従軍慰安婦数の推定

別に真新しくもないですが、パリセーズパーク市に設置された従軍慰安婦記念碑の「20万」という数字についての根拠となる資料です。

 一体どれほどの女性たちが日本軍の慰安所に集められたのか、朝鮮人慰安婦の比率はどの程度であったのか、どれほどの人々が戦場から帰らなかったのかというような点については、今日でも確実な答をえるような調査ができていません。
 まず慰安婦の総数を知りうるような総括的な資料は存在していません。総数についてのさまざまな意見はすべて研究者の推算です。

 推算の仕方は、日本軍の兵員総数をとり、慰安婦一人あたり兵員数のパラメーターで、これを除して、慰安婦数を推計するやり方があります。この場合に交代率、帰還による入れ替りの度合いが考慮に入れられます。

研究者たちの推算

研究者名 発表年 兵総数 パラメーター 交代率 慰安婦
秦郁彦  1993  300万人 兵50人に1人  1.5   9万人 
吉見義明 1995  300万人 兵100人に1人 1.5   4万5000人
(同)  -    -    兵30人に1人  2    20万人  
蘇智良  1999  300万人 兵30人に1人  3.5   36万人  
(同)  -    -    -       4    41万人  
秦郁彦   1999  250万人 兵150人に1人 1.5   2万人  

参考文献:
 吉見義明 『従軍慰安婦岩波新書、1995年
 秦郁彦昭和史の謎を追う』下、文藝春秋、1993年。『慰安婦と戦場の性』新潮社、1999年
 蘇智良 『慰安婦研究』上海書店出版社、1999年

 問題はパラメーターと交代率の取り方であることは明らかです。「兵100人女1名慰安隊ヲ輸入」という言葉が金原メモに見える昭和14年4月の上海第21軍軍医部長の報告にあります(上海第21軍軍医部長報告 金原節三資料摘録より)。この数字を基準に考えれば、兵士100人当たり慰安婦1人ということは、兵士が毎月1回慰安所にいくとしたら、慰安婦は日に5人を相手にして、月平均10日は休んでいるという状態です。

http://www.awf.or.jp/1/facts-07.html

もちろん日本軍・政府が従軍慰安婦の数について正確な資料を残していないため、部分的な資料からパラメーターや交代率を推定し全体数を推計しているわけですが、歴史研究の手法として珍しいものでもなく、記念碑に記載する数値として「20万人」は不適切でも何でもありません。

数字に文句をつける人たちは、「対案」となる数字を示してみてはいかがかと思います。


それと、虚偽の内容による勧誘や借金による強制、官憲など公権力による圧力で連れ去られ、故郷に帰ることもできない土地に監禁され、売春せざるを得ない状況に追い込んで売春させることは、一般的に見て「性奴隷」と呼んで差し支えないのでいちいち説明不要でしょう*1

追記1

id:s-ryoo 「性奴隷」に関しては慰安婦の約2割居たと言われる志願して慰安婦になった女性達には当てはまらないのでは?彼女らは元々公娼であり「自分のような者でもお国の役に立つならば」との思いで慰安婦に志願したという。 2012/05/22

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/scopedog/20120521/1337621423

うーん、志願して慰安婦になったものの予想以上に過酷な状況を強いられ、しかも帰るに帰れない状況だったという話もありますので、なかなかそうも言い切れません。
廃業の自由が保証されていなかった以上、志願した慰安婦や元公娼であっても「性奴隷」と呼んで差し支えないと私は思います。

あと、何らかの条件をつけて犠牲者から除外しようとする行為は、被害者・被害国からはもちろん、他の海外諸国からも好意的には見られないと思います。
例えば、沖縄戦での犠牲者の何割かは勝手に自殺したのだから、犠牲者数から除外せよと言われてもほとんどの日本人は納得しないでしょう。

追記2

Apemanさんのところにも書いたのですが、abductedと言う言葉で国際離婚で日本人親が子供を日本に連れ帰ってくる行為にも使われる言葉です。日本人親が子供を連れ去るほとんどの場合、直接的に強制するわけではありませんので、虚偽やあるいは他方の親に会えなくてもいいと子供に思わせる行為*2などで日本国内から相手国に戻らせない行為を含めてabductedと呼んでいます。
なので「虚偽の内容による勧誘や借金による強制、官憲など公権力による圧力で連れ去られ、故郷に帰ることもできない土地に監禁され、売春せざるを得ない状況に追い込んで売春させること」を、abductedと呼んでも少なくとも英語圏の人が違和感を覚えることはないと思います。

追記3

このレベルの推定値であれば、歴史上の事件における被害者数の提示として問題はありません。
ネトウヨが好んで言及する大躍進や文革の犠牲者数などは、これより荒い推定値ですが特に問題とはされていません。第二次大戦における日本戦没者中の餓死者の割合なども推定値ですが、これもやはりほとんど問題とはされません。

従軍慰安婦数や南京事件犠牲者数のような推定値の場合だけ問題とされるのは問題にしている当人の政治的イデオロギーが偏っているからに過ぎません。

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  • ☆諒 (id:s-ryoo)

    問題は志願して慰安婦になった女性達が「志願したのだから自業自得」という論理で慰安婦の支援対象からも除外されて来た事だと思うのですが。
    つまり彼女らは二重に見棄てられたのです。

    そして強制連行や性奴隷という面に重心を置くとどうしてもそうなってしまいます。

    私は慰安婦問題の本当の悲惨さはむしろ戦争終結後にあったと思います。

    彼女らが居たから日本軍は南京大虐殺のような大規模な陵辱殺害事件を繰り返さずに済んだのですから、慰安婦に感謝し国が責任持って彼女らの戦後の生活の面倒をみるべきでした。

    ところが戦後間もなく政府は慰安婦の存在を否定したのです。(それでも朝鮮人慰安婦などの一部は連合軍に保護を求めたので連合軍は早い時期から慰安婦の存在を把握していました)

    このために慰安婦の多くが引揚船への乗船も拒否され東南アジアの各地に置き去りにされてしまいました。
    この点に関しては志願した慰安婦だろうと強制連行された慰安婦だろうと違いは無かったのです。

    戦後の棄民こそが本当に追及されるべき問題だと思うのですが。

  • id:rawan60

    s-ryooさん

    >慰安婦に感謝し国が責任持って彼女らの戦後の生活の面倒をみるべきでした。

    論理的にはそれはもっともだと思うのですが、そもそも論として「「大規模な陵辱殺害事件を繰り返さ」ないように宜しくお願いした」のではなく、「「大規模な陵辱殺害事件を繰り返さ」ないようにするために、軍レベルにおいて女性を大規模に拘束して性処理をさせるという選択を取っていることに問題があります。つまり占領民に対する蔑視観および女性という存在をどう見ているかというジェンダー観ですね。
    極論すれば、強姦した人が相手に対して「強姦させていただいて有難うございます」とはならないわけで、それを否認する上においては行為自体の犯罪性は理解できているわけです。この「犯罪者の矛盾」こそが現在までも続いている「否定論」に他ならないのだと思いまし、「棄民」もそれゆえなんだと思いますね。

  • id:mizuki-yu

    >彼女らが居たから日本軍は南京大虐殺のような大規模な陵辱殺害事件を繰り返さずに済んだのですから、慰安婦に感謝し国が責任持って彼女らの戦後の生活の面倒をみるべきでした。

     ・・・・・・・・・・・・あの、すいません、いったい何を言っているんですか・・・・・・・・・?

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