ヒト・コト・ミライが交差する
リアルプレイス │ エイチ

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produced by amana

EVENT

ぼくらはこれからもメディアに
夢を見ることができるのか?


出演者:若林恵(編集者/『WIRED』日本版・元編集長)


2018年2月23日(金) 18:00〜19:30

2017年末に突然舞い込んできた、『WIRED』日本版・編集長若林恵さんの退任と休刊(プリント版)のニュース。誌面で展開される独自の視点と鋭い洞察力にファンも多く、存続を望む声も多数聞かれました。

そうして数々のメディアが生まれては消えていくなかで、テレビ、新聞、雑誌、ウェブマガジン、オウンドメディアと、これまでメディアは時代の要請に応じて、姿形を変えて私たちのもとに届いてきました。いまではSNSを含めたウェブメディアが強い影響力をもっていますが、「社会性をもたないメディアに未来はない」と若林さんは語ります。メディアにおける社会性とは一体何なのでしょうか。トークイベントでは以下の事前インタビューを踏まえて、若林さんとその答えを探っていきます。

当日はトーク中にリアルタイムでtwitterから質問を受け付けます。普段なかなか聞けない質問を若林さんに答えていただくチャンスですので、ぜひご参加ください。


ウェブメディアには別の可能性があるのか?

-『WIRED』日本版おつかれさまでした。なぜ退任することに? 今後『WIRED』はどうなるの?と疑問を持っている方々も少ないと思うのですが、その話はイベントで触れていただくとして、今回はメディア論についてお伺いできればと思います。

その話、当日話すの? 話してもいいけど、たいして実のある話にはまずならないよ(笑)

 

-話せる範囲で結構ですのでお願いします(笑)。今回のテーマは「メディア論」ということで、雑誌の影響力が強かった時代から見てみると、いまでは多くのフォーマットに細分化されました。『WIRED』でも、プリントとウェブで展開されてきましたが、両者の違いって何なんでしょうか?

えーと。まあ、それをずっと考えながらやってきたわけなんですが、最近ちょっと思ったのは、いわゆる「出版モデル」ってものと「電波モデル」の違いってことでして。出版って基本メーカーなんで生産供給量の設定っていうのが最初にあるんですよ。刷り部数5万部の雑誌だったら、基本その5万人を見てればいいわけです。一方でラジオ、テレビとかの電波モデルって、これ、まずコンテンツに対して課金ができないシステムだったので、原理的にみんなに届いちゃうわけですよ。そのなかからどれだけのパーセンテージを取れるかっていうのがここでの勝負のキモなわけですよね。ウェブでいう「リーチ」って言葉は、この電波モデルの考え方から来てるんだろうと思うわけなんですが、このふたつってまったくビジネスの成り立ちもモデルも違うものなんですよね。

いわゆる出版モデルが扱っているのが「コンテンツ価値」っていうものだとすると、後者が扱ってるのって「広告価値」なんですよ。リーチが取れるっていうのは「広告価値」が高いってことになるとは思うんですが、逆にそのことによって当然コンテンツ価値は下がるわけです。ただで誰もが見れるたり読めたり聞いたりするわけですから。「情報はタダになりたがる」ってセリフ、誰が言ったのかよく知らないですけど、実感としてそう思ったこと一回もないんですよね。それって本当にあってるんですかね?(笑)。ところが広告の場合はこれが正当化されるんですよ。ただそれにしたってタダになりたがってるのかは怪しい気もして。タダにするしか方法がなかったっていうのが電波情報ってものなので、仕方なくそうせざるを得なかったって話かもしれないんですが。

で、要は、ウェブメディアっていうのは一体どっちなんだっけ?っていう話なんですよね。現状、出版の原理を電波の原理に接ぎ木しようって感じに見えてますけど、まあ、ふつうに考えて、それうまくいかないですよね。そもそも相矛盾している価値軸をアラインさせようっていう話なので。今後どうなるかはわからないですけど、刷り部数っていう概念を、ちゃんとネット内においてつくれないとこの矛盾は解消しない気がするんですが。そもそもプリントはせいぜい5万人とか10万人を相手にやってる商売でしかないんですよ。それが、ウェブになった途端、必然的に全国民が視野に入って来ちゃって数千万とか億みたい数字が飛び交う。これ出版の人間からするとそもそも意味不明な話なんですよ。

 

-ということは、逆にウェブメディアは、まだ別の可能性がありうるということなんでしょうか

どうでしょうね。広告に依存しているうちは同じロジックのなかをぐるぐるしちゃうことになると思うので、そのなかで新しいプロダクト性みたいなことをつくれるかどうかってことなんですかねえ。ブロックチェーンが一般化するとそういうことも可能になるのかなあ。どうだろう。

ほとんどのオウンドメディアは死んでいる?

