金曜プレミアム・ミステリードラマスペシャル新 京都殺人案内[字][多] 2018.02.09
スタジオに来られた方全員に株式会社東邦から頑固な汚れに強く手肌に優しい食器洗い洗剤ウタマロキッチンと住宅用クリーナーウタマロクリーナーの他ご覧の詰め合わせを差し上げます。
(女性)ああ…いい。
(溝口)中に!中に!
(須永)待ちなさい!
(須永)誰か人が?あなたは?あなたは!
(溝口)溝口浩一郎いいます。
あのシェアハウスの管理人で。
(須永)家の中誰かいたんですか?
(溝口)いえ…。
(須永)ホントですね?本当に誰もいないんですね!?
(須永)でしたらここは危険ですから早く下がりなさい早く下がりなさい!
(鈴の音)
(床のきしむ音)
(洋子)よいしょ…。
なあ寿命やない?
(音川)おい…わしそんな年と違うぞ。
(洋子)ハァ…お父ちゃんのことやない。
この家のことや。
あちこち傷んで床は鳴るし。
洋子。
うん?お前ちょっと目方増えたのと違う?そんなんと違う。
根本的な問題や。
このお漬物おいしいな。
ホンマ?うん。
小町かぶら。
洋子農園作。
フフッ。
畑うまいこといってんねや?土と闘ってます。
京野菜は難しい。
けどかいあって今はおばんざい屋にも卸してるし。
お前が土いじりするとはな。
ヘヘッ。
それはそうとお父ちゃん。
あっ?築何年になるんやろ?この家。
よそさんは「ええうちや」言わはるけど住む方からしたらたまらんわ。
ハァ…今の時季は冷えるしな。
なあ。
思い切って…。
新しいとこ移らへん?コンクリが嫌やいうんなら住みやすく改装した町家もあるよ。
何なら賃貸でもええし。
このうちにはなお母ちゃんのにおいとぬくもりが詰まっとるんや。
お母ちゃんお母ちゃんお母ちゃんか。
洋子ほんじゃあ行ってくるよ。
・
(洋子)気ぃ付けて。
はいはい。
(女性)音川さんおはようございます。
おはようさん。
(男性)音川はんおはようさんです。
(女性)おはようございます。
あっおはようさんです。
(茜)音やん。
音やんって!いやあくどいわ大芳。
便乗値上げしとるで。
さあ頼むで!ああ音川はん。
おいでやす。
何にしよう?ああ…なあ大芳。
あのー…値札な書き換えんでもええさかいに茜ばあちゃんにはサービスしたれよ。
何?あのおばあちゃん昔暴走族やったいうぞ。
怒らしたら怖いで?金属バットで殴り殺されるで。
暴走族?ほなガキんときからあれあんなんやったんかいな。
年季入ってんねんな。
恐ろし!四条のなさそりって呼ばれてたそうやで。
もう25年か…。
(ふみ)《あなたうちを殺した犯人いつ捕まえてくれるんです?》堪忍。
堪忍やで。
(秋山)こら土井。
朝っぱらからあくびすな!
(土井)お言葉ですが課長。
音川さんならそうは言いませんよ。
言い訳は口答え!
(土井)はい。
すいません。
おお…素直やな。
音やんなら何ちゅうんや?「刑事が朝からあくびなんて平和な証拠や」「どんどんしたれ」って。
お前捜査中もあくびしとるやないか。
アホ!はいおはようさん。
(一同)おはようございます。
今日も一日何にもなかったらよろしいなぁ。
(あくび)ああ…そやな。
(秋山)はい了解。
音やん。
出番でっせ。
音やん。
音やん!課長。
寝起きに一番見とうない顔でんな。
(須永)ご苦労さまです。
消防局調査課課長須永です。
この家は元は古い町家で内装替えして近いうちにシェアハウスとして生まれ変わるはずだったんです。
シェアハウス?新手の下宿屋みたいなもんです。
私どもが調査に入る前だったんで電気やガスは切っていたという話なんですけど。
(山根)そやのに火が出た。
外からの付け火かな?
(須永)いえ。
出火箇所は家の内部なんです。
どうぞ。
ご覧ください。
この辺りが激しく焼けただれてます。
そして遺留品としてこんな物が。
真っ黒になってますがろうそく立て燭台です。
ろうそくの差し込み用鉄芯の状態から見てかなり使い込まれたもので何者かが持ち込んだものと思われます。
(山根)ちょっと拝見。
(須永)どうぞ。
あの…。
(須永)どうぞ。
その何者かっちゅうのは施錠されてるうちの中へどうやって入り込んだんやろ?それを調べるのは火災調査の仕事ではありません。
あなた方警察のお役目だと思いますけど。
あっ…。
(土井)ハハッ。
(須永)資料をご覧ください。
(土井)ああ…はい。
出火箇所は元は店の間と呼ばれる日本間でしたが改装してリビングダイニングとなっておりすでにカーテンが取り付けられ家具が運び込まれていました。
燭台が持ち込まれたと思われる周辺には宣伝用パンフレットが積み上げられていたという話です。
(須永)従ってろうそくの火がそのパンフ類に着火し火災を発生させた。
それは?
(須永)調べてみると色違いの4個で1組100円のライターです。
赤いのが1本欠けてます。
やっぱり放火か。
あの…。
はい何です?えーっと…。
ああ音川音次郎。
音川さんね。
どうぞ。
放火するんやったら何でまたご丁寧に燭台なんか…。
それを調べるのは…。
ああはいはい。
われわれの役目やね。
失敬失敬。
あんたが管理人になるはずやったえーっと溝口さんやったかな?ゆうべあのうちにはホンマに誰もおらへんかったんか。
そうか。
念のために住まい聞いとけよ。
はい。
(土井)溝口さんお住まいの住所をお聞きしたいのですが。
(土井)ちょっと美人だからってわざとからかったんですか?はっ?
