ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?
* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi
最近は「婚活」という言葉が広まる一方で、晩婚化の波は着実に進んでいる。
結婚の平均年齢は、男性が31.7歳、女性が29.4歳だ。女性の初産の平均年齢は30.7歳。
共働きが当たり前になってきた現在、女性の中にはがむしゃらに働いて、30歳を過ぎて結婚をあわてる人も少なくない。そういう傾向がつよくなってきたからこそ、「婚活」という言葉が流行りだしたのだろう。
ただ、結婚を急ぐ女性の中には、それが要因となって「育児困難」に陥る人もいる。私が出会った女性はこう語っていた。
「あの時、結婚を急がなければ、私はシングルマザーにはならなかったし、子供を嫌いにもならなかったと思ってます。結局、婚期を逃した女って弱いんですよ。男の人はそれを利用する。私と子供は、その犠牲になったんだと思います」
結婚を急ぐことがなぜ「育児困難」につながるのだろう。
三浦萌(仮名)は、医療関係の会社で働いていた。奥村尚貴(仮名)に出会ったのは38歳の頃だった。婚活の一環としてネットで知った演劇関係のコミュニティーのオフ会に出たのがきっかけだった。
萌は20代の時はまったく結婚のことを考えていなかったが、30代半ばになって急に結婚願望が沸いた。何度かお見合いパーティーに出たり、友達から紹介された男性と付き合ってみたりしたが、どれもうまくいかなかった。
萌は、原因は自分にあると思っていた。物心ついた時からシングルマザーの母親に厳しく育てられてきた。男女交際には口やかましく、20代の終わりまでデートはもちろん、男性との電話すら制限されてきた。何度か隠れて付き合ったことはあったが、いずれもバレて関係を壊された。
その母親は、萌が31歳の時に乳癌で他界。萌はそれまでのことがあり、男性との付き合いに消極的なままだった。デートに誘われても考えもせずに断ってしまい、いいなと思う相手に対しても自分から連絡を取るようなことはなかった。週末に趣味である演劇を見ていれば十分幸せだった。
しかし、30代半ばにさしかかり、急に出産のことを考えるようになった。このままいけば、自分は一生家庭を持てないもしれない。そんな気持ちから、結婚への焦りだけが膨らんでいった。
約5年の「婚活」を経てようやく出会ったのが、尚貴だった。尚貴は意志がつよくて女性を引っ張っていくタイプだ。強引な彼に導かれるように交際をはじめた。
1年後の39歳の時、萌は妊娠した。彼女は自分から結婚しようと言える性格ではないので、妊娠がわかった時は「これで結婚できる」と思った。
次のデートの日、萌は尚貴に妊娠を告げた。尚貴から返ってきた言葉は想像もしていないことだった。