4月1日から、性同一性障害に対する性別適合手術が保険適用される――。昨年11月末、厚生労働省の審議会でこのような決定がなされたと知って、私は少なからず衝撃を覚えた。
性同一性障害(最近では「トランスジェンダー」と呼ばれることも多い)は、医学的には「病気」に分類される。世界保健機関(WHO)が作成した国際的な疾病分類では「精神および行動の障害」の1つに位置付けられる。心は女性・身体は男性であるMTF(male to female)と、心は男性・身体は女性であるFTM(female to male)がある。
日本精神神経学会の委員会が実施した調査では、性別違和感を訴えて国内主要26医療機関を受診した患者は、2015年末時点でMTF 7688人、FTM 1万4747人。このうち、性別適合手術が行われたのは、国内1407人、国外1379人だ。
これまで医療保険給付の対象となっているのは、カウンセリングや合併するうつ病などに対する薬物治療といった精神的サポートのみで、性別適合手術は保険適用外だった。適合手術はFTMの乳房切除術や子宮・卵巣摘出、陰茎形成、MTFの精巣・陰茎摘出など多岐にわたる。自費診療のため費用は医療機関によって異なるが、200万円以上かかることもあるようだ。
限られた医療機関でしか実施されていないために、手術までの待機期間の長さも問題となっていた。保険適用によって自己負担額は減り、手術を実施する医療機関も増えれば待機期間は短くなる。手術を受けたくても受けられなかったトランスジェンダーの人々には朗報だろう。
一方で、当事者の間では、保険適用により新たな誤解が広がることを懸念する声も挙がる。インターネットの掲示板には、こんな書き込みがあった。
「手術のハードルが下がるほど、『手術を受ければ解決する』という誤解は広がりかねない」
「『性同一性障害の患者は全員、性別適合手術を望んでいる』。医師でさえ短絡的にそう決めつける人もいる」
保険適用よりも、法制度の見直しを議論すべきとの指摘もある。現在、戸籍上の性別を変更するためには幾つかの条件があるが、その1つは「性別適合手術を受けていること」だ。正確には、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること」と規定されている。生殖機能の残存により子が生まれたり、公衆浴場などを利用した際の混乱を避けるためとされるが、手術を望まないトランスジェンダーの人には、戸籍上の性別を変更できない社会的・精神的苦痛を強いることになる。
そもそもトランスジェンダーの人すべてが、身体の性別を心の性別に一致させたいと思うわけではない。身体にメスを入れる適合手術は、健康被害のリスクも伴う。さらに言えば、「性的マイノリティー」にはレズビアンやゲイなどの異性愛者も含まれる。性の認識に、明確な境界線は存在しない。
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