保すれば、チッソは年間19億円程度の患者補償に加え、およそ17億円の債務返済が可能という。【五十嵐和大】
支援策の決定を受け、チッソは「一層、責任の重さを痛感しております。今後は経営体質の改善を図り、引き続き患者補償の完遂や地域社会への貢献を果たせるよう、誠実に取り組んでまいります」とコメントした。