「暴落」後、日米株価は相変わらず不安定な動きを続けている。筆者は、この原因は、FRBのインフレ予想を上回る金融引き締めの「行き過ぎ(実質金利の上昇とFRBの資産圧縮)」が原因だと考えている。
従って、FRBがとりあえず、現状の金融引き締めを中断しない限り、株価の不安定な動きは終わらないと考える。ただし、幸いなことに現時点ではまだ世界の資産市場は「リスクオフ」の局面には移行していない。
よって、現段階までの株価の大幅下落は、かつてのITバブル崩壊やリーマンショックなどのバブル崩壊ではなく、本格的な金融引き締めの初期にみられる株価、もしくは、株価にビルトインされている投資家の経済の先行きに対する「期待」の調整と考えることもできる。
だが、このままFRBが現状の金融政策スタンスを変えずに、引き締め効果が累積していった場合(例えば、FRBの資産残高の減少幅がピークから10%を超えた場合)には、「リスクオフ」への転換もありうるので予断を許さない(これについて、2017年7月20日の当コラム『アメリカ金融政策「利上げ」の次の話題はもっぱらコレだ』を参照ください)。
そのような状況の中で、現在の株価水準が割安か割高かについての議論がいまだに続いている。割高論の代表格は、「バフェット指標」である。
「バフェット指標」とは、株式の時価総額が名目GDPの規模と比較して100%を超えていれば、経済規模と比較して株価が過度に上昇していると判断するものである。ちなみに昨年12月時点の「バフェット指標」をみると、日本は128.5%、米国は112.7%でいずれも100%を越えている。従って、「株価は割高で、調整する運命にあったのだ」ということになる。
一方、割安論の代表格はPERなどの「バリュエーション指標」である。
例えば、予想PERをみると、2月初め時点で、日米とも主要株価指数ベースで15倍から16倍程度である。バブルの頃の予想PERが50倍、ないしは60倍、もしくはそれ以上だったということを考えると、現在の日米の株価はそれほど割高ではないということになる。
これら2つの指標をみると、ともに「なるほど」と思ってしまうが、最大の問題は、ともに割高・割安の「基準」が曖昧な点だ。
「バフェット指標」は一応、「100%」が割高か割安の判断の分かれ目になっているが、100%を優に超えた株価指数も新興国を中心に多く存在する(例えば、シンガポールは269.7%、南アフリカは387.6%、韓国は118.3%など)。つまり100%を大きく超えたとしてもそれは必ずしも将来の株価調整を示唆するものではない。
予想PERも同様である。筆者はPERの「均衡値」がどの程度かを様々な経済指標などを用いて推定してみたが、統計学的に有意な結果をもたらすモデルを探せなかった。PERの均衡値はそのときの株式市場を取り巻くマクロ経済環境によって変化していくと考えるのが自然であるため、PERを用いて株価の割高・割安を考える場合には、過去の平均値と比較してもナンセンスである。
細かい話をすれば、マクロ経済との関連性からPERの均衡値を推定する「モデル」を推定することが必要である。だが、筆者はこれをどうやっても見つけ出すことができなかった。従って、予想PERを用いて株価の割高・割安を判断するのも、少なくとも筆者にとっては難しい話である。