枡野浩一『愛のことはもう仕方ない』発売中です
「サブカルって何?」をテーマに全7回に渡って、町山智浩さん、水道橋博士さん、枡野浩一さん、古泉智浩さんの4人が思いきり語りあいます。
サブカルという言葉はいつどこで誕生したのか? 「サブカル」の定義ってあるとしたらなんなのか? 誰がサブカルで、どこまでがサブカルなのか? さらには、サブカルはいったい何歳まで“出来る”のか……etc。まず第1回目ではサブカルの源流を探りながら、<サブカルは町山智浩から始まった>との論に町山さん自身が答えます――。
(この記事は枡野浩一さんと古泉智浩さんによるネットラジオ『本と雑談ラジオ』2016年11月放送:【前編】および【後編】を元に構成しております)
【第1回の登場人名】谷川俊太郎、宮台真司、中森明夫、ロマン優光、いとうせいこう、みうらじゅん、宅八郎、永江朗、桝山寛、野々村文宏、田口賢司、山田五郎、宮沢章夫、大竹まこと、桑原茂一、ケラリーノ・サンドロビッチ、加藤賢宗、高木完、中原昌也、阿部和重、大槻ケンヂ(敬称略)
「俺はサブカルチャーにいないって思った」(水道橋博士)
古泉 では町山さん、タイトルコールをお願いします!
町山 『本と雑談ラジオ』![注]
古泉 どうもこんにちは、漫画家の古泉智浩です。
枡野 歌人の枡野浩一です。
博士 たまたま通りすがりの水道橋博士です。
古泉・枡野 どうぞよろしくお願いします。
博士 ボク、高円寺に住んでるんで、たまたま散歩してたら枡野書店に……
枡野 この道、よく散歩で通りかかる方がいて、谷川俊太郎さん(詩人)とかもよく通りかかられます。
博士 そうなんですか!? でもまさか町山さんまでいるとは……。
古泉 Skypeでアメリカからご登場いただいているんです。
枡野 アメリカは17時間時差があるんですね?
町山 今、夕方の6時です。
古泉 そんなに夜中とかではないんですね。
枡野 こちら日本は朝の11時です。枡野書店からお送りしています。
町山 どうもです。
枡野 今日は『本と雑談ラジオ』特別編ということで、アメリカにいらっしゃる町山智浩さんと、偶然通りかかった水道橋博士さんにもご出演いただいています。
古泉 『本と雑談ラジオ』はこれまで1円にもなってないんですけど、今回はギャラが戴けるんですよね?
枡野 あのね、それはちょっとまだわからない……。
博士 ガハハハハ!
町山 お金になってないのになんでやってんの!?(笑)
枡野 ほんとね、一銭にもなってないんですけど。なんでやってるんでしょうね?
町山 わからないのか(笑)。
古泉 アハハハ、もう趣味ですね。でもね、町山さんが(ラジオを)お聴きいただいてるって知ってびっくりしまたよ。お恥ずかしい限りです。
枡野 水道橋博士さんも偶然聴いてくださったりしてらして。
博士 聴きましたよ! ここ2~3回を聴いていて、いやいやほんとにありがたいことだなぁと思って。
古泉 それはね、僕が聴いていた『ビートニクラジオ』をやられていた博士さんに、僕のラジオに出ていただいてる偶然……恐ろしいことです(笑)。
枡野 偶然にねえ。ありがとうございます。
町山 えっへっへ(笑)。
枡野 それで今日のラジオは特別篇ということで、私のほうで設けたテーマが、≪サブカルはどう大人になっていけばいいのか≫――という……。
古泉 うーーん!
町山 はい。
枡野 あの、長く町山さんとおつきあいがあるんですが、私ももう48歳になりまして(収録時。現在は49歳)。
博士 枡野さん、もっと若いと思ってたなぁ。
町山 (僕と枡野さん)あんまり年、離れてない、意外に(笑)。
博士 俺と町山さんは同い年なんですよ。だからわりと見てる風景が、町山さんと俺は同一な物を見てるから……。“サブカル風景”って言ったときに、もう5年違ったら全く違うからね!
枡野 そうですねえ。
町山 全然違いますね、年齢で。
古泉 でも町山さんがそういった活動始めたとき、まだサブカルなんてなかったわけですよね?