(土井)さっきの消防局調査課長。
ああいうの美人いうんか?
(土井)まあ一応は。
趣味やないな。
(土井)そりゃ音川さんは亡くなった奥さん一筋ですから。
あの…洋子さんお元気ですか?ああ元気元気。
口うるそうてしゃあないわ。
とてもやないが土井お前には歯が立たん。
さっさと諦めてしまえ。
いいえ諦めません!僕大学入るために東京から京都に来てそれで実際に住んでみてだんだんと京都の良さが分かってきてそれで地方公務員試験受けて刑事になって。
将来は京女もらってこの地に骨を埋める決意なんです!京女っちゅうのはなお前が考えてるよりきついぞ。
僕強い女の人大好きなんです。
だから年上だけど洋子さんは理想の女性で…。
分かった分かった。
土井。
一応焼けた家主さんに話聞いとくか。
はい。
(鮎川)父が亡くなる半年ほど前まで私ら焼けたあの家に住んでました。
(鮎川)けど老朽化した町家は維持が厄介やし相続やら何やらでどないしよう思うてるときに折よく白浪エステイトさんからお声が掛かりまして。
白浪エステイトですか。
(郁惠)改築費用は全額出す。
土地と建物の権利はそのまんまでいいから賃貸住宅用に貸してくれいうて。
引っ越し金まで出してもろて。
上がってくる家賃は折半で。
(鮎川)けど焼けてしもたんではもうあかん。
さら地にしてあの土地売るしか。
景観条例やら何やらで町並み守るのもよろしいけどたいがいが個人の自己負担や。
古い町家を維持していくのごっつきついんですわ。
ところであのシェアハウスの管理人任されることになっとった溝口浩一郎という男をご存じですか?
(郁惠)あなた。
(鮎川)ああ。
溝口。
昔からの知り合いですわ。
食いっぱぐれてるいうて泣きつかれたんでわしが白浪エステイトさんに頼んで管理人に押し込んだんですわ。
(土井)音川さん。
ここです。
(倉内)はい鮎川さんがおっしゃられたとおりの契約です。
(倉内)京町家は維持が大変やから住人は手放したがってる。
けど文化的価値が高い。
そこで弊社が有効活用しよういうことです。
有効活用ね。
改造や内装にはどれくらいの費用が?
(倉内)焼けたあの鮎川さん名義の町家で1,000万円近く。
その経費を御社で全部負って家賃は家主と折半。
それで経営が成り立つんですか?回収には時間がかかるけど町並みや古い建築物保存には役立つ。
うちはマンション事業も順調やしまあ京の町と共存共栄の精神でやってます。
火災保険かけてました?
(倉内)ええもちろん。
失礼ですがいかほど。
(倉内)え〜…8,000万ぐらいかな。
受取人は御社ですか?
(倉内)えっ?刑事さんまさか保険金詐欺でうちを疑うてるわけやないでしょうな?
(土井)いえ。
うちは一部上場会社ですよ。
年商も20億を超えてる。
社長を息子さんに譲ったオーナーは府議会議員で景観保存運動にも私費を投じとります。
そない危ない橋渡るわけないでしょう。
不快な思いさせたんやったら失敬失敬。
疑うのがわしらの商売やさかいな。
あの物件担当してはったんは?あれは持ち込み物件ですわ。
フェアリーハウスの。
フェアリーハウス?京町家を保存活用するために活動しているNPOですわ。
NPOって何の略だ。
ああ…。
NPOとはノンプロフィットオーガニゼーションまたはノットプロフィットオーガニゼーションの略称で…。
もうええもうええもうええ…。
お父さん…。
お父さんって何やねん。
違います。
音川さんって言ったんですよ。
NPOの方ですか?
(五十嵐)代表の五十嵐です。
この会社のようにリフォームをし京都を残す。
消えゆく町家を何とか蘇らせるためにも空き家情報を得る。
この西陣の織屋建はご覧のように機織り用の作業場が付いてるんでアトリエ兼住居として蘇らせるにはもうぴったりなんですよ。
東京の画家さんや彫刻家さんたちがもうぜひ住みたいというリクエストが多くてね。
ものは使いよういうわけですか。
ええ。
まあ古い形のまま残そうにもお金が掛かりますし行政は何もしてくれません。
そこでちょっと発想を転換しまして。
ああ…有効活用の手を考えた。
白浪エステイトに提供し白浪が資金を援助して新たにシェアハウスとして貸し出す。
持ちつ持たれついうわけですな。
・
(音楽)
(真里子)いらっしゃい。
あっ…真里ちゃん。
(真里子)うん?シェアハウスとかいうの知ってるか?
(真里子)知ってるよ。
今若い人たちの間ではやってるわ。
一人で暮らすのはさみしい。
誰かと二人で暮らすのは気ぃ使うし面倒も起こりやすい。
(真里子)けど何人かで住むなら学校の合宿みたいで気安いし楽しいし。
家賃や光熱費も安くて済む。
なるほどなぁ。
けどいきなり他人と一つ屋根なんてわしゃ嫌やな。
(真里子)もう…その感覚が昭和なんよ音川さん。
平成生まれはそんなこと気にせえへんって。
真里ちゃんって平成生まれなんや?それって嫌みか?いやそうやないそうやない。
そう見えるいう話や。
一応おおきに言うときます。
仲良うなればご飯も一緒に作って材料費も助かる。
男と女気が合えば夜も一緒にってこと…。
いや…うち何言うてんねやろ?ええとこずくめか。
そ…そやね。
はい。
お待っとさん。
ありがとう。
ああ…ええ香りや。
(ドアの開く音)
(真里子)いらっしゃい。
ああ先ほどはどうも。
ええ?刑事さんもここのコーヒーお気に入りでしたか。
いつものお願いします。
(真里子)はーい。
あなたのコーヒーを飲めるのも今日が最後になりました。
里に引っ込むことになったんで。
(真里子)あらどちらなんです?
