「hungry」か「hangry」か なぜおなかがすくと怒りっぽくなるのか

オーウェン・エイモス、BBCニュース、ワシントン

American Chloe Kim won gold in South Korea - the country her parents emigrated from in 1982 Image copyright Reuters
Image caption クロイー・キム選手は冬季五輪中、アイスクリームとチュロス(揚げ菓子)についてツイートしている

平昌五輪のスノーボード女子ハーフパイプで金メダルを獲得した米代表の17歳、クロイー・キム選手は、試合前に「hangry」だった。ただ「hungry(空腹)」なだけではなく。「angry(怒っている)」でもあったのだ。だから、「hangry」だと。

ではなぜ、おなかがすくと人は怒りっぽくなるのか。

キム選手は13日朝に韓国で、自分の朝食についてツイートした

「朝食のサンドイッチを全部食べたかったけど、頑固な自分がそうさせなかった。おかげでhangryになってきちゃった」というそのツイートは、数分もしない内に世界中をかけめぐった。

空腹で腹が立っている「hangry」だと認めたキム選手のこのツイートは、大勢の共感を呼んだ。ツイートは15日午前までに1万回以上リツイートされ、10万回以上「いいね」が押された。

「hangry」になっても、キム選手にマイナスにはならなかった。その3時間後のツイートは、金メダルをとって泣いている自分の写真だった。

どうして「hangry」になるのか

要するにそれは、生き延びるための仕組みなのだと、ジョージ・ワシントン大学健康科学・医学部の医学准教授マイケル・ナイト博士は説明する。

「食事を取ると、私たちの体は食べ物をブドウ糖などの栄養素に分解する。ブドウ糖は最も基本的な糖類で、体のエネルギー源だ」

「私たちの脳は、特に大量のエネルギーを消費する器官のひとつだ。体の全エネルギーの約20~25%は、体の全重量の約2%ほどしかない脳によって消費される」

「空腹は、脳にもっと燃料が必要だという信号だ。血中の栄養レベルが減少し始めると、信号が発信される」

「脳が燃料切れになると、ストレス反応が刺激される。まさに、生存メカニズムそのものだ」

「色々な感情への抑制力が弱まる。脳が最大出力で機能するには燃料が必要なので、空腹になると集中しにくくなったり感情の制御が難しくなったりする」

「特に多いのが怒りの感情で、おなかがすくとイライラしがちなのはそのせいだ」

「hangry」にならないように

「栄養バランスの整った食事を十分に取れば、次の食事までは抑えられる」とナイト博士は言う。

「『hanger(空腹による怒り)』を感じ始めた場合、少し甘い、ブドウ糖のもとになる何かをとれば、それが抑えられる」

では、よくCMなどで言われるように、チョコレートは効くがのか?

「科学的な根拠は実際、それなりにある」とナイト博士は言う。

「糖分を摂取すると血糖値は上がるので、脳は燃料が運ばれてくるのを感じてストレス反応を弱める」

即効性なら糖質なのか

「分解してブドウ糖にしているのは、主に炭水化物だ」とナイト博士。「私たちの体は確かに、ほかの栄養素(脂肪やタンパク質)を分解してもっとブドウ糖を作ることもできる。炭水化物をあまり食べない人は、特にそうだ」

「けれども、ブドウ糖を摂取する一番手っ取り早い方法は、炭水化物を食べることだ」

つまり、キム選手はサンドイッチを全部食べるべきだったのだ。

遺伝は関係する

「空腹状態でも長いことイライラしないでいられる人も、中にはいるかもしれない。その一方で、食べるのを止めた途端にキレそうになる人もいる」

ナイト博士によると、「hangry」になるプロセスと遺伝子の関係は完全に解明できていない。しかし、ニューロペプチドYなどの重要な神経伝達物質は、DNAと遺伝的に結びついている。

「そのため、遺伝子の状態と感情抑制能力の関係から、空腹でイライラしやすい人がいるのかもしれない」

Michael Knight, MD, assistant professor of medicine at the George Washington University School of Medicine and Health Sciences Image copyright George Washington University Medical Faculty Assoc
Image caption ジョージ・ワシントン大学健康科学・医学部准教授のマイケル・ナイト博士

女性の方が「hangry」になりやすい?

「それについてはまだ研究段階だが、女性の何割がそうなるとか、女性の方がなりやすいなどのデータは何もない」とナイト博士は言う。

「空腹と同じように、本当に人それぞれだ」

けれども「hanger」は本物?

「もちろん」とナイト博士は言う。

「ジョージ・ワシントン大学で体重管理のトレーニングを担当しているが、患者がそういう気持ちになるのは、よくあることだ。けれどもそうなるとかえって、もっとたくさん食べてしまうので、患者の人たちと取り組む課題のひとつだ」

「hangry」という単語はすでに、オックスフォード英語辞典にも掲載された。同辞典は先月、「hangry」を「空腹で不機嫌になったり、怒りっぽくなったりすること」と定義し、実際にある言葉だと発表した。

キム選手の場合、幸いにして「hangry」状態は長くは続かなかった。金メダル獲得後、アイスクリームを頬張っている様子が見られた。

「クロイー・キムがようやく、アイスクリームを手にした。インタビューを受けながら、食べている」というツイートもあった。

(英語記事 Chloe Kim: Why do some people get 'hangry'?

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