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 AI(人工知能)時代における花形の職業とされたデータサイエンティストにとって、受難の時代がやって来そうだ。「AIを作るAI」が、AIを作る仕事を人間から奪おうとしているからだ。米グーグル(Google)が2018年1月に発表した「Cloud AutoML」がその先駆けだ。

 「これまで数カ月を要していた画像認識モデルの開発期間を1日にまで短縮できる」。グーグル Cloud AI部門の研究開発責任者であるジア・リー(Jia Li)氏は、Cloud AutoMLの威力をそう説明する。Cloud AutoMLはその名の通り「機械学習(ML、Machine Learning)を自動化(Auto)するAIだ。

グーグル Cloud AI部門の研究開発責任者であるジア・リー(Jia Li)氏
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 グーグルはまず、画像認識AIの開発を自動化できる「Cloud AutoML Vision」というサービスを開始した。Cloud AutoML Visionでは、ユーザー企業の業界や業種、業務内容に特化した画像認識AIを「プログラミング不要」で実現する。ユーザー企業に必要な作業は、WebベースのUI(ユーザーインタフェース)を使って、認識させたい被写体が映っている「教師データ」の画像ファイルを数十枚登録するだけ。その後はCloud AutoML Visionが自動的に、ユーザー企業だけの画像認識AIを開発する。

データサイエンティストを雇わなくてもAIを作れる

 AIの開発が数カ月から1日にまで短縮するという理屈もふるっている。グーグルのリー氏は「これまではユーザー企業が自社専用の画像認識モデルを開発しようと思ったら、データサイエンティストを採用して、膨大な量の教師データを用意し、ニューラルネットワークを設計して、様々なパラメーターをチューニングする必要があった。Cloud AutoMLはこうした作業を全てなくす」と説明する。つまりCloud AutoMLを使えば、自社専用AIを開発するのにデータサイエンティストを雇う必要は無くなり、「人材採用期間を含めて数カ月」を要するAI開発期間を、1日にまで短縮できるというのだ。

 グーグルは、2017年8月に機械学習の学会「International Conference on Machine Learning(ICML) 2017」で発表した「Large-Scale Evolution of Image Classifiers」という論文で、Cloud AutoML Visionのベースになる技術がゼロから開発した画像認識AIが、画像認識のコンテスト「ImageNet」でもトップクラスに入るような認識精度を実現したと述べている。「ImageNetで上位に入る画像認識モデルはまさに、非常に優秀な研究者が数カ月がかりで開発したものだ。それに匹敵する精度のモデルをCloud AutoMLは開発できる」。リー氏はそう説明する。

オリンピックの主催者が競技ロボットを作ったようなもの

 ここでImageNetが例に出てくるのは、皮肉な話でもある。なぜなら米スタンフォード大学でImageNetのコンテストを長らく主導してきたフェイ・フェイ・リー(Fei-Fei Li)氏は2017年1月にグーグルに移り、今はグーグル Cloud AI部門のチーフサイエンティストとしてCloud AutoMLの市場投入を指揮しているからだ。

 現在開催中のオリンピックにたとえて言うなら、国際オリンピック委員会の会長がロボットメーカーに転じて、オリンピックでメダルを獲得できる性能の「スキーロボット」や「スケートロボット」を世に送り出してしまったようなものである。

 Cloud AutoMLの威力の秘密は2つある。一つは「転移学習」、もう一つはグーグルが「Learning2Learn」と呼ぶ技術だ。