ガイ・スタンディング『ベーシックインカムへの道』
ガイ・スタンディング『ベーシックインカムへの道―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには』(プレジデント社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
帯の文句に曰く:
シリコンバレーから北欧まで、左派から右派まで
世界で爆発的な関心を集める所得再分配の手法
AI失業も経済格差も克服できるのか?
世界的論客による必読の一冊
そして、帯の後ろ側に載っているセリフは:
この本は、ベーシックインカム(BI)への賛成論と反対論を一とおり読者に紹介することを目的としている。
BIとは、年齢や性別、婚姻状態、就労状況、就労歴に関係なくすべての個人に、
権利として現金(もしくはそれと同等のもの)を給付する制度のことだ。
本書ではBIとはどういうものか、この制度が必要とされる根拠であるところの三つの側面、
すなわち正義、自由、安全について論じ、経済面での意義にも触れる。
また、BIに対して唱えられてきた反対論、とくに財源面での実現可能性と、
労働力供給への影響について考えたい。
さらに、制度の導入を目指すうえでの実務的・政治的な課題も見ていく。
ガイ・スタンディングの本としては、一昨年に『プレカリアート』をいただいたときに本ブログで紹介していますが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-2314.html (ガイ・スタンディング『プレカリアート』)
著者のスタンディング氏はILOに勤務したこともあり、ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)の創設者の一人でもあるということで、世界のいろんな諸国の動向に目配りをしながら、プレカリアートを生み出した新自由主義-リバタリアン・パターナリズムからの脱出口はベーシックインカムだという最後の結論にもっていくまで、現代世界の実にさまざまな局面を描写していく手際はなかなかすごいものがあります。内容において結構ずっしりと重い本です。
前著ではプレカリアートを解決するための結論であったベーシックインカムをテーマに据えて、実に様々な側面から論じつくそうとする本です。
本ブログとしてはやはり、第8章の「仕事と労働への影響」を論じたところがたいへん興味深いものでした。
本書に限らず、ベーシックインカムについて論じたものは、おおむね生活保護のような社会扶助との関係での合理性に注目する議論が多いのですが、本書を読みながら、むしろ自分なりの最近の問題関心に引き寄せつつ考えていたことは、第4次産業革命といわれるような技術変化に伴う労働市場の変化に対応する労働市場のセーフティネットを考える上で、ベーシックインカムというものを考えてみる必要があるのかも知れないということでした。
以下はどちらかというと本書自体とはやや離れたわたしの思考ということになりますが、最近の日本では、AIで仕事そのものが絶対的に減るからBIだというようなやや粗雑な議論が流行りがちですが、そこには私は大変懐疑的ですが、しかし仕事はなくならなくてもそのありようがかなり大幅に激変するだろうという見通しはあって、たとえば「ジョブからタスクへ」というようなイメージを前提とすると、そういう断片的間歇的にタスクという形で仕事が来たりう来なかったりする(労働者側に自律性がない)自営的労働市場が一般化した社会において、ある程度中長期的に「ジョブ」が継続することを前提とした失業保険的な労働市場のセーフティネットというのはあまり力を発揮できなくなるであろうと思われるわけですが、ではどうするか?に対するまともな答えはほとんど存在していないわけです。
とすると、明確なジョブがある間に保険料を払い、そのジョブが失われた狭間の時期に給付を受けるというジョブ型労働市場に即したジョブ型失業保険制度とは異なる、ジョブの存在確率が不確定的な汎自営的労働市場における給付の在り方という観点から、ベーシックインカムというコンセプトを練り直してみるということも考えていいのではないか、と、これは読みながらその傍らで脳内に盛り上がってきた空想ですが。
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