トランプ米大統領の「殺人」発言の中身

↑ 2月12日に行われたインフラに関する会合でのお話。(写真:ロイター/アフロ)

・トランプ米大統領の発言として報じられた「殺人を犯しながら逃げている」は比ゆ表現であり、そのまま直訳したのでは意味を違える。

・元の発言は「They've gotten away with murder」。慣用表現として「好き勝手なことをしておきながら罰を免れる」を意味する。

先日、複数の報道機関で、トランプ米大統領が「日本を含む貿易相手国が「殺人を犯しながら逃げている」」と伝えている。記述内容は次の通り。

トランプ氏はホワイトハウス(White House)で開かれたインフラ関連の会合で、出席した閣僚や州・地方自治体の関係者を前に、「他国に利用されてばかりではいられない」と述べ、「わが国は対中日韓で巨額を失っている。これらの国は殺人を犯しながら逃げている」と指摘。

出典:トランプ氏、日本などが貿易で「殺人」と非難 対抗措置を警告(AFP=時事)

似たような表現の報は読売新聞などでも行われている。

「米国は中国や日本、韓国、その他多数の国で巨額のカネを失っている。(それらの国は)25年にわたって『殺人』を犯しておきながら許されている」(They’ve gotten away with murder)」と述べ、異例の表現で非難した。

出典:「日本など『殺人』」トランプ氏、貿易巡り非難(読売新聞)

今件部分の原文は、例えばロイター電などで確認できる。

“We cannot continue to let people come into our country and rob us blind and charge us tremendous tariffs and taxes and we charge them nothing,” Trump told reporters at a White House event to announce a proposed infrastructure plan.

The United States loses “vast amounts of money with China and Japan and South Korea and so many other countries ... It’s a little tough for them because they’ve gotten away with murder for 25 years. But we’re going to be changing policy,” he said.

出典:U.S. to push for 'reciprocal tax' on trade partners: Trump(ロイター)

該当部分は「(We lose)“vast amounts of money with China and Japan and South Korea and so many other countries ... It's a little tough for them because they've gotten away with murder for 25 years. But we’re going to be changing policy.”」。直訳すると確かに「我が国(アメリカ合衆国)は対中国、日本、韓国、そしてそれ以外の多くの国(との貿易)で巨額を失っている。しかし彼らはほとんど痛い目に会っていない。この25年もの間、殺人の罪から逃げている。だが我々(アメリカ合衆国)は今後この構造を変えていくつもりだ」となる。

しかしながらこの「they've gotten away with murder」の部分は慣用表現としての言い回しであり、そのまま直訳するのは報道としては不適切。第一、前後の話のつながりがおかしくなる。

get away with murder

好き勝手なことをしておきながら罰を免れる

出典:研究社 新英和中辞典

get away with murder

悪いことをしても罰せられない、何をしても許される[とがめられない]、好き勝手にする

出典:英辞郎 on the WEB

get[or go]away with (blue) murder

悪事を見つけられずに[処罰されずに]過ごす;なんでもし放題である;自分の望みどおりにする

出典:小学館ランダムハウス英和大辞典

要は「中日韓などの国は貿易で好き勝手にやってきてアメリカ合衆国は巨額の損をしている。今後はこの構造を変えるつもりだ」となる。

トランプ米大統領はこの類の言い回しを使うことが多い。本人の性格上仕方が無いのであろうし、不特定多数に直接訴えかけるとの視点ではむしろメリットでもある。専門家による専門用語では無く、一般的な話し言葉で語るのと発想的には同じ(そのような意図で使っているのか、結果としてそのような効用が期待できるのかは不明だが)。

今件報道は例えるなら、「これぐらいのことは朝飯前だ」と発言したら「朝食はすでに御済みのはずですが」、「頭をひねって考えました」と発言したら「命を落としかねませんよ」、「へそで茶を沸かす」と発言したら「それは物理的に不可能です」と突っ込みを入れるようなものに等しい。少なくとも直訳をそのまま載せるのみで、意味を加えないのは適切では無い。

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