日本の「マスク文化」は、異様な光景を生み出している──コミュニケーションを拒む「断絶」のポートレート

いま、日本には健康な状態にもかかわらずマスクをつけて街を歩く人々が増えている。人から見られることを恐れ人混みの中に消えるためにマスクをつける人々の姿は、どこか異様だ。写真家オレグ・トルストイは渋谷のスクランブル交差点に立ち、日本の「マスク文化」に迫った。

TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

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    1/6PHOTOGRAPH BY OLEG TOLSTOY

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今年も日本ではインフルエンザが流行している。厚生労働省の調べによると、1月29日から2月4日に報告されたインフルエンザ患者数は約282万人。2017年9月以降の累計患者数はは約1,393万人にも上り、過去最高レヴェルの数を記録している。

日本では、風邪を予防するときにマスクをつけることが推奨されている。特に満員電車に乗っているときや人混みのなかを歩くときは、マスクが必需品となるだろう。

だからなのか、渋谷のように人通りの多い街を歩いていると、マスクをつけている人をやたらと見かける。しかし、ふと思い返してみると、インフルエンザが流行していない季節でも街なかにはマスクをつけた人が溢れている。どうやら、彼ら、彼女らのなかには風邪を予防しているわけではない者もいるようだ。

ロンドンを拠点として活動する写真家、オレグ・トルストイは渋谷のスクランブル交差点を見回しながら、マスクをつけている人があまりにも多いことに気づいた。「なぜマスクをつけているか尋ねてみたところ、予期せぬ答えが返ってきました。病気や花粉症だと言われるかと思っていたのに、彼らの多くはほとんど健康だったのです。彼らは自尊心が低かったり、自分の顔を気に入っていなかったり、化粧をしていなかったりするからマスクをつけていたんです」

そうオレグが述べているように、近年日本では病気以外の理由でマスクをつける人々が増えている。

オレグによる『Shibuya Unmasked』は、日本独特ともいえる「マスク文化」の様子をとらえた作品だ。写真にとらえられた人々はみな白いマスクをつけていて、どこかシリアスな表情を浮かべている。その様子はパンデミックを描いたSF映画のワンシーンのようでさえある。海外の人々にとって、日本のマスク文化はそれくらい異様なものに見えるのかもしれない。

「なかにはSNSで多くのフォロワーがいる女の子もいて、彼女はファンに見つからないようマスクをつけていました。健康なのにマスクをつける人はみな、群衆のなかに隠れてしまいたいと思っているんです」とオレグは続ける。近年はさまざまな種類のマスクが販売されており、なかにはファッションとしてマスクを身につける人もいるが、人との関わりを断つためにマスクをつける人も少なくない。その結果「マスク依存」に陥りマスクを外せなくなった人さえいる。

SNSが生んだ「エコーチェンバー」なる現象が話題となっているように、わたしたちは際限なく分断された世界を生きている。街を行き交う人々がみなマスクをつけてコミュニケーションを拒絶している様子をとらえたこの作品は、現代の断絶を写した「ポートレート」とも呼べそうだ。

しかし、「どれだけ顔を隠しても完全に個性は隠しきれないことを、この作品は示しています」とオレグは語る。確かにマスクをつけた人々の姿は一見異様だが、口元が隠され、目つきや表情がクローズアップされることでかえって個性があぶり出されるともいえるだろう。『Shibuya Unmasked』はそのタイトルが指し示すとおり、写真を通じてそのマスクを剥ぎとろうとしているのだ。

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