それとはまた別の話として、「メディアブランドの価値」っていうものをどういうふうにあげていくことができるのか考えたときに、そのブランドがどれだけ「社会性」を持つかが重要だってあるとき気づいたんですよ。それ、電車で吊り広告を眺めてたときに気づいたんですが、吊り広告って、赤の他人が見てる情報を自分も見てるっていうことがとても重要なんですよ。情報って、実は一対一での授受の関係ではなくて、その間に社会とか世間とかいう第三項が常に関与してるんですよね。そこを睨みながら、いま自分が見てる情報の相場観が決定されるんですよ。そこでふと思ったのが、これってお金そのものじゃないかと。

 

-どういうことでしょう?

お金のメカニズムって、岩井克人先生の言葉を使うと「自己循環論法」になっていて、ある通貨が流通するのって、みんなが1万円が1万円であることを信じているから流通するということなんですよね。なので、ぼくがあなたに1万円渡したときに、あなたが受け取るのは、あなたがある未来において「他の誰か」がそれを1万円として受け取るっていうことを信じているからですよね。つまり、一対一のコミュニケーションって、その第三者がいないと成立しないっていう逆説があるんだと思うんですよ。

で、ウェブの情報ってのは、そういう意味でいうと社会性を持ちづらいんだと思うんですよ。つまり「ネットでバズってましたね」っていうような話って、ある閉じたサークルでの共有物にしかならないじゃないですか。「社会化」しないんですよ。なんかデッドエンドなんですよね。ところが街のなかをロボットレストランのトラックが走り回ったりしてるのって、存在としてはるかに「社会化」するんですよね。これ、ネットの難しさなんですよ。読む人数が増えたところで社会的なものにならない。

 

-昨今、メディアが乱立するなかで、企業が運営するオウンドメディアも増えてきています。

うん。そうなんですよね。オウンドメディアってのはただでさえ社会性がもちにくい環境の中で、しかも私企業がPRや宣伝のためにつくるものなので、これ二重に苦しいもんなんですよね。自分の会社のブランドを社会的なものにしたいと思ってみなさんおやりになるんだと思うんですけど、よくてスーパーのチラシのような機能しか果たせないんですよ。必要な人に情報を届ける役には立つけれども、メディアにはらないんですよね。

 

-なぜですかね。

うーん。まあ、さっきの話に即していうと情報の「広告価値」と「コンテンツ価値」っていうものを履き違えるからでしょうね。

 

リアルイベントは「コンテンツ価値」がなくてはならない

-オウンドメディアが繁茂する一方で、出版社や企業がリアルプレイスでイベントをすることも増えてきていますね。

去年、『WIRED』で「WIRED Real World」という、海外のイノベーション最先端の現場を巡る旅のプログラムをやってたんですけど、これは参加するお客さんもまたおもしろかったりして、結構よかったんですよね。基本ぼくらの仕事って、情報発信をして、それがなんらかのアクションにつながることを期待してたりするわけなんですが、実際のアクションにより近いところにまでお客さんを連れて行けないかなと思ったのが始まりだったんです。で、実際にツアーをやってみたら、彼らのあいだでプロジェクトが生まれたりして、それが思ってたよりはるかにうまく行ったんですよね。

いうなれば一種のインキュベーションプログラムなわけなんですが、ただ、そこでもぼくらとしては、あくまでもそれを「コンテンツ」として設計することにこだわったんです。つまりあくまでもメディアコンテンツの延長なんですよ。みんなで一緒に取材に行くみたいなことなんですけど、ぼくらは一応は取材のプロなので、何の、どこにコンテンツとしての面白さがあるのかを探すことに関しては一日の長があるんです。それをお客さんと共有するだけで、単なる視察に、もう少しアクチュアリティを与えることができたりするんです。

ものごとからコンテンツとしての価値を取り出すってことは、みんなできるつもりなんですけど、ほとんどできないんですよ。だから情報の価値を数値化しやすい広告価値でしか測れない。オウンドメディアがつまらないと感じてしまうのは、そう考えると当たり前だと思うんですけどね。それ以前に、オーダーする側と実制作する側のどこにモチベーションがあるのか、って話もありますしね。

 

まだまだ興味深い話は続きますが、今回はここまで。メディアに対する膠着した見方から脱却することで、従来とはまったく違ったメディアの活用メソッドが見えてきそうです。トークイベントでは、ここでは書き記せなかった内容やメディアが生き抜いていくための方法論について、若林さんにさらに深掘りしていただきます。奮ってご参加ください。

タイトル ぼくらはこれからもメディアに夢を見ることができるのか?
日程 2018年2月23日(金) 18:00〜19:30
会場 amana square
料金 2,500円
定員 72
申込締切 2018年2月23日(金)

登壇者紹介

編集者 若林恵

1971年生まれ。2000年にフリー編集者として独立し、『Esquire日本版』『TITLE』『LIVING DESIGN』『BRUTUS』『GQ JAPAN』などの雑誌を手がける。2012年から2017年12月まで『WIRED』日本版 編集長を務めた。

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