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2018年2月1日(木)
思いがけない退去通知 あなたも住宅を追われる!?

思いがけない退去通知 あなたも住宅を追われる!?

アパートなどの大家から思いがけない退去通知が届く人が相次いでいる。高度経済成長期を中心に建設された集合住宅が老朽化し、耐震性などの面から取り壊しが必要になっているのだ。立ち退きを迫られた人たち、中でも一人暮らしの高齢者の中には、転居先を探しても、連帯保証人がいないなどの理由から、契約を断られ続ける人もいる。公営住宅への入居も高い倍率に阻まれる。10年後には、4軒に1軒が築40年以上になるとされる賃貸住宅。今後、急増することが危惧される、立ち退きによる漂流の実態をリポートする。

出演者

  • 平山洋介さん (神戸大学大学院教授)
  • 稲葉剛さん (一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“立ち退き”通知が… そのときあなたは!?

あなたが暮らす住宅。突然、立ち退きを求められたら、どうしますか?
この男性は、転居先が見つからず車で寝泊まりを続けています。

「この最低の生活でどこまで自分が生きられるか。」

全国に広がる賃貸住宅の老朽化。取り壊しによって、立ち退きを求められる人が続出しています。それにもかかわらず、次の転居先を見つけられない人々が出ているのです。

「私みたいな年寄りが入れるところありますか?空いてない。」

特に高齢者は、孤立死のおそれや連帯保証人がいないことから入居を断られる事態が。

「年齢を言ったら、誰も貸してくれなくなっちゃうんだよね。長生きするのも善しあしかなと思っちゃう。」

住まいの貧困が進む、日本の姿。立ち退きで漂流する人々を取材しました。

住宅老朽化で“立ち退き漂流”が

昨夜遅く、札幌市で起きた共同住宅の火災。11人が亡くなる事態となりましたが、ここに身を寄せていたのは、生活に困窮したり、身寄りがなかったりする人たちでした。こうした人たちが入居できる住宅が今、減っているんです。

田中:こちらのグラフをご覧ください。賃貸住宅や公営住宅などの全国の借家の数を表しています。全体では増えているんですが、このうち家賃が月5万円未満の部屋を見ますと、減少傾向にあるんですね。

その理由として考えられるのが、老朽化です。地震などで倒壊するおそれがあるため、取り壊すほか、大家が収入アップを図るため、より家賃の高いマンションに建て替えるなどしているとみられます。家賃が比較的安い住宅に住んでいる独り暮らしの高齢者や収入が少ない現役世代の人たち。こうした人たちが家を追われるケースが出始めています。

“立ち退き漂流” 住宅が借りられない

今まさに、立ち退きの事態に直面している人がいます。
東京・葛飾区にある2階建てのアパート。飯田さいさん、88歳です。

16年住み続けている部屋。一昨年(2016年)10月、大家から退去通知が届きました。建物の老朽化が進み、入居者の安全を守るためにも取り壊しが必要だという内容でした。

飯田さいさん(88)
「(立ち退きは)不安なんてものじゃなかった。どうしたらいいか、わからなかった。」

これまで独身で暮らしてきた飯田さん。ちゅう房や総菜店などの仕事を70歳まで続けてきました。退職後は、年金とわずかな蓄えで暮らしてきました。しかし貯金が底をつき、一昨年、生活保護に頼らざるを得なくなりました。食費をギリギリまで切り詰めている飯田さん。一円玉を毎日コツコツ貯めています。家賃にあてられるのは、およそ5万円が限度だといいます。今の家賃は4万5,000円。ここをついの住みかにするつもりでした。
高度経済成長期以降、次々と建てられたアパートなどの賃貸住宅。昭和56年以前の古い耐震基準で建てられたのは、葛飾区内で1万2,000戸。全体の14.2%に上り、取り壊しや改修の必要性が高まっています。
区の住宅相談窓口。

今、立ち退きを迫られた人からの相談が相次いでいます。この日、飯田さんも相談窓口を訪れました。所得が低い人の受け皿となっている公営住宅を紹介してもらえないかと考えたのです。

飯田さいさん(88)
「団地が結構空いているところがあるんだから、ああいう所に入れてもらったらという人がいるんだけど。」

「一見、空いているかに見えるんですけど、気に入ったからといって、民間住宅のように入居できるものではないんです。」

飯田さいさん(88)
「じゃあこういう年寄りが困っていてもダメなの。」

「公の住宅はやはり倍率、希望される方が多いので、中には90倍なんていう公営住宅もあります。」

区も、立ち退きを迫られた人たちは緊急性が高いとして、優先的に対応しようとしています。しかし、将来の人口減少に備えて、公営住宅の数を抑制せざるを得ない事情もあるといいます。