(五十嵐)小豆島。
(真里子)小豆島…。
(五十嵐)うん。
(真里子)『二十四の瞳』大石先生。
家はその岬の分教場のすぐそばですよ。
長い間ほったらかしてたんですけども実家を新しくしてそれも終わりましたんで。
(真里子)あったかくってええとこなんでしょ?うん。
まあね。
あっ真里ちゃん長い間おいしいコーヒーをありがとう。
あっ大芳か?わしや。
音川や。
ああどないしはったん。
・そこらにな茜ばあちゃんおれへんか?
(男性)あっ?ああ…残り少ない人生でいっちゃん大切な井戸端会議中でっけど。
・あっちょっと電話に出したってんか?あっ茜ばあちゃんか。
すまんけどなちょっと頼みがあるんやけどな。
ほんならそのシャーハウスの?シャーハウスやないシェアハウスや。
分かっとるがな。
そのシャーハウスのご近所さん片っ端から当たってみたるわ。
ヘッええがなええがな。
他ならぬ音やんの頼みやろが。
ああ…すまんなぁ。
(茜)ところでな音やん。
あんたホンマに再婚する気ないん?はっ?あんた大人の女嫌いか?やっぱデカの女房にマエ持ちはあかんかなぁ?道交法違反京都府公安条例違反スピード違反は数えきれんしなぁ。
はいはい。
ほなね。
ありがとうありがとう。
ありがとね。
はい〜。
それじゃあ失礼します。
そうしたら茜ばあちゃんのはとこが…。
(茜)ちゃう!うちのいとこの女房のはとこやん。
ああ分かった分かった…。
ともかくそのあんたの遠い親戚がやあのシェアハウスに出入りしとるばあさんを何回も見掛けてたんやな?
(茜)おう。
ここふたつきばっかしのことらしいんやけどな。
(茜)あらひどいなぁ…。
家も人も焼けてしもうたらおしまいや。
なんまんだぶなんまんだぶ…。
茜ばあちゃん。
幸いなことに誰も死んどらんよ。
家が死んどるやないか!あんたも手合わせぇ。
なんまんだぶなんまんだぶ…。
なんまいだなんまいだ。
溝口さんやったかな。
あんたこれからどうするつもりや?管理人で雇ってもらういう話あの火事騒ぎでなくなってしもうたやろ?気の毒やな。
生活設計台無しや。
ところでなあそこ改造中のときからばあさんが一人出入りしとったっちゅう目撃情報があるんやけどな。
出火場所はシェアハウスの内部や。
ということはやそのばあさんが放火犯という可能性もある。
あんたそのばあさんが誰やったんか…。
知ってるのと違うか?俺は営業開始の前日から住み込む約束やったから毎日あそこに来とったわけやないし。
(洋子)お父ちゃん。
ホンマのこと言うとうちつらいんやわ。
お母ちゃんと一緒におったこの家におったらお父ちゃんの新しい人生始まらんような気ぃして。
お父ちゃんの新しい人生て。
お母ちゃん亡くなってもう25年や。
うちかていつまでお父ちゃんの面倒見れるか分からんしいいかげん再婚。
再婚って洋子…何ちゅうこと言うんや。
わしはやな…。
・
(戸の開く音)
(洋子)どなた?・
(茜)音やん。
音やん!後添えの第一候補が来たで!誰!?ちょっと…後添えのって…誰!?さあ?・
(茜)あ痛っ!あ痛たたたた…。
痛い…痛い…。
(洋子)大丈夫ですか?
(茜)痛た…い…い…痛いがな。
あんたが洋子ちゃんか。
(洋子)あ…そうですけど?お母ちゃん似でよかったなぁ。
おう。
おう。
あんなぁこんな頑固親父ほっといてちゃちゃっと嫁に行き。
お父ちゃんのことはなうちが面倒見たるさかい。
おいおい。
お父ちゃんどなた?うーん…わしの忍びの者や。
茜ばあちゃん何なんや?こんな朝早うから。
年齢が60歳から70歳で…。
(茜)あっ。
この人や!
(中井)昨日の朝早くジョギング中の男性がぽっかり浮かんでる女性の遺体を発見。
届け出を受けてすぐに引き揚げたんです。
それで肺からはこの川の成分と同じ水が検出され死因は気道気管肺胞の目詰まりによる窒息からの溺死と断定しました。
遺書などは?
(中井)ありませんでした。
遺体のポケットにたばこ数本とこの赤い色の100円ライターが入ってました。
音川さん。
これ見てください。
(須永)《調べてみると色違いの4個で1組100円のライターです》《赤いのが1本欠けてます》
(中井)それと古ぼけた空の巾着を握り締めてました。
あんたら所轄の見立ては?
(中井)死亡推定時刻はおとといの午後7時から9時の間です。
その時間ですとこの辺りは観光地で人通りもありますし辺りに人が争ったような形跡もなく自殺の線が濃厚かと。
(中井)あの…発見された女性は何か他の犯罪にでも絡んでるんですか?
(土井)ひょっとしたら放火の疑いです。
先日の火災現場で見つかったライターセットの中から赤いライターだけが消えていたんです。
(土井)音川さん。
(こと美)お〜い!カツオ君!
(こと美)お〜い!あんた根が正直な人みたいやな。
まだ営業前のシェアハウスに出入りしとったのはこのばあさんなんやろ?大家の鮎川夫婦も白浪エステイトも誰もこのばあさんのこと知らんいうてる。
けどあんたは知ってる。
せやから…。
(溝口)《中に!中に!》
(須永)《待ちなさい!》《待ちなさい!》
(溝口)《中に!》
(須永)《誰か人が?》話してもらおうか。
このばあさんどこの何者や?えっ?誰なんや。
おい。
(こと美)お父ちゃんいじめたらあかん!お父ちゃんいじめたらあかん!ああ…堪忍堪忍。
堪忍やで。
こと美。
おじちゃんたちはないじめてはるのと違うで。
あっ…おっきいお魚来たで。
お兄ちゃんと一緒に見に行こうか。
おいで?よし行こう。
朝子。
上羽朝子さんです。
上羽朝子。
どういう人間や?
