こんにちは。医薬品メーカーで働いているラクダです。
急な体調不良で辛い時のために家に薬を常備している方も多いですよね。
痛み止めや風邪薬など念のために買っておくのですが、こういう常備薬に限って使おうと思った時に使用期限がギリギリだったりします。あるいは使用期限が切れているかもしれません。
「この薬って安全に使えるの?それともやめておいたほうがいい?」
薬剤師として医薬品メーカーに勤めていると、こういった質問をよくされます。
結論から言うと、「期限内なら安心して使って大丈夫。期限切れてるやつは諦めて新しいのを買って下さい」なのですが、それだけでは当たり前すぎて納得できないですよね?ですので、今回は期限内なら安心して使える理由を、医薬品メーカーの立場から解説したいと思います。また、期限が切れた薬を使うのをやめてもらえるように、こちらも具体例を出しながら説明します。
この記事を読んだあなたが二度と薬の期限について悩まないように、ぜひ読んでいってくださいね。
※この情報は、2017年5月時点のものです。
Contents [hide]
1.その薬は安心?薬の使用期限について
薬を安全に使うためには、その薬の使用期限を確認できないといけません。これまで薬の使用期限がどこに書いてあるか見てみたことがありますか?
市販の薬であれば、使用期限を探すのは簡単です。お菓子のように、使用期限は箱に書いてあります。箱ではなく缶やプラスチック製のボトルに入っているような薬でも、食料品と同じような場所を探せば使用期限が見つかるはず。薬によって使用期限は違いますが、製造後2〜3年くらいが多いと思います。
処方箋薬も箱やボトルに使用期限が記載されています。しかし、箱のまま薬局で薬をもらう機会はほとんどないかと思います。湿布薬なら袋ごと処方してもらったことがある方もいるかもしれません。機会があったら、ちょっと見てみると楽しいかも?
はるかぜ薬局さんによると、処方薬の使用期限の目安は下記の通りです。
> 調剤薬局や病院の薬局でもらった薬には、使用期限が書いてありません。
薬の有効期限の一応の目安は、次のとおりです。
錠剤・カプセル・軟膏・坐薬:6ヶ月~1年位
粉薬・顆粒:6ヶ月~1年位
水薬:冷蔵庫で1週間~10日位
[お薬Q&A](http://www.harukaze-yakkyoku.com/me_qa/index.html)
ただし、処方薬は何日分の薬なのかを知らされるはずですね。処方薬は決められた期間で飲みきるように考えられていますので、飲み残しがないように使いましょう。
まとめると、
市販薬の使用期限は、箱に記載。
処方薬の使用期限は、処方箋の日数。
一概に何年と言えないのですが、いつ買ったのか(処方されたか)わからない古い薬には気をつけてくださいね。
2.薬の安全性は世界最高水準!期限内なら安心安全
最初に主張したいことは、「正しく保管されていれば期限ギリギリでも薬は安心して使える」と言うこと。
薬を供給する医薬品メーカーも医薬品メーカーを取り締まる国も、期限内の薬が効果的で安全であると保証するためには多くの労力を払っています。なぜなら薬の品質は患者さんの健康に対して直接的に影響してしまうからです。使っている間に効果がなくなってしまったり、副作用が出やすくなってしまっては困ります。このような事態を防ぐため、製造管理や品質管理の確認はかなり厳しく行われています。
例えば、厚生労働省や県による医薬品メーカーへの監査(検査)は世界的に見ても厳しいと言われています。医薬品の品質についてまとめた規格書の信頼性について、アメリカ、
ヨーロッパ、日本の規格書が世界TOP3と言えます。
国の事情や国民性によって厳しかった項目と緩かった項目がありますが、緩かった項目については世界基準に近づけるように改正が進められています。日本の弱かった点としては、意図的な毒物の混入や偽物の医薬品の流通など、国内で作られた薬が国内だけで使われているうちはあり得ないだろうと思われていた内容です。2014年に日本が加入したPIC/S GMPという世界で同じ規格書を使おうという取り組みに対応するため、「緩い項目は世界基準・厳しい項目は日本基準」となるように法律は徐々に改定され、医薬品メーカーはより効果的で安全な薬を作るために対応していっているんです。[PIC/Sの概要について](http://www.jpma.or.jp/information/quality/pdf/100915_1.pdf)
「本当に作られた薬は期限内なら安心だって、ちゃんと確認してるの?」
薬を使う患者さんにとっては、法律が厳しくなっているということよりも、実際の製品で検査しているということの方が安心かもしれませんね。
医薬品メーカーでは作った薬の中からいくつかを抜き出して、使用期限まで毎年検査をする取り組みを始めました。安定性モニタリングと呼ばれるこの取り組みは、製造後少なくとも12ヶ月ごとに使用期限まで検査をすることが義務付けられます。つまり、作った薬は出荷時と使用期限ギリギリで効果や安全性が同等であることを確認しているということです。[安定性モニタリング](http://www.pref.nara.jp/secure/119109/may.pdf)
患者さんに安心して薬を使ってもらえるように、国も医薬品メーカーも世界基準での保証を行なっているんですよ。
3.期限の切れた薬を使うと病気になるかも…
反対に期限の切れた薬は安全なのでしょうか?