町山 その(サブカルという)言葉が出てきたときがいつなのかはわからないんですよ、僕は。
博士 だけど、宮台さん(宮台真司・首都大学東京教授)なんかは「サブカル」っていう言葉の本をたくさん出してますよ。
枡野 ああ、そうですね。
博士 そう。だから、中森明夫さん(作家/アイドル評論家)、宮台さんなんかっていうのは、サブカルって言葉を本で世に問うてるから。あの辺りで、もうジャンルとして成立してるんじゃないですか?
町山 や! サブカルチャーでしょ?
博士 サブカルです。
町山 「サブカル~」ってタイトル(の本)だった?
博士 ええ。持ってくればよかったなぁ。対談集とか。
町山 っていうか、『SPA!』かなんかの編集部が作った『サブカルチャー世界遺産』[注]っていう本があって……。
枡野 あります、あります。
町山 2000年くらいだったと思うんですよ、その本が出たのが。読んでます、博士?
博士 僕、読んでます。
枡野 僕も読みました。
古泉 全然タイトルすら知らない……。
町山 その本には僕の経歴がずっと書いてあるんですけど、「サブカルチャー世界遺産」という書名ですけど、「サブカル」って言葉は確かその本には出てこなかったと思うなぁ。
博士 すごくね、『サブカルチャー世界遺産』、その本読んでね、サブカルチャーか……「俺はこのジャンルにいない!」って思いましたもん。
古泉 へえ~~っ!
町山 そうなの?(笑)
博士 その本はいろんな人がね、言葉を記号にして解説してる本。
枡野 町山さんはその本を読んで、自分の範疇だと思われました?
町山 その本の編集者は、メインでないカルチャーを集めてるんです。アニメとか映画とか音楽でも、メインじゃないものを。それで、思ったのは、渋谷公会堂でライブやったら、もうサブカルじゃないんだと。
枡野 ああ~。メジャーだから?
「まるで町山さんからサブカルが始まったみたいな」(枡野)
古泉 ロフト(ライブハウス・新宿ロフト)[注]はサブカルなんですか?
町山 ロフトよりもうちょっと……日比谷野音まではサブカルかな。
博士 そんな定義なんですか!?
町山 (町山が編集者だった雑誌)『宝島』[注]がフォローしてたミュージシャンはそこまでなんですよ。「渋公」に出ちゃうと、そっから先はもう自分たちの手を離れる感覚があったんです。
枡野 町山さんが以前おっしゃった定義で、「サブカルのサブはサブマリンのサブだから“下”だ」と。「みんな、“横”とかのイメージでいるけど、そうじゃなくて“下”なんだ」と。
古泉 地下芸人?
町山 地下芸人!
枡野 つまり、メジャーじゃない、売れてないものってニュアンスもあるってことですか?
町山 うん。だってスポーツだとサブ・キャプテンって副キャプテンじゃないですか。キャプテンの下だから。
枡野 じゃあサブカルチャーの人がすごく売れるとサブカルチャーじゃなくなってしまうってことなんでしょうかねえ?
町山 そう。
博士 どうなんだろうね。たとえばさ、ロマン優光(音楽家/作家)の本(『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』[注])に入ってない人で、いとうせいこうさん(作家/ラッパー)なんかがいて……。でも昔、中森明夫さんが「いとうせいこうの時代は終わった」って言って、狼煙を上げてた時代があるから。でも終わってないんだよね。
古泉 でも、いとうさんも雑誌媒体から出た人じゃないですか。僕、サブカルって雑誌イメージがすごくあるんですよ。
博士 よくわかりますよ。それで、ロマン優光が言うところの「サブカルは町山さんが作った」っていうのは、町山さんは『SPA!』のカウンター(対抗勢力)だから。『SPA!』や『ロッキング・オン』[注]のカウンターとして町山さんの作った――
古泉 『映画秘宝』[注]があると。
博士 そうそう! だから、“そこ”の分野の人を町山さんは認めないから。
枡野 あ、そうなんですか!
町山 認めなくはないけど……(笑)。
博士 いや、でもそれは、みうらじゅんさん(イラストレーター/作家)に踏み絵を踏まされるんですよ。「おまえはロッキング・オン側なのか、俺の側なのか、ハッキリしろ!」っていう。
古泉 そんな事件がありましたか!
