枡野浩一『愛のことはもう仕方ない』発売中
【1】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~いくつもの枝編」
【2】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~雑誌と年表編」
岡山から新幹線に乗ってテアトル新宿で『時計仕掛けのオレンジ』を観た水道橋博士さん。その映画館の場所にあったツバキハウスで初めてあの匂いを嗅いだ町山さん。いろんな人のいろんな人生が単純かつ複雑に絡んでいるサブカル人間曼荼羅――。そして話題は町山さんの「お父さん」のこととなり……。
【第3回の初登場人名】園子温、上杉隆、岡崎京子、甲本ヒロト、穂原俊二、大塚幸代、松尾スズキ、せきしろ、橋下徹、持永昌也、ドナルド・トランプ、秋元康、戸川純、高井麻巳子(敬称略)
「東京へ、時計仕掛けのオレンジを観るためだけに」(水道橋博士)
町山 確かに博士がいうように、Aって人と会ってた年と、Bって人と会ってた年が、同じ年だったってことがわからなかったりするんですよね。ある映画を観てた年と、ある出来事が流行してたのも同じ年だったってこともわからなかったりして。
博士 あと、自分自身の記憶を作っちゃうんですよ。だから僕が(映画監督)園子温の年表を作ったときのことでね。『時計仕掛けのオレンジ』[注]、これは彼が映画作家になるきっかけになる作品なんだけど、それはリバイバル上映だから、俺と園子温はまったく同じリバイバル上映を観てるんですよ。
それで、そのときの俺の記憶を園子温にしゃべってるんだけど、後から自分の過去の日記を読んだら、まったく違うんですよ! 18歳になる前日……ひとりで東京へ『時計仕掛けのオレンジ』だけを観るためにわざわざ行ってるんだけど。でも俺の中の記憶では、お母さんと一緒に大学の下見に来て、母と一緒に『時計仕掛けのオレンジ』を観てる……。
町山・古泉・枡野 アハハハハ!
古泉 お母さんと?(笑)
枡野 一緒にですかあ?(笑)
町山 ありえないね!(笑)
博士 なぜすり替わったかというと、俺は当時、『時計仕掛けのオレンジ』のビデオを買って、それを持ち帰って、家でずーーっと観てたんです。それを母が見て、「息子がおかしくなった!」。だってセックスシーンを含めてノーカット・ビデオだったから。
古泉 ガハハハ!
博士 それで、心配してる母親が、ビデオを見てる俺をずーっと見てたことと、頭の中の記憶がすり替えてるんですよ。
枡野 へえーーっ!
博士 それを俺は、日記を見て初めてわかったんです。「俺、完全に記憶をすり替えてる!」
枡野 怖いですねえ。
博士 自分自身の記憶も、まったくあてにならない!!
古泉 う~~ん。
博士 だから、日記をつけとかないと! そしてそれを直さないようにしないと! 人は自分が嘘をついたことすらわからなくなる。これが「上杉隆現象」ですよ!
古泉 なるほどお。
町山 上杉隆は自分が嘘ついてることわかってるよ(笑)。
博士 や! 嘘をついてないと思い込んでるんだもん!
町山 ラジオ降ろされた理由がコロコロ変わったりするのはただの嘘つきでしょ……。ま、いいや! それで、『時計仕掛けのオレンジ』って、新宿のミラノ座の上じゃなかったですか?
博士 や、地下でした。
町山 あ、地下か。でもミラノ座の建物でしょ?
博士 や、(ディスコの)ツバキハウスがあったところ。
町山 えっ!? じゃあテアトル新宿?
博士 そ!
町山 嘘!
博士 や、そそそ。テアトル新宿。
古泉 へえ~っ、テアトル新宿の場所にツバキハウスがあったんですかあ。
町山 そうだよ。
古泉 ツバキハウスって岡崎京子の漫画でしか知らない……。
町山 俺が初めてマリファナの匂いを嗅いだのがそこなんですけど。
博士 でもこれは間違いないですよ。
町山 あ、ほんとに?
博士 ええ。だって日記があって、場所があって、当時18歳か19歳の俺がその日付けで書いていて、直しようがない。誰と行って、新幹線代がいくらだったかまで書いてます。
町山 テアトル新宿だったっけ? 俺はミラノ座の上で観たんだよねえ……。ツバキハウスは凄かったですよ。サブカルチャーといえば渋谷と思われているけど、新宿もライブハウスが多くて、いろんなイベントもあって。俺、全然記憶ないんだけど、ヒロトがモッズバンドにいたときのライブを観てるはずなんですよ。
枡野 ブルーハーツの甲本ヒロト?
町山 そう。新宿のJAMっていう花園神社のそばにあった小さいライブハウス……
古泉 明治通り沿いですね。
町山 ヒロト出てたらしい。でも俺、覚えてなかった。モッズ系のバンドがよく出てた場所で。いろんなバンドが一緒に出てたりすると、凄い人がいたことをあとから知ったりする。そういうことはいっぱいあるよ。