3-1.効きが悪いだけって本当?インターネットで調べてみたら・・・
インターネットで調べてみると、「効きが悪いだけで大丈夫」とか「1年過ぎた薬を使ったことがあるけど効いたよ」という声も見つかりました。確かに1ヶ月くらい期限が切れても安心な薬もあります。シート状のプラスチック包装に錠剤やカプセル剤をいれたPTP包装などは湿気や酸素を通さないような加工をして、薬の劣化を抑えている製品もあります。プラスチックではなくアルミ包装で、光からも保護している風邪薬も見たことがあるのでは?[PTP包装](https://ja.wikipedia.org/wiki/ブリスターパック)
このような製品であれば、多少期限が切れた薬を飲んでしまっても健康上の問題は出てこないかもしれません。
3-2.効かないだけじゃない!本当は怖い、期限切れの薬
しかし、すべての薬が期限を過ぎても安心して使用できるというわけではありません。粉薬や錠剤のように乾いている製品でも、空気中の湿気を吸ってしまう可能性があります。ビタミンB2のように光によって分解してしまい、効果がなくなってしまう成分も存在します。[ビタミンB2](http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?ビタミンB2)
このような薬で期限を過ぎていた場合、効果が出るために必要な量が含まれておらず十分な効果を得られないでしょう。
さらに効果がないだけではないかもしれません。
薬の成分によっては、期限が切れて分解し、体にとって毒となってしまうものもあるんです。
例えば、テトラサイクリン系と言われる抗生物質の一種は期限切れの薬によって病気になってしまう可能性が指摘されています。医師や薬剤師が利用している解説書であるMSDマニュアルには下記の通りに記載されています。
> 使用期限切れのテトラサイクリンの錠剤は変性している可能性があり,それを服用すると,ファンコニ症候群が発生する恐れがある。使用期限が切れた際には薬剤を廃棄するよう,患者に指示すべきである。
[MSDマニュアル](http://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/13-感染性疾患/細菌および抗菌薬/テトラサイクリン系)
ファンコニ症候群についても解説があります。
> ファンコニ症候群は,糖尿,リン酸尿,汎アミノ酸尿,およびHCO3喪失を引き起こす近位尿細管再吸収の複数の欠陥から構成される。小児でみられる症状は,発育不全,発育遅滞,およびくる病である。成人でみられる症状は,骨軟化症および筋力低下である。診断は糖尿,リン酸尿,およびアミノ酸尿を示すことによる。治療はHCO3の補充と腎不全に対する処置である。
[MSDマニュアル](http://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/03-泌尿器疾患/腎の尿細管輸送異常/ファンコニ症候群)
テトラサイクリン系抗生物質が分解してできてしまった成分が腎臓にとって毒となり、病気を引き起こします。
3-3.ドラッグストアで買える薬も、期限が切れたら危険
他にもアセチルサリチル酸(アスピリンの成分)という痛み止めの薬でも、期限切れによって毒性が増すことがわかっています。アスピリンのようにありふれた痛み止めでも、期限切れの薬は胃腸障害を引き起こす毒となってしまうんです。
薬の期限が切れた時、どれくらい効果があってどれくらい危険なのかは誰にもわかりません。全く効かないのに病気になってしまう危険性だけは高い可能性もあります。そして、どの薬なら安全でどの薬が危険なのかを答えられる人はいないでしょう。期限切れの薬を使うということは百害あって一利なしと言えますね。
4.薬の大敵は光・温度・湿度!この3つに気をつけて保管しよう
「薬の適切な保管方法ってあるの?」
ここまでの説明を読んでくれた方なら、こんな疑問が浮かんだのではないでしょうか。
せっかくですので、薬の正しい保管方法も覚えていってください。とはいっても難しいことはなく、ワインを保管するときと似ています。気をつけるべきは「光・温度・湿度」。この3つに気をつけてもらえば、特別な薬以外は大丈夫です。
4-1.光で分解!薬は直射日光を避けよう
薬の中にはビタミンB2のように光に弱い成分を使用したものは、結構多いです。基本的に薬は買った時の箱に入れておいたり、薬箱を使ったりと直射日光を避けて保管してください。
4-2.車内は厳禁!温度変化にも気をつけて
通常の錠剤やカプセル剤であれば室温保存と指定されています。室温とは1〜30℃で、できればあまり温度が変わらない場所がベストです。凍ってしまうような野外や夏の車の中のような過酷な場所は避けてください。
4-3.乾燥剤を有効利用!ジメジメしたところに置くとカビちゃうかも
湿度については、なるべく乾燥している場所が望ましいです。乾燥している薬は湿度の高いところでは空気中の湿気を吸ってしまいます。湿気を含んだ薬は成分が分解してしまったり、カビが生えてしまったりと良いことがありません。お菓子についてきた乾燥剤を一緒に入れて保管すると、湿気から薬を守れるのでオススメの保管方法ですよ。
5.まとめ
薬の期限を守ることの重要性について、正しい情報を知っていただくことができたでしょうか?
期限内において、薬の効果と安全性が変わらないことは国と医薬品メーカーがしっかりと保証しています。しかも、その保証レベルは世界最高水準と言って過言ではないでしょう。そして、これからもそのレベルは上がり続けます。
逆に期限を過ぎた薬について、安心だと言える専門家はいないはずです。期限を過ぎてしまった薬がどんな変化をし、どれくらいの効果と危険性を持っているかを調べられることはほとんどないからです。「わからない」という状況ほど怖いことはありません。病気になってしまってからでは遅いので、期限が切れてしまった薬は使わないように捨ててしまいましょう。
期限内の薬でも、あまりに悪い環境に置かれてしまうと劣化してしまいます。光・温度・湿度に気をつけ、冷暗所に保管するようにしましょう。もちろん、特別に保管条件が決められている薬は、しっかり守って保管してくださいね。
期限内であれば安心、期限を過ぎたものは危険。これだけ覚えていただければ、「この薬って使っても大丈夫?」となった時も安心できますね。