(溝口)ひとつきほど前あおぞら公園で知り合うて。
で?
(溝口)その…。
どっかのお金持ちのお屋敷で住み込みの家政婦やってたらしいんやけどそこのご主人が死なはって追い出されたって。
それで住む所がないいうんで。
それであのシェアハウスの部屋無断で貸したんか?まだ全室埋まっとらんかったしちょっとした小遣いになるかと。
あんた奥さんは?あんなちっちゃな子男手一つで大変やな。
連れ合いを亡くした父と娘。
音川さんちとおんなじですね。
刑事さんも?ああ。
まあちっちゃいときからあないにかわいらしなかったけどな。
もう!《溝口。
昔からの知り合いですわ》《食いっぱぐれてるいうて泣きつかれたんでわしが白浪エステイトさんに頼んで管理人に押し込んだんですわ》《溝口浩一郎》《新しい職にありついたばかりの子持ちの男がバレたらすぐに職を失うような危険を冒してまで勝手に部屋貸しなんぞするやろか?》《それも知り合うたばっかりの人間に》《上羽朝子の死》《確かに争ったような跡も滑り落ちた形跡もなかったが》《ばあさんが一人で飛び込むのならもっと楽な場所はいくらでもあった》《上羽朝子は誰かに突き飛ばされ川にはまった》《ありゃあ…単なる放火事件やないんやないやろうか》
(秋山)殺しやて!?かなわんのう…もう。
音やん。
その上羽朝子って何者なんや?
(土井)ああちょっと待ってください。
それは僕が先に調べました。
上羽朝子は長い間裏門前町にある野々村という七宝焼の店に住み込みで働いていました。
野々村といえば歴史あるその筋では有名な店でしたが半年前に倒産。
店を畳んでいます。
店主の野々村蓮太郎77歳はいまだ存命。
伏見の老健施設に入っています。
(職員)どうも。
今あちらの方で散歩されています。
あっどうも。
(野々村)上羽朝子…。
長いこと勤めてくれました。
50年近くもな。
そうか…死んだんか。
50年もですか。
詐欺に遭うて店畳まなならんようになって。
いとまを言い渡したんです。
野々村さんご家族は?女房は40年前に死にました。
あの…。
お子さんは?私はこの年で天涯孤独ですわ。
溝口浩一郎いう男ご存じやないですか?溝口?はて…。
お店辞めた後に朝子さんが接触していた男なんですがね。
朝子が?さあ…。
心当たりありませんな。
・音川さん課長から電話です!課長!溝口浩一郎が死んどったってホンマですか?ああ。
二人が調べてきたんや。
(加賀)これが溝口浩一郎の戸籍謄本です。
25年前に死んどるやないか。
溝口…。
どういうこっちゃ音やん。
じゃあ溝口浩一郎を名乗っとる男はどこの誰なんや?
(ノック)はい。
・ああ…すんません。
音川さん。
溝口まだ帰ってきてません。
そうか。
はい。
ああありがとうございます。
(チャイム)お父ちゃん帰り遅いなぁ。
おなかすいたやろ?これ食べ。
いらん。
えっ!?あっ…。
嫌われてますね。
わしの色気はあの年では分からん。
よいしょ。
・
(鈴の音)洋子?
(洋子)うん?このサラダは?野菜はうちの畑のやけどドレッシングはふみの作。
何や?「ふみの作」って。
あなたの奥さんでしょう。
ああ…。
探し物してたらあそこの袋戸棚からお母ちゃんの献立帳が何冊も出てきたんや。
ふ〜ん。
ほんで再現してみたの。
そうか。
あっ。
お父ちゃんからのラブレターも挟まってたよ。
えっ!?ヘヘッ…嘘や。
これはうちの宝物や。
お父ちゃんの宝物はあれやろ?うん?ああ。
フフッ。
五十嵐…。
不動産ブローカー…。
(秋山)何小豆島に?あかんあかん。
あーかーん。
まあそう言わんと。
(秋山)その五十嵐史郎たらいう男放火事件や上羽朝子殺しに絡んどるっちゅう明らかな証拠ないんやろ?それはまあ…。
そんなんやったらそんな遠くまで出張させるわけにはいかんやないか。
ええか?音やん。
おまはんの目下の仕事は溝口浩一郎をふん捕まえて正確な履歴を確かめ上羽朝子との関係を探ることやないか?土井やら徹夜で張っとんのやろ?早行って交代したれ。
あんなんでも員数は員数や。
京大出やしな。
将来出世するかもわからんで。
(そうめんをすする音まね)何しとんねん。
いや小豆島いうたらやっぱりそうめんですわな。
それにあの何たるいう老舗の生そうめん。
長さが400mあるそうですわ。
んなアホな。
4mの間違いやろ?いやいや400m。
それをちょん切って商品にしよる。
せやさかいコシがあって喉越しがようて。
(生唾をのむ音)実にこの…うまい。
ところがその生そうめんその老舗のお店へ直接行かんと買われへんねん。
それからあの…あの〜…何やあれ。
かつてのあのアイドル。
あっ桜田聖子。
あの子も今ものすごいはまっとるそうですわ。
ええ。
あの…桜田聖子ちゃんがか?はい。
な…んなアホな!嘘やおまへん!ホンマにホンマ!課長。
あのたらこ唇があんた…。
(そうめんをすする音まね)あ〜おいしい。
もう生きててよかった幸せやわ〜って。
(そうめんをすする音まね)あ〜…課長。
小豆島行ってねその生そうめんお土産に買うてきますわ。
なっ?はいはい。
課長!桜田聖子ですよ!わ…わ…分かった分かった分かった!しゃあない。
じゃあね一泊やで一泊。
はいはい。
目星がつかんでも一泊やで。
はい!おおきに。
(千木良)香川県警の千木良です。
京都府警の音川です。
どうぞ。
ああ。
(千木良)五十嵐史郎はしばしば里帰りはしとったらしいんですが空き家になっとった実家をリフォームして住み着く気になったようです。
五十嵐史郎はそこにあお向けの姿勢で死んどりました。
(千木良)死因は頭部損傷による頭蓋骨骨折。
この角に本人の血痕が付着していたことから犯人と争い突き飛ばされた後にここにぶつかり致命傷を負ったと推察されます。
家の内外から指紋は一切採取されていません。
全て犯人が拭き取っていったと思われます。
あっ?これ…。
ふすまの引き手が外されてるな。
えっ?あっ全部か。
(溝口)中に!中に!
