HOW JAPANESE RAPPERS REPRESENT STREET CONSCIOUSNESS

「田我流 × 一宮(山梨県)」──山梨の盆地から、生きるとは何かを問いかける男

日本語ラップがいま盛り上がっている。「フリースタイルダンジョン」というテレビ朝日の番組で盛り上がっている。即興のラップによるバトルが人気を呼んでいる。でも、火曜日深夜1:26〜1:56、俺は寝ている。だから、知らないでいる。そんな俺とあなたのために、池上(川崎)、一宮(山梨)、西成(大阪)、3つの街をレペゼンするヒップホップ・アーティストを訪ねた。1970年代にニューヨークのブロンクスで生まれた黒人たちのカルチャー、ヒップホップは、辺境の国ジャパンでその土地に根ざした独自のスタイルを築きつつある。ニッポンはけっこう複雑でいろいろある。

文・今尾直樹 写真・鈴木拓也 コーディネート・富山英三郎
「田我流 × 一宮(山梨県)」──山梨の盆地から、生きるとは何かを問いかける男

田我流 STYLE "ラッパーのZEN LA ROCKによるブランド「NEMES」から発売された田我流モデルのキャップ。彼の通称GRAVEDIGGAZ(墓場掘士)の刺繍入り。"ライブで呼ばれて海外に出かけることも多い。「アジア、どこもすごい。出てくる音楽も全部レベル高いし、超やべえじゃん、て感じますね。日本の元気のなさにビビりますね。やっべー、マジ大丈夫、日本、と思います」。政治意識は高い。

NY、東京を経て、山梨へ

フリーターを2年やって、ある日ライブがあるので山梨に戻った。「パッって朝焼け見ていたら、あ、こっちでいいんだって。むしろ何にもないからいいんだって。ほんとに(自分のつくる音楽が)ヤバければ受け入れてもらえるんじゃないかって、試してみたくなった。いけんじゃないか、ここで、みたいな」という心境になった。

幼馴染みたちが大学を卒業して地元に戻ってきたりもしていた。04年、故郷に戻った田我流は、小・中・高が同じ幼馴染みたちとstillichimiya(スティルイチミヤ)というグループを結成する。グループ名は、同じ年の10月12日、日本一の桃の里、一宮町が、石和町、御坂町ら5つの近隣町村と合併して笛吹市となったことへの反発から命名された。地方の衰退はすでにはじまっていたのだ。

ソロのラッパーとしての活動も続け、セカンド・アルバムを出す前の、2010、11年ぐらいには音楽で食べていけるようになっていた。知名度が全国区になりかけたのはもうちょっとあとかもしれない。11年に公開された富田克也監督の映画「サウダーヂ」で主役のひとりをつとめたからだ。富田監督がトラックの運転手をしながら、故郷の甲府市で土日だけ撮影し、製作に1年半要したというこの作品は、海外ではロカルノ国際映画祭で独立批評家連盟特別賞を、日本では毎日映画コンクールの日本映画優秀賞と監督賞を受賞するなど高い評価を受けた。

「俺がどうこうっていうよりも脚本がヤバいっす。映画自体、ほんとヤバいんで。あれ撮ったの、そうとう前でしょう。移民の話っすね。ロカルノ国際映画祭つれてってもらったんすけど、そんとき、その映画祭、ほとんど移民の映画でしたよ。シリアのあの情勢が起こる前。ああやっぱすごいな。芸術は未来を予想するんだなと思って」

田我流はこのとき、地元の先輩の作品ということもあって、ノーギャラで出演した。そのあと、俳優として声がかかった。すごく大きなところではなかったそうだけれど、ともかく断った。

「脚本を読んだら、一番はじめに『ない腕をかく』と書いてあって、俺の役が。すげー、この時点でやめようと思って。無理だと思って。これはガチだと。戦争の話だったんで、そこまで自分を追い込むのはやだなぁって。これ、俺、自分の職業じゃないし。そこまでやったら、戻ってこれなくなっちゃうかなって

アパートで音楽づくり

ステージに立つアーティストなのだから目立ちたがり屋なのだろうけれど、お金持ちになりたいとは思っていない。

「金があっても楽しくやれればいいですけど、金があったら面倒なことが増えるかなあと思っちゃう。だって嫉妬も受けるし。だから俺は、芸能人みたいになりたいですかって聞かれたら、そういうんじゃない。ぜんぜん普通にこういう町とかに住んで、別に俺のこと、誰も知らないし、でいいかなあ、みたいな。金の代償で面が割れて、よりは普通にどこでも食べにいけたりとかのほうがいい。食っていけるだけあればいいっす」

田我流はいま、地元のアパートに住んで音楽づくりに没頭している。

「いま、欲しいもん? 普通に音楽制作するための楽器とか欲しいすけど。あとは釣竿とか。そんな、多くは望んでないすよ、別に」

こうなりたい、というモデルになるひとはいますか?

「前はいたんすけど。いまやっぱ、だいぶ物事の見方が変わって、続けていければいいかなぁ。それが一番難しいことだと思うし。たとえば自分が50になったときに音楽をまだやっていたとすると、若い子たちと一緒にやることになる、表現者として。そんだけメンタリティを保っていられたらカッコイイなぁと思います。単純に、ずーっと続けているひとたちはカッコイイ。たとえば、スポーツ選手だったら絶頂で辞めるのが一番いい。だけど、(三浦)カズとか、俺、好きだからやってるし、名声のためにはじめたわけじゃねえから、みたいな。プレイは確かに落ちるかもしれないですよ、若い子の方が体力があるし。でも、ものの見方とか世界の捉え方とか、すごいと思うんです。それはたぶんミュージシャンも同じで、それが一番カッコイイ。そこまでいきたい。その上で、高田純次ノリでいられたら、そうとうすごいなぁと思います」

坊主頭にベースボール・キャップ、普通っぽいジャンパーにグレーのスウェット。胸にNEW YORKならぬNEW YOKUと入っているところがおかしい。キャップもスウェットも友だちがつくったもので、それが田我流スタイル。いわゆるブランドものとは一線を画している。

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「田我流 × 一宮(山梨県)」──山梨の盆地から、生きるとは何かを問いかける男
高校生のころから通っている老舗ラーメン屋「平和園」で、彼にとってはこの日の朝メシを昼に食べる。定番はワンタン麺。水がおいしい塩山は「美食シティ」と田我流はいう。
「田我流 × 一宮(山梨県)」──山梨の盆地から、生きるとは何かを問いかける男
浅間神社の、20号線沿いにある大鳥居にて。
「田我流 × 一宮(山梨県)」──山梨の盆地から、生きるとは何かを問いかける男

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浅間神社の、20号線沿いにある大鳥居にて。

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田我流とカイザーソゼ
「田我流とカイザーソゼ」

10人編成のバンドで発表した2015年のアルバム。バンドならではのグルーヴ感のあるサウンドに、田我流のマイルドなフロウと深みのあるリリックが絡み合う。ジャンルを超えて愛される名盤。

 


田我流 ラッパー
日常風景を描写しながら、人生の悲喜こもごもを綴るラッパー。叙情的で心に染みるなリリックは幅広い層から支持を集めており、ヒップホップというジャンルを超え、さまざまな音楽ジャンルからの客演オファーが絶えない。

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Author:
今尾直樹
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