葛飾区 住環境整備課 下村聖二課長
「困窮度でいうと、やはり立ち退きが一番、もう期限が決められてしまいますので、そういった方には、今後どうやっていくのかというのは、区としては限度がありますので、そこの対応が課題。」

飯田さいさん(88)
「本当に宿無しはイヤだ。」

“立ち退き漂流” 連帯保証人がいない…

民間の賃貸住宅に移るのも容易ではありません。頼れる身寄りがないことを理由に断られ続けた人がいます。
龍崎猛さん、80歳。

かつては横浜に家を持ち、妻と3人の子どもと暮らしていましたが、40代後半で経営していた運送会社が倒産。家族に迷惑をかけたくないと、離婚して1人で暮らすようになりました。
一昨年8月、立ち退きを求められ、部屋を探しました。しかし、入居を断られます。連帯保証人が必要だという理由でした。頼める人がいない龍崎さんは、なすすべがありませんでした。

龍崎猛さん(80)
「最終的には、俺はもう、首でもつっちゃおうかなと思った時もあったよ。もう、どうしようもないからね。だけど、まだ子どもにも会いたいなと思ってね。」

“立ち退き漂流” 孤立死おそれる家主側

賃貸住宅の大家側が連帯保証人を求める大きな理由は、孤立死のリスクです。
この部屋で3年前の夏、71歳の男性が亡くなりました。

発見されたのは、1週間後でした。

不動産会社 社長
「布団を敷いていましたけど、そのまま寝ていらっしゃいました。見るからに、もう亡くなっていると、においで分かりました。」

床や壁を全て張り替え、費用はおよそ100万円に上りました。男性には、連帯保証人がいませんでした。費用は全額、大家が負担しました。

不動産会社 社長
「高齢者の方は、(入居に)非常に条件が付くと思います。最終的に保証人さんが、まったくいないというのは、非常に貸したくても貸しづらい。」

“立ち退き漂流” “ついの住みか”はどこに

立ち退きを迫られている飯田さん。大家側から示された期限は、すでに過ぎていました。

「広いお部屋になると数がどうしても少なくなるので。」

飯田さいさん(88)
「立派じゃなくても。」

「相場として5万5,000円から6万円ぐらいという物件が、ほかのお客様も探している方が多いので。」

飯田さいさん(88)
「葛飾ではないんだね。」

賃貸住宅を探しますが、88歳という年齢が壁となります。

飯田さいさん(88)
「あの、部屋を探しているんですけど、この近くに私みたいな年寄りが入れるところありますか。空いてない。」

この日は6軒の不動産会社を回った飯田さん。入居できる部屋はありませんでした。

飯田さいさん(88)
「すぐ出ろなんて言われたら、本当に行くところがないものね。ホームレス。(知人が)『ブルーシートくださいと言えば、いくらでも貸してくれる』というけど、そこまではね。長生きしたのが悪かったかなと、つくづく思っちゃう。」

“立ち退き漂流” “ついの住みか”はどこに

ゲスト 稲葉剛さん(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)
ゲスト 平山洋介さん(神戸大学大学院教授)

田中:龍崎さんはその後、転居先が何とか見つかり、退去通知から1年4か月後、立ち退き料を受け取って、ようやく引っ越しを終えました。一方、飯田さんは、今も部屋が見つからず、大家に待ってもらっている状況です。

生活困窮者を支援している、稲葉さん。
こうした立ち退きで住まいを失うというケース、増えていると感じる?

稲葉さん:私は東京都内で住まいを失った生活困窮者を受け入れるシェルターを運営しているんですけれども、私たちのところにも、立ち退きにあった高齢者の方が相談に来られるというケースが相次いでいます。例えば、立ち退きにあった方が、次の住宅が見つからずに、カプセルホテルを転々として暮らして、最終的にお金がなくなって、路上生活になってしまったというケースや、あるいは、次の物件が見つかって、引っ越したんだけれども、そこでまた立ち退きにあって、住まいを失ってしまうというようなケースも出てきております。

そうした高齢者の方が、次の家を探すのは難しい?

稲葉さん:私は何度か80代の単身高齢者の方の部屋探しを一緒に不動産屋さん回って行ったことがあるんですけれども、やはりなかなか貸してくれるところがない。非常に困難であるというふうに感じています。

住宅政策を専門に研究する、平山さん。
退去を求められたら出なければいけない?