枡野 でも町山さん、(中森明夫さんの著作)『東京トンガリキッズ』[注]の単行本に写真載ってらっしゃいますよね? モデルとして。
町山 アハハハ。
博士 『トンガリキッズ』にモデルとして出たことで、町山さんはあの後に丸坊主にさせられてるんだよ。
枡野 みうらじゅんさんに怒られて?
町山 そう……。おれたちの敵であるオシャレ側に転んだ、って責められて。今の言葉にすると、オタクを裏切って、サブカル側に回った、と。
博士 そういうことが(ロマン優光さんの本は)踏まえられてないんですよ!
古泉 その日がちょっと、サブカルの分岐点の日ですよ!
枡野 確かに、中森明夫さんと町山さんが相容れない感じは(僕は)わかって……。それがロマンさんの世代だとわからないかもしれませんね?
博士 わかんないと思うし。それでたとえば、中森明夫さんと宅八郎(オタク評論家)がたもとをわかつ瞬間とかがあるんですよ。歴史的な日が。ああ、この日にっていう……
町山 あの、ロマンくんはわかってると思うんだけど。
博士 まぁ調べてるだろうけどね。
町山 大抵はわかっている。
博士 もちろん、あの本(『間違ったサブカル~』)だけじゃないし、前の本(『日本人の99.9%はバカ』[注])もあるし、彼は流れをちゃんと調べてる人だから。だけど『間違ったサブカル~』だけを読むと、(サブカルに関しての)唐突な歴史が語られてるわけです。惜しいことに。
枡野 そうですね。
古泉 町山さんとその周辺という……。
枡野 (『間違ったサブカルで~』では)まるで町山さんからサブカルが始まったみたいな感じでしたもんね。
博士 いやもう、そう定義してしまっている。
枡野 たとえば、町山さんの師匠にあたるみうらじゅんさんは、僕はすごくサブカルのメインの人だと思っていたんですけど、そうではないのでしょうか?
町山 あの、みうらさんは武道館でも東京ドームでもやってるじゃないですか。だからもうメジャーな感じ……。
古泉 そうですねえ! 流行語大賞も取ってますよ!
枡野 ですよ! 「マイブーム」で。
町山 アッハッハ! だから昔は、新しいバンドを見つけるには、まず最初にロフトより小っちゃいライブハウスに行ったんですよ。いっぱいあったじゃん、「JAMスタ」とか……
古泉 「(高円寺)20000V」とか?
町山 ほんといっぱい小っちゃい所があって。そこで一晩に3つぐらいのバンドが出てるのを観るんですよ。それがそのうちワンマンでロフトにたどり着いて、その後、だんだん上がっていくわけですよ、ライブの規模が。次に日本青年館とかでライブやる頃にはメジャーデビューしてる。それで野音に行って、渋公に行く……。
渋公まで行ったらもう『宝島』は追っかけない。他の音楽雑誌と競合しちゃうから。自分たちだけが抱えてる領域から出ていく感じがあったんですよ。
博士 あの本(『間違ったサブカルで~』)のいうところの「みうらさんはサブカルじゃない」っていう定義は「西武セゾン文化である」っていうことなんだけど、そういう文化でいうとライターの永江朗さんとか、“あっち側”にいる人もいるのよ。
町山 永江さんは実際にパルコの本屋さんの店員だったから。西武セゾンとか六本木WAVE……今は六本木ヒルズが建ってるところにWAVEっていうすごいビルがあって――
古泉 輸入レコード屋さんがあったんですよね。
町山 そのWAVEの上にはオシャレな、ゲームを作ってた会社があったんですよ。そこに桝山寛さん(メディアプロデューサー)という人がいて、いま大学の先生になってますけど、そこにいたスタッフがポケモンのスタッフになったり……。
枡野 (雑誌)『宝島30』で連載されてましたよね?
町山 桝山さんは、そう、その通りです。みんな、マック(コンピュータ)使ってましたね。箱形の。
博士 だから、“新人類の3人”いるじゃないですか。野々村文宏さん(評論家/研究者/和光大学准教授)・中森明夫さん・田口賢司さん(作家/プロデューサー)……あの3人の辺りの『東京おとなクラブ』[注]なんかは、ゲームに行く人たちが出てくるんですよ。
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