--では、浮世絵師として生きて行こうと覚悟を決めたのは、いつ頃のことですか?
学生時代は、普通の四年制大学の社会学部で、何者かになりたいわけでもなく、進路もふんわりしていました。転機は22歳のとき。たまたまテレビで六代目歌川豊国の特集を観て、歌川派が好きだったこともあり、弟子入りしたいと直談判しに大阪まで行って、何とか認めてもらえました。
--師匠からは、どのようなことを学ばれたのでしょうか?
「浮世絵はこういうもんだ」みたいな、イズムを教えてもらいましたね。たとえば、線で表現をする場合、人の肌を描く柔らかい線の描き方と、ゴツゴツした岩の描き方、それぞれの描き分けを意識すること。自分が何を描こうとしているのかという意識を、常に持つことが大事だと教わりました。
--確かに、浮世絵は線の表情が豊かというか、一筋の線から伝わる情報が多い気がします。
それを教えてもらえたのは大きな財産ですね。ただ、すでに師匠が97歳とご高齢だったこともあり、僕が入門してすぐに他界されました。具体的な実技を学ぶ機会はありませんでしたので、それから独学で習得していったかたちです。