(須永)待ちなさい!誰か人が?まだ営業前のシェアハウスに出入りしとったのはこのばあさんなんやろ?《溝口浩一郎》
(秋山)殺しやて!?25年前に死んどるやないか。
あんたいったいどこの誰なんや。
この事件何かもっと奥が深そうな気がする。
(千木良)この島には神戸姫路岡山日生宇野高松からのフェリーがありますが犯人がどのルートからこの島に入ってきたかは不明です。
地元の人間の線いうのは考えられんのですか。
(千木良)死体の発見者以外は親しい者もおりませんしな。
物取りといやぁ観光客目当てのものが大半ですし。
音川さん。
それともう一つ解せないことがあるんです。
五十嵐史郎名義のこの通帳なんですがちょうど2週間前に700万円の入金があり翌日300万円が下ろされてます。
そしてまた再びその翌日に300万円が現金で入金されてます。
下ろしたのも現金で入金したのもカガワチュウオウ銀行の京都支店です。
三日の間に大金が行ったり来たりしとるわけやね。
最初の振り込みが…。
白浪エステイトやないか。
《五十嵐史郎は空き町家を発掘するNPOにわれから参加し町家を改造して賃貸する白浪エステイトとの仲介役をしとった》《けど700万円とは…》《斡旋料にしては法外な報酬やわ》《何か他に理由がないとな…》五十嵐は何であんな大金出し入れしよったんやろ。
白浪エステイトにはあの火事で8,000万からの金が入ってる。
(呼び出し音)ああわしや。
音川や。
ちょっと調べてくれへんか。
(山根)おっ五十嵐や。
(加賀)確かに本人が引き出していますね。
次の日のも見してもらえますか?
(男性)はい。
(男性)こちらです。
(山根)次の日に入金してんのもやっぱり五十嵐本人か。
(倉内)この700万は五十嵐さんへの慰労金です。
正社員でもないのに額が多過ぎませんかね?社外スタッフとして多大の利益をもたらしてくれましたからね。
引退して田舎に帰ると聞き社長と相談して。
(倉内)一度支払った以上後は何に使われようとご本人の自由ですから。
ええ。
おお音やん。
おかえり。
何ぞ収穫あったか?もう大ありですわ。
これねお土産。
おう。
おおきに。
何か軽い…えっ?何やこれ。
小豆島エキストラバージンオイル…音やん。
音やんって!約束違うがな!えっ?いやそれお肌にええらしいですよ。
加齢臭も消えるいうしね。
お肌つるつるでモテモテですわ。
桜田聖子買うて…あっ違う。
あの…小豆島生そうめん買うてくる約束やったやろ!それ言いましたやろ?あの…それ老舗に直接行かんと買われへんいうて。
それ買うんやったらあと一泊は必要ですな。
そんな!ああ音川さん。
帰ってきてたんですか。
おう。
溝口浩一郎引っ張ってきました。
あっ!?おう。
課長。
あっ?とにかくまあいっぺんこれ試してみてください。
土井。
(土井)はい。
子供のケアちゃんとしてるんか。
加賀さんが残ってます。
うん。
(土井)あんた子供置いて家何日も空けてどこ行ってたんだよ。
就職先見つけに大阪に。
今じゃ町じゅうに監視カメラが付いてんだ。
大阪のどこに行ってたんだ。
ああちょっと失敬。
あんた小豆島へ行ってたんか?白浪エステイトと関係のあった五十嵐史郎なあんた彼を訪ねてったんやないのか?知らん。
そんな男知らん。
京都ホウラク寺。
(土井)おい!この寺なちょっと調べてみてくれ。
京都ホウラク寺…分かりました。
今んとこあんたが何かをやったという確実な証拠は何もないけど。
肝心なことは何もしゃべれへんし殺しのあった小豆島にも行っとる。
本格的な取り調べせないかんようなったわ。
フゥ…あんたいったいどこの誰なんや。
(土井)溝口浩一郎という男は死んでいる。
あんた誰?溝口浩一郎。
(土井)おい!
(溝口)おんなじ名前なんて何ぼでもある。
俺は溝口浩一郎や。
(土井)だったら生まれはどこだ?生年月日は?しゃあないな。
泊まってってもらおうか。
ああ心配すな。
あんたの娘さんはなこっちでちゃんと面倒見る。
まずは協力者指紋採らせてくれ。
拒否することもできるがそうしたら令状取るぞ。
音川さん。
音川さん!音川さん。
音川さん。
小豆島行きフェリー姫路発着所の映像に溝口が映ってました。
・
(山根)係長。
溝口が持ってたメモの寺は行旅死亡人や殺人事件等の被害者で引き取り手がない者の遺骨を埋葬する共同墓地が併設されとります。
(土井)それじゃあ…。
(山根)はい。
身寄りがない上羽朝子の遺骨もここに葬られます。
(僧)確かにこの人昨日の午後みえました。
《お願いします。
お願いします!》
(僧)どうしても遺骨に手を合わせたいというので仕方なく開けてあげたんです。
それでこの男は?