平山さん:いえ、一概にはそんなことはいえません。借地借家法という法律がありまして、それは借家人を保護するための法律。ですから、退去を要求されましたら、まず重要なことは、慌てずに、慌てないということが、まず重要ですね。例えば法律のことですと、弁護士さんなんかに相談するのが重要になるんですね。ただ、弁護士さんというと、ちょっとハードルが高いような感じがあると思うんですけれども、無料で相談していただける制度もありますし、また、高齢者支援の団体ですとか、借家人支援の団体もいろいろありますので、繰り返しますが、重要なことは、慌てずに相談に行くということだと思います。

昨夜の札幌や、北九州などで起きた集合住宅の火災。生活に困る人が身を寄せる住宅の存在が改めてクローズアップされているが、こうした場所も全国に広がっている?

稲葉さん:2000年代に入って、全国各地の大都市を中心に、生活困窮者を受け入れる民間の宿泊所が増えてきています。本来、こうした施設というのは、ホームレス状態にある方を一時的に受け入れて、アパートに移るまでを支援するという中間的な場所であったはずなんですけれども、今、そこに立ち退きにあった高齢者の方がアパートから施設に移ってくるという、逆転現象が起こってきているという状況があると思います。

田中:日本の住宅の内訳ですが、現在はこうなっています。持ち家が61.7%、賃貸住宅が28%、そして公営住宅が3.8%。このうち、立ち退きが起きている賃貸住宅の老朽化は、今後、より深刻になっていきます。

私たちは今回、民間の研究所に依頼し、大手不動産情報サイトに登録された全国の賃貸集合住宅の膨大なデータを分析してもらいました。築40年以上となる住宅がどれだけの割合を占めるか、都道府県ごとに示しています。去年(2017年)の時点では、全国平均で7%、5年で全国で14%、さらに10年で25%に上り、4軒に1軒で取り壊しの必要性が高まるんです。早くから住宅建設が行われた都市部から老朽化が進んでいきます。

これだけ急激に賃貸住宅の老朽化が進むという現実を見ると、高齢者だけではなく、現役世代にも突きつけられている問題だと思うが、なぜこんな状況になりつつあるのか?

平山さん:私は、やはり日本の住宅政策の在り方に大きな原因があると思っております。日本の住宅政策は、体系が出来たのが高度成長期でした。ですのでっていうこともあって、中間層の方々が持ち家を買う、それを支援するのが住宅政策の中心になってきたということですね。その時は、経済の調子もよかったですし、人口も若くて、所得も上がっていたという時代だったわけです。しかしながら今、時代が変わりまして、成長率は落ちていますし、高齢者の割合が26、7%まで上がってきているわけですね。ですので、条件が変わっているんですけれども、低所得者向けの住宅政策は弱いということが、今、大きな問題ですね。例えば、公営住宅が日本では3.8%しかありません。これは、先進国の中で、アメリカも少ないんですけれども、かなり低いレベルですね。それにまた政府の家賃補助制度がないというのが、日本を含む、ごくわずかな先進国の中では、非常に珍しいケースになっていると思います。
(そういった政策を転換しなければならない時期?)
昔作った政策があるわけですが、条件が変わっても、まだ転換できていないというところに、大きな問題があると思います。

田中:受け皿が減っていく中、どう住まいを確保するのか。高齢者の入居を阻む大きな壁が孤立死のリスクです。最近では、万が一、入居者が孤立死した場合に、部屋を元の状態に戻す費用を補償する孤立死保険がありますが、これだけでは大家の不安を完全に取り除くことはできないといいます。そこで、孤立死そのものを防ごうと、NPOが中心となって、先進的な取り組みが始まっています。

“立ち退き漂流” 孤立死を防ぐ取り組み

政令指定都市で最も高齢化が進む、福岡県北九州市。ここでも集合住宅が次々と取り壊されています。
住まいに困る人の入居支援を行っているNPO法人です。

家が借りられないと訴える身寄りのない高齢者が駆け込んできます。

72歳 男性
「いまは車の中で生活しています。やっと(家を)見つけても、保証人の問題が出てきて、最大の壁です。」

立ち退きによって漂流する事態を避けるため、NPOは新たな仕組み作りに乗り出しました。
カギを握るのは、不動産会社、そして家賃債務保証会社との連携です。不動産会社は多くの場合、入居に際して連帯保証人を求めます。連帯保証人がいない場合でも、その代わりをしてくれる家賃債務保証会社と契約すれば入居できます。しかし高齢者の場合、孤立死を恐れ、不動産会社だけでなく、家賃債務保証会社も敬遠しがちでした。そこで、NPOが間に入り、両者の不安を取り除く役割を担います。
特にNPOが力を入れるのは、入居後の孤立死を未然に防ぐ、見守り活動。訪問を繰り返すことで、不動産会社や保証会社の安心につなげようというのです。
独り暮らしの81歳の男性。

