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【社説】

首相の答弁撤回 法案の再考が必要だ

 安倍晋三首相は、重視する働き方改革関連法案に関する国会での答弁を撤回、おわびした。根拠となるデータへの疑義を認めたからだ。経緯の説明とともに法案の再考が必要だ。

 「答弁が虚偽だったということであり、論外だ」

 立憲民主党の蓮舫参院国対委員長はこう批判した。不確実なデータだったことに野党各党が一斉に反発するのもうなずける。

 撤回した答弁は、働き方改革関連法案に含まれる裁量労働制に関する質疑だ。首相は一月二十九日の衆院予算委員会で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と、制度の利点を強調した。

 野党は首相が引用したデータに疑義を指摘、首相は今月十四日になってデータの出し方に瑕疵(かし)があったと認め撤回した。

 まず指摘したいのは、この制度導入の理由のひとつとして政府が挙げる労働時間の短縮に疑問がでた点だ。議論の前提が崩れた。政策への基本的な姿勢が問われる。

 首相が「働き方改革」を最重要課題と言う割には、お粗末な答弁ではなかったか。通常の働き方の労働者より裁量労働制の労働者の方が労働時間が長いとの別の調査もある。政権に都合のいい数字を出して審議していたとしたら許されない。国会を軽視していると言わざるを得ない。

 政府はデータを精査し十九日にも報告する考えだ。なぜこんな不確実な調査がまかり通ったのか、国民に説明する責任がある。

 裁量労働制は、残業も含め労働時間と賃金をあらかじめ労使で合意する働き方だ。仕事の進め方を労働者の裁量で決められる職種が対象となる。労働者の裁量で効率的に仕事ができると政府は説明するが、実際は賃金以上の長時間労働が広がると懸念されている。関連法案には営業職にも対象を広げることが盛り込まれている。

 この制度の拡大は、「残業代ゼロ制度」と批判のある高度プロフェッショナル制度の創設と合わせ、経済界が求める規制緩和策である。しかし、両制度とも「働かせ放題」になると批判があり、二〇一五年に法案が国会に出されたものの審議されていない。

 今回の関連法案には、残業時間の上限規制など長時間労働の是正策が入るが、その改革の方向と逆になる制度を抱き合わせる手法は問題である。規制緩和策を法案から切り離すべきではないか。

 

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