(僧)ええ。
携帯電話がかかってきたんで少しの間目を離してしまったんやけど…。
申し訳ないんやけど確かめたいことがあるんでその骨つぼ見せてもらえませんか。
土井。
開けさしてもらえ。
(土井)はい。
音川さん。
ふすまの引き手やな。
《あっ?》これ七宝焼ですな。
七宝焼?この引き手七宝焼で出来てるんや。
そうですがな。
これキキョウの柄ですわな。
七宝でキキョウいうたら…あっつぶれた野々村さんとこですわ。
《何で溝口はふすまの引き手を上羽朝子の骨つぼに入れたんやろか》はい。
見事ヒットしたんや。
ということはあの男前科があったんですな。
そうや。
30年前の1985年監禁罪と傷害罪脅迫罪で逮捕され初犯やけど1年半の実刑もろうとる。
初犯で1年半は重いですね。
やっこさん当時は仏教系の大学の学生やったんやが結構過激な運動やっとった。
ほれあったやろ?古都税騒ぎ。
ああ…。
京都中のお寺拝観料の上に税金上乗せしたっちゅうやつですな。
そや。
寺の大半が反対して京都の世論が真っ二つに割れたやつ。
あんときにやっこさん市に屈服して賛成に回った寺の坊主を何日も監禁して逮捕されたんや。
溝口浩一郎いうんはそのときの反対運動の仲間でやっこさんの逮捕から5年後に病死しとる。
あの男溝口の名前を勝手に借用して使うてきたんやな。
ほいで本名は?それがな…驚いたらあかんで?野々村明雄。
(秋山)そうや。
七宝焼の店やっとった野々村蓮太郎の一人息子や。
土井。
(土井)はい。
野々村明雄と溝口浩一郎のことを調べとって分かったんやが鮎川さんあんた大学であの二人と同級生やったんやね。
(鮎川)おっしゃるとおり私たち三人は同じ仏教系の大学に通い古都税騒ぎのときも行動を共にした仲でした。
京都市の圧力に負けて賛成に回ったご住職たちを閉じ込めたときも私ら三人一緒やった。
(明雄)《監禁した住職たちが実行犯の俺たちだけは許せんと訴え出たそうや》
(鮎川)《そんな!》《両派が手打ちにした以上全て水に流そう言うてやがったのに》
(溝口)《大丈夫や上がかばってくれるよ》
(明雄)《いやそうはいかなくなった》《告発状を出されたら警察も動かんわけにはいかん》《いけにえは必要なんや》
(鮎川)《それやったら暴力団組織とおんなじやないか》
(明雄)《溝口は寺の跡継ぎやし…》《そうや。
鮎川のうちは観光協会の重鎮や》《二人とも将来がある。
ここは俺に任せてお前らは逃げろ》
(鮎川)野々村のおかげで私と溝口は逮捕を免れた。
パクられた野々村は黙秘を貫徹し私らのことは一切しゃべらんかった。
私は知らん顔で卒業して観光協会の仕事に就けた。
そのときの逮捕が原因で父親に勘当された野々村は前科が災いしてまともな職業に就けんかった。
私はずっと野々村に負い目を感じながら生きてきたんです。
その後前科のある野々村の名前を捨てた明雄は病死した溝口浩一郎の名前を借りて生活しとったんやね?はい。
そんなあいつに半年前…。
(鮎川)《戻ってきたか》
(明雄)《ああ》《東北で暮らしてたんやが一緒に暮らしてた女が病気で死んだんでな》
(鮎川)《まずは乾杯や》
(明雄)《ああ》
(鮎川)定職を持てず絶縁状態のお相手さんの店もつぶれたという溝口…いえ野々村明雄の境遇を聞いた私にできることといえば…。
自宅を改造したシェアハウスの管理人として白浪エステイトに紹介することしかなかった。
(鮎川)はい。
野々村は子供がいるのをなぜ隠した?上羽朝子は50年も野々村の店でお手伝いしとった。
当然野々村に子供はいたことは知ってたはずや。
お父ちゃん。
うん?一息入れたら?うん?ああ…。
お母ちゃんのレシピどおりに作ってみたんよ。
さあ熱いうちに。
はい。
おっふろふき大根か。
ふーん。
おいしい。
この季節にぴったりやな。
ホンマに?うん。
フフッ…おおきに。
お母ちゃんの味やろ?う〜ん…。
長いこと食べてへんさかいなぁ…。
ちょっと違うのやないかな?そう。
やっぱりな…。
えっ?昔と今では調味料のあんばいも違うし。
もうひとつ工夫せなあかんな。
勉強勉強。
フフッ…。
お母ちゃんの味か…。
お母ちゃんの味…。
野々村明雄と上羽朝子は…。
ひょっとして…。
息子さんやね?せやろ?面影あるやろ?野々村さん。
いつかあんたに話したけど最近上羽朝子さんに会うとった溝口いうんはこの人やったんや。
管理人をすることになっとったシェアハウスに他の者には一切内緒でろくに金も無い朝子さんを住まわせとった。
わしらにはひとつきほど前に会うたいうて嘘ついてな。
わしは…人でなしや。
人でなしや!人でなしや…。
(土井)放火犯は上羽朝子で間違いないと思ったけど溝口こと野々村明雄の線も出てきましたね。
白浪エステイトは金で放火を五十嵐に委託した。
その理由はさら地にして鮎川から安く土地を買い上げるため。
五十嵐はそれを野々村明雄に丸投げした。
いやそれやと一度引き出した金がまた元へ戻ってるっちゅう説明がつかん。
ああそっか…。
この事件何かもっと奥が深そうな気がする。
せやからまあ香川県警はん。
五十嵐史郎はこちらの放火事件と殺人事件の重要なキーパーソンの疑いが強なってきたんでこの際合同捜査っちゅうことで。
はい。
ああ書類はもちろんきちんと作りますんで。
はい。
山根。
(山根)はい。
書類頼むで。
(山根)えっ…それって課長の仕事ちゃいますの?