4か月前、立ち退きを求められ、この部屋に移ってきました。

「冷蔵庫開けてみてもいいですか?きれいに整理されてますね。」

まず、食事をしっかりとっているか確認。

81歳 男性
「これがテーブルです。食べますよ。」

何気ない会話をしながら、体調に異変がないか聞き出します。

「悪くなったりするでしょ、膝とか?」

81歳 男性
「そんなこと全くないです。」

「すごいですね。そういうふうに生活できるの、教えてもらいたいですよ。」

81歳 男性
「歩くことですよ。」

「万が一のときは、すぐに電話して下さい。遠慮したらだめですよ。」

81歳 男性
「見守ってもらっている。安心感がある。」

こうしたNPOの取り組みに可能性を感じ、保証会社も協力を申し出ました。NPOの担当者が訪問していない時でも安否確認ができるよう、自動音声の電話をかけることにしたのです。

81歳 男性
「状況に変わりない方は、1を押してください。」

もし異変を察知すれば、すぐにNPOに連絡し、駆けつけてもらいます。こうした連携を強めることで孤立死のリスクを軽減。不動産会社と保証会社の不安が解消され、高齢者の住まいが確保できるのです。

家賃債務保証会社
「この課題に対して、いずれ向き合わなくてはいけない。三者でこの社会課題に向き合えば、少し前進する。」

NPO法人 抱樸 奥田知志理事長
「かつて家族が補っていたところを、社会的な連携で補っていこうと。いま真剣にやらないと、自己責任、身内の責任に戻しても、それはもう機能しない。」

“立ち退き漂流” “住まいの貧困”進む日本

今、ご覧いただいたような取り組みをどう思う?

稲葉さん:アパート入居後の見守りを、NPO単独ではなくて、不動産業界とも連携しながら行っているという点が大変特徴的で意義が深いというふうに考えています。ただ、課題は、見守りを行う職員の人件費、通信費等をどう賄っていくかという点でして、現状では、家賃に若干上乗せをして入居者の方に負担をしていただいたり、あるいはNPOが持ち出しで行っているというケースが多いんですね。やはり、こうした部分に行政が補助金を出して運営を支えていくという仕組みを作ることが重要だと思っております。

国は去年、全国で増えている空き家を活用して、大家や借りる人に補助金を出して、それを受け皿にしようという制度もスタートさせています。
いわば賃貸住宅を半公営・半民間で担っていこうという取り組みだと思うが、こうした政策の方向性をどう見る?

平山さん:新しいアイデアとして、民間の賃貸住宅を自治体などが介入して、社会的に使っていこうというアイデアはいいと思うんですけれども、少なくとも現時点では、政策のスケールが非常に小さいというのが残念なところであります。やはり重要なことは、私は3つあると思うんですけれども、1つは、やはり低家賃のしっかりした住宅を作るということですね。2つ目に家賃補助の制度をきちっと作っていく、3つ目に高齢者などの方々の入居を支援していくということですね。

国の制度には、アイデアは入っているんですけれども、スケールが非常に小さいですので、うまくいくようでしたら、これをもっと抜本的に拡大していただきたいと思っております。
(住まいを充実させることが、公共政策として重要になってきている?)
暮らしに困っているとどうするかという場合、よくあるのが、社会保障の議論がやっぱり非常に盛んなわけですけれども、社会保障ももちろん重要なんですけれども、それに比べまして、住宅は投資として、非常に重要な役割を果たすと思います。例えば、所得保障を打ちましても、それを使うと当然ですけれどもなくなっちゃうわけですけれども、住宅は建てたら、ずっと使えるわけで、将来、超高齢社会がもっと高齢者が増えていくわけですから、今から住宅を投資して、住宅に投資していくのが重要だと思いますし、また所得保障に比べますと、住宅保障は貧困を予防する役割がありますので、そういう役割にも注目していきたいと思います。

稲葉さん、今後の政策について?

稲葉さん:現時点でも高齢者の住まいを巡る現状というのは、非常に深刻なんですけれども、私も10年後、20年後、どうなっていくんだろうということを大変危惧しております。非正規雇用が90年代から増えてきて、この方々が20年後には高齢化していくと。賃貸で暮らす1人暮らしの高齢者というのが増えていく、急増していくというのは必至なんですね。そこをどう社会的に解決していくのか。これまでバラバラに行われてきた福祉政策と住宅政策を融合していくという視点が重要だと思っております。

住宅政策、そして福祉政策、社会保障を一体として考えていくっていうことですね。
「長生きしたのが悪かった」、行き場を失ったお年寄りにこんなことを言わせてしまう社会であってはならないと思いました。住まいという生きていく上で欠かせない礎を守るために、時代の変化を捉えた対策が必要だと思います。