強まる黒田総裁の再任論、雨宮、本田副総裁浮上で緩和路線は継続

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  • 雨宮日銀理事は現行の金融緩和路線を支えてきた黒田総裁の側近
  • 本田氏は安倍晋三首相に近く、政権のアドバイザーを務めたリフレ派

4月に任期満了を迎える日本銀行の黒田東彦総裁の再任と雨宮正佳理事、本田悦朗駐スイス大使の副総裁就任が有力視されている。デフレ脱却に向け、アベノミクスを異次元緩和によって主導した黒田総裁の政府内での信任は厚く、現行の金融緩和路線は当面継続される見込み。

  雨宮氏は2013年4月の異次元緩和の導入以降、黒田総裁の側近として現行の金融緩和路線を支えてきた。元内閣官房参与の本田氏は安倍晋三首相に近く、第2次安倍政権発足当初からアドバイザーを務めたリフレ派だ。黒田総裁の続投に加え両氏が副総裁に任命されれば、現行路線は当面継続するとの見方が強い。

  政府関係者は10日、ブルームバーグに対し、日銀総裁人事はまだ何も決めていないとしながらも、ここで交代するとこれまでのことを否定することになると述べ、黒田総裁の続投を示唆した。安倍首相が黒田総裁の手腕を評価していると国会でも繰り返し答弁していることにも言及した。

  政府が黒田総裁を再任する方針を固めたと共同通信が9日報じたのをきっかけに、雨宮氏と本田氏の副総裁就任を含め同様の報道が相次いだ。黒田総裁の任期は4月8日、中曽宏、岩田規久男両副総裁は3月19日まで。

  安倍首相はこれまで「黒田総裁の手腕を評価している」との発言を繰り返し、黒田総裁の再任論を後押ししてきた。しかし、政府による国会への人事案提示のタイミングが近くなった13日の衆院予算委員会では、「まだ、日銀総裁の人事は全く白紙だ」と述べるにとどめた。

  三井住友銀行の西岡純子チーフエコノミストは「現在の金融緩和が続いていく、それが今回の日銀人事を通しての安倍首相の一番大きなメッセージだ」と述べ、「黒田総裁と雨宮理事はこれまで緩和継続のため密に連携をしており、2人が総裁、副総裁となれば日銀トップの間でスムーズに見解が統一される」との見方を示した。

  黒田総裁は6日の衆院予算委で「現時点で、例えば10年物国債の操作目標を若干であれ引き上げることは適切ではないのではないか」と、利上げに否定的な見解をするなど現行政策を堅持する姿勢を示している。

  一方、昨年7月まで審議委員だった木内英登野村総研エグゼクティブ・エコノミストは13日付のリポートで、「2期目の黒田体制の下でも正常化が粛々と進められていく」と予想する。一昨年9月の長短金利操作の導入で国債購入額は大きく減少し、黒田総裁の政策姿勢は「既に柔軟化している」と指摘。事実上の正常化がかなり進められており、「2期目もその流れが続くだろう」とみる。

本田副総裁なら市場インパクト

  雨宮氏は中曽宏副総裁の後任としては順当との見方が強い。大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは13日付のリポートで、「企画畑が長く、数々の政策手段で知恵袋としての功績や、政府や財務省との調整能力という面で評価は高い」との見方を示した。

  景気浮揚のために金融緩和を重視するリフレ派の急先鋒(せんぽう)だった岩田規久男副総裁の後任として名前が挙がる本田氏は安倍首相に近く、官邸の意向が反映されやすくなるとの見方もある。みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは13日付のリポートで、同氏が副総裁になれば、「多少の市場インパクトが生じる可能性には留意しておきたい」と指摘した。

  本田氏は昨年11月のインタビューで、デフレ脱却には金融緩和に加え、財政支出が必要と指摘。日銀も財政を金融緩和で支えていく姿勢を示し、「少なくとも日常的に意見交換をして、いかにしてデフレ脱却をするということを真剣に議論しないといけない」と発言。13年1月の政府と日銀の共同声明の全面改定も主張している。

  JPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミストは同日付のリポートで、本田氏は現在の日銀よりも金融緩和を志向しており、景気後退のリスクが高まれば、政府の財政支出を全て日銀がお札を刷って賄う「マネタイゼーションすらも展望する可能性がある」と指摘。本田副総裁が決まれば国債金利に「一時的に下方圧力が加わる」ほか、ドル円相場も「短期的には上昇し得る」と予想した。 

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