(秋山)うん。
あのな…。
俺が定年退職なったら誰が課長になるん?順番やったら音やんやがあいつは俺と同い年や。
なっ?音やんはね…。
おお!音やん。
何かありましたか?ああ…いやいやいや。
おおそうだ!あのおじいさんな上羽朝子知っとるいうてきたんや。
少々難やけどな。
(巳之吉)あのなぁわし外へ出るときいつもライター忘れてしまうんや。
ほら。
さっさと火ぃ付けんかい。
この場所は禁煙でして…。
(巳之吉)何!?かまへん。
吸わしたり。
(土井)はい。
でな公園でいつも火貸してくれんのんがこのばあさんやった。
(巳之吉)それでいつやったかこのばあさん公園の脇で…。
(巳之吉)緑色の車に乗せられていったんよ。
緑色?おそらく五十嵐の車や。
《それじゃあ失礼します》緑色の車に間違いないんですね?
(巳之吉)ない!他のことは間違えても緑と赤と黄色は絶対間違えへん!わしゃあ市電の運転手やっとったんやぞ。
あんたやっぱり五十嵐史郎を知ってたんやろ?五十嵐が殺された小豆島の家でなふすまの引き手がのうなっとったんや。
これや。
これ野々村家のおふすまにあったもんや。
あんた何でこれを上羽朝子の骨つぼん中に納めたんや?《いつもお世話になってます》《ええ。
ヘヘヘ…そうですねぇはい》これは…あんたにとっては心やろ?なあ野々村明雄さんよ。
協力者指紋採られたとき身元が分かってしまうと覚悟しとったんやないかと思うんやけどな。
あんたは七宝焼の店やっとった野々村蓮太郎さんの一人息子で上羽朝子さんそこで長いこと働いてはった。
まあそこまでは何とかたどりついたんやけどな。
正直なところわしらにはその三人の間に何があったんかいまひとつ分からんかったんや。
けどなあんたの親父さんが隠せば隠すほどわしにはいろんなもんが見えてきたんや。
上羽朝子はんはあんたの実の母親なんやろ?野々村はんの亡くなりはった奥さんには子供ができんかった。
野々村はんどうしても跡取りが欲しかったんやろな。
あるときお手伝いをしとった朝子さんにまあいうたら手をつけ彼女は妊娠した。
やめてくれ…やめて!わしかてこんな話しとうはない。
けどな放火事件と二件の殺人事件の犯人を突き止め動機を解明するには避けては通れん道なんや。
朝子さんから生まれたあんたはすぐに野々村の籍に入れられた。
けど奥さんが亡くなりはってからも野々村はん朝子さんを後妻に迎えようとはしはらへんかった。
たぶん老舗の偏った世間体からやろな。
学生時代の友達鮎川さん。
あんたが古都税騒ぎで有罪になり野々村の家を追い出されたと言うてはった。
その後あなた京都に戻ってきたときにはすでに店は傾いてしもうてて結局朝子さんは野々村の家を出はった。
そこであんたは管理人をすることになっとったあのシェアハウスに周囲には内緒で彼女を住まわせた。
まあゆくゆくは三人で一緒に暮らそうと思うてたんやろ?ところがや。
あのシェアハウスは焼けてしもてその翌々日何と朝子さんが溺死体で見つかった。
ふ抜けのようになってしもうたあんたはふと五十嵐が何か知ってるはずやと考え彼を追って小豆島へ行った。
その五十嵐の家で見たのは…。
《何でや…何でこれがここに》
(五十嵐)《おい待て!》朝子さんを殺害し引き手まで奪ったんが五十嵐やと確信したあんたは彼を手にかけ…。
この引き手を取り返し骨つぼの中に納めたんや。
この引き手には隔てられとったあんたと朝子さんとの間の愛情や悲しみがいっぱいこもっとる。
話してくれんかな。
事件のいきさつを何もかも。
野々村明雄。
自分の置かれた立場が分かってるのか。
あんたには五十嵐史郎殺害の容疑がかかってる。
それだけやない。
朝子さんには放火の容疑がかけられとる。
まあ亡くなってはるとはいえ不名誉な汚名をこれからもずっと背負っていくことになるんやで?
(雷鳴)
(明雄)《お母ちゃん!》
(朝子)《うちはあんたのお母ちゃんじゃありません》
(明雄)《お母ちゃん!》
(朝子)《早向こうに向こうに行ってください!》
(明雄)《お母ちゃんお母ちゃん!》
(朝子)《うちは山奥から出てきた学のない女》《こんな立派なお店に入れるような女ではありません》
(朝子)《あんたはんが無事に育ってこの店を継いでくださることだけが私の望みです》こんにちは。
(土井)あっ…洋子さん。
ああ洋子ちゃん。
久しぶりやなぁ。
いや〜ますます奇麗になって!
