脊椎動物は海にいた時代から歩けたか

古代魚ガンギエイに「歩く」神経回路を発見、進化の道筋にヒント

2018.02.15
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【動画】歩くガンギエイの一種Leucoraja erinacea
我々の祖先はこの魚のように歩いていたのだろうか。(解説は英語です)

 4億年前、最初に歩いた動物は、おそらく体にある小さな突起物をせっせと動かして前進したことだろう。このような運動は今も、過去1億年もの間ほとんど進化していないエイの仲間に見られる。(参考記事:「陸に出た最初の魚、足のような強いヒレ」

 最新の研究で、ガンギエイの一種Leucoraja erinaceaは歩くために必要な、人間と同様の神経回路を持っていることが判明、2月8日付けの科学誌『Cell』に論文が発表された。

背骨を揺らさず歩く

 このガンギエイは、大きめの皿くらいの平たい体に、長い尾がついている。(参考記事:「【動画】深海エイが熱水噴出孔に卵、温めるためか」

 ふつうの魚は、泳ぐ際に背骨(脊椎)をくねらせて前へ進むが、ガンギエイの脊椎はまっすぐ伸びている。この点は陸上動物に似ていて、陸の動物たちも脊椎でなく足の筋肉を使って歩行する。

 米ニューヨーク大学医学部神経科学研究所のジェレミー・デイセン准教授は、歩行など運動行動の進化に長年興味を持ってきた。「YouTubeで、歩くガンギエイの動画を見かけたんです」。デイセン氏は、動画を見てすぐに、貴重な知見を与えてくれるだろうと直感したという。(参考記事:「【動画】「歩く魚」を撮影、種は不明」

 歩行運動の観察と並行して、研究者は、ガンギエイの細胞のなかで歩行の指令を出しているのが何かを詳しく調べたいと思った。「受精した細胞からさまざまな器官ができてゆく過程は、いつ見ても興味深いです」と、デイセン氏は言う。

 この研究所では、既にマウスの神経回路を試験したことがあり、ある特定の遺伝子を無力化することでマウスが歩けなくなったり、麻痺症状を示すことがわかっている。

 ガンギエイを調べるに当たり、研究者はまずその運動ニューロンを抽出し、DNAを解析。さらに、孵化する前のガンギエイを観察した。人間もガンギエイも発生の初期段階である胚の時点で神経回路を発達させているからだ。すると、初めのうちガンギエイは脊椎を使って前進していたが、孵化する頃には脊椎が動かなくなり、ひれを使って前進するようになっていた。(参考記事:「脊椎動物の強力な武器「顎」はどのように誕生したのか」

古代の魚にも歩く遺伝子構造

「マウスとガンギエイを比較してみると、マウスの歩行に必要なもの全てが、ガンギエイにも備わっていました」

 ガンギエイも哺乳類も、同じ「遺伝子スイッチ」を持っていたことを、今回の研究は示している。つまり、ガンギエイに小さなひれを動かすよう指令を出している遺伝子が、人間のなかでは腕や足を動かすよう指令を出しているという。

 この研究結果から、陸上を歩く動物の遺伝子構造は、まだ祖先が海の中にいた頃に発達したのではないかと、デイセン氏ら研究者は考えた。ここから、我々に共通する祖先についての理解がさらに深まるだろう。(参考記事:「最初の四足動物は歩けなかった」

 歩行運動を司る基本的な遺伝子の研究は、いずれ医学への応用も期待できる。

 デイセン氏は言う。「筋萎縮性側索硬化症や脊髄損傷など、損傷した回路をどう修復するかを研究する際、これらの回路がどのように形成されているかについて知っておくことが、重要になってくるのです」

文=Sarah Gibbens/訳=ルーバー荒井ハンナ

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