フリーランス、独禁法で保護 企業の過剰な囲い込み防止

経済
2018/2/16 2:00
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 企業と雇用契約を結ばずに働く技術者やスポーツ選手らフリーランス人材が独占禁止法で保護される。労働分野に独禁法を適用するための運用指針で、企業が人材を過剰に囲い込んだり、生み出した成果に利用制限をかけたりするのを法違反の恐れがあると明確に位置づけた。働き方の多様化やシェアリングサービスの拡大を踏まえ、不利な立場になりがちなフリーランスの労働環境を改善する。

 公正取引委員会が15日、有識者検討会の報告書を公表した。これが労働分野に独禁法を適用するための事実上の運用指針になる。15日に会見した公取委の山本大輔経済調査室長は「各団体や企業で問題がないか点検し、公正な人材獲得競争を進めてほしい」と話した。

 公取委は技術者やスポーツ選手、芸能人などの契約実務が現状に追いついていない点を問題視。適正な額の報酬や、社会全体でみた適材適所を実現するには、不利な取引条件の押しつけや人材囲い込みを是正する必要があるとした。企業との取引関係で不利になりがちなプロ人材に労働法制以外にも対抗手段を与え、多様な働き方が確保される土壌をつくる。

 指針では具体的な違反行為を示した。企業が「秘密保持契約」を盾に競合他社との契約を過度に制限したり、イラストやソフトなどの成果物に必要以上に利用制限や転用制限をかけたりすれば、「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあると指摘。複数の同業他社間で賃金の上昇を防ぐために「互いに人材の引き抜きはしない」と申し合わせればカルテルとする。

 公取委は事前にフリーのライターやデザイナーなど約550人にアンケートを実施。企業側から契約書面が交付されない例が約34%、追加作業の費用を負担してもらえない例が約37%あった。

 「フレックス制での契約なのにフルタイムで働かなければ契約を切ると言われた」「事前に知らされていない条件に基づき、何度も作業の修正を繰り返させられた」などの回答もあった。不利な取引条件を受け入れている人は少なくない。

 日本では独禁法の制定時、「労働の提供は事業ではない」(立法を担当した橋本龍伍元厚相)との考え方を示しており、長らく労働分野には適用されていなかった。公取委は今回、初めて労働分野にも独禁法が適用されることを明確にした。ただ指針はあくまでフリーランスと企業の契約を巡るもので、公取委は労働組合を「カルテル」として摘発したり、上司と部下の関係に優越的地位の乱用を適用したりすることはないとしている。

 欧米の競争当局も企業間で過熱する人材獲得競争に苦慮している。米国ではシリコンバレーに代表されるテクノロジー分野が注目点。IT企業によるIT人材の引き抜き防止協定などが問題視されている。欧州ではスポーツ選手の行きすぎた制限に注目が集まる。

 欧米には高品質なサービスや技術を持つプロ人材が、自らの力を評価してくれる企業を渡り歩く風潮もある。日本の場合は個の力を引き出すという点で、欧米にやや後れをとっている面もある。

 ◇ ◇ ◇

 公正取引委員会が保護の必要があるとみるのは、雇用契約を結ばない独立した個人事業主として「業務委託契約」などの形で企業からの仕事を請け負っている人たちだ。

 フリーのイラストレーターやプログラマー、「ひとり親方」と呼ばれる建設業の職人、トラック運転手など幅広い。こうした働き手には働き方のルールを定める労働基準法などの労働法制は適用されない。事業者対事業者の契約関係になり、雇用関係ではないからだ。

 ほかにもルールはある。下請法は大企業と中小企業・個人事業主との間の契約ルールを定め、契約書の不交付や買いたたきを禁じる。

 ただ多様な働き方を根付かせようとすれば、既存の法律だけでは対応しきれない。公取委も「既存のルールで保護しきれない働き手は増える」(山本大輔経済調査室長)とみる。独禁法の労働分野への適用は、将来のさらなる働き方の多様化に備えたものでもある。

 日本では人口減に伴う働き手の減少に伴い、官民が働き方改革を加速している。能力ある人が力を発揮しやすい環境を整えれば、経済の活力も高まる。国会でも改革案を議論しているが、労働時間でなく成果で評価する「高度プロフェッショナル」の導入は急務だ。

 今後、労働者か個人事業主か判別がつきにくい働き手が増える可能性は高い。フリーランスで働く人材が1100万人を超えるとの試算もあるが、ITを駆使して在宅で働く主婦や副業・兼業の人も含む。働き手も法の仕組みを理解しトラブルに対処する必要がある。

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