(洋子)フフッ…ありがとうございます。
一課のデカ長さんも相変わらずお口が。
いや…そんなことありません!課長のおっしゃるとおり…。
土井君頑張ってるんやってね。
(土井)ありがとうございます。
(秋山)まあまあ入って入って。
(洋子)はい。
失礼します。
すいません。
(秋山)今日はまた何の用や?人使い荒い刑事さんの用事で。
(秋山)おお。
おお洋子。
すまんすまん。
すまんなぁ。
いいえ。
えっ!?こんなにぎょうさん?おいしいかどうか分からんけど皆さんにも食べてもらおう思って。
ありがとうございます!アホ。
お前と違う。
え〜…。
(こと美)《・「一年生になったら」》《・「一年生になったら」》
(朝子)《ほらあったかいあったかい。
はいどうぞ》
(朝子)《よう戻ってきてくれたな》《せやけど…》《店はもうのうなってしもうて》《遅い。
遅過ぎた》《そんなことない》《これから頑張って三人生きていかんと》《何とかする。
何とか…》《おおきに…》《ああこと美ちゃん。
こと美ちゃんこれ食べよう?》《ほら。
お父さんね小ちゃいとき好きだったんよ》《はいどうぞ》
(明雄)《えっ?火を付ける?》
(五十嵐)《いくら改造しても長持ちしないような家だ》《建て直してマンションにした方が世の中のためなんだよ》《人が死ななかったら調べも簡単なもんだ》《不審火で片が付く》《前渡しで300万払うよ》《あんたも娘さんとの生活があるだろう》《ここらで大金をつかまなきゃ野垂れ死にするだけだぞうん?》
(明雄)《断る》《ほう…断る》《知ってるぞ》《あんたが内緒でばあさんを寝泊まりさしてることをな》
(土井)それで脅されてあんたは放火…。
(明雄)申し訳ありませんでした。
嘘ついたらあかん。
(土井)音川さん…。
んなことなら何で朝子さんは殺されなあかんねん。
ならどうやって火ぃ付けた?
(明雄)ライターで。
どこに?
(明雄)その…置かれてあったパンフレットに。
直接?火元はこれや。
調べたところこの燭台は朝子さんが野々村の家でずーっと使うてはった物や。
あんたもよう知ってるはずや。
こんな…わざわざ足がつくような物で火ぃ付けるか?脅されてもあんたは放火を承諾しなかった。
仕方なく五十嵐は自分で火を付けた。
バレても朝子さんに疑いがいくように。
この燭台を使うて。
ところが…朝子さんがそれを目撃した。
朝子さんは息子が放火の疑いをかけられ幼い娘を抱えて偽名を使って生きていることを見るに見かねて五十嵐の連絡先を調べて彼を呼び出した。
(五十嵐)《放火?何のことだ》
(朝子)《うちはシェアハウスの中からあんたが飛び出してきたん見たんや》
(五十嵐)《チッ…》
(朝子)《自首してください》《息子の無実を証明してください》《でないと…》《でないと私警察に》
(落ちる音)
(朝子)《ハッ!》
(朝子)《キャー!》そういうことや思うんやがな。
どや?野々村明雄さん。
(明雄)音川さん。
あなたのおっしゃったとおりです。
調書取ります。
それで五十嵐殺害後家の内外の指紋を全部拭き取ったんやな?えっ?そんなことしてません。
指紋を拭き取るなんて。
何やて?あいつの家で七宝の引き手を見たときあいつが母さんを殺したと確信した。
だから…。
(五十嵐)《うっ!》
(明雄)あいつを突き飛ばしたら動かなくなった。
怖くなって引き手を取り戻しそのまま逃げ出したんです。
いいかげんなこと言うな!いまさら…。
(明雄)本当や!信じてください!信じて!でたらめですよ。
野々村明雄最後の最後に大嘘つきやがったんです。
指紋を拭き取ったはずなのにそこだけ否認するなんて。
量刑を考えてのことですよ。
おい土井!これ画面止めるんどないしたらええねや?おーい!《わしとしたことが…》《えらい間違い犯すとこやったわ》エステイトはん。
お気の毒やけどな死人に口なしっちゅうわけにはいかんようになりましたわ。
はっ?あんたこの前引退する五十嵐史郎に700万円慰労金を出したと言うてはったな?せやけどその金はあのシェアハウスに放火する人間に対する謝礼の金やないのんか。
(倉内)放火?ハッ…何のことやろ?
(土井)とぼけないでください。
あんたらは五十嵐を使うて町家を手に入れリフォームすると見せ掛けて火を付けた。
そして大家の足元を見て安う土地を買いたたきマンションに転用して大もうけをしようとしたんやろ?そんなこと…。
けど五十嵐はこの仕事を最後に引退するんでさらに多額の口止め料を要求してきたんやないのか?《切りのいいところであと300万何とか都合できませんか》さあ?何のことやら。
もしも五十嵐が白状したらたちまちこの会社は吹っ飛ぶ。
町の景観やら文化財の保護やらいうて府議会に当選した創立者でオーナーの白浪善治郎にも当然刑事罰が問われることになる。
だからあんたは…。
小豆島に渡り五十嵐の口封じをすることにした。
溝口浩一郎こと野々村明雄が姫路のフェリー発着所のビデオに映っとったために他のフェリー乗り場のチェックがおろそかになったんや。
あんた東京出張を利用して高松まで飛行機で飛びそっから小豆島に入った。
なあ?そして…。
(五十嵐)《うう…助けて…助けてくれ!》《五十嵐…》《金の無心しやがって。
欲が深いんや》
(突き飛ばす音)小豆島行ったんは社用や。
五十嵐の家なんぞ行っとらん。
わしが殺したいう証拠でもあんのんか!ゲソや。
ゲソ?殺しのホシっちゅうのはな相手の返り血浴びたんやないかと着とった衣服は捨てるなり焼くなりしてすぐに処分する。
けどゲソ。
つまり靴まではなかなか頭が回らんねや。
あんたあの日履いとった焦げ茶と白のコンビの靴な。
昨日あんたが出社しとる間に奥さんに頼んで提出してもろうたんよ。
あんた奥さんとの仲もうまくいってないそうだな。
その上奥さんが離婚を申し出ても言を左右してるそうじゃないか。
奥さんの実家が資産家で不動産業界の実力者だからだろ?まあ鑑識の調査の結果この靴から五十嵐史郎の血液のDNAが出た。
もう言い逃れはできんよ。
倉内さん。
分かってるな?令状は取れんぞ?よう分かっとりま。
音やん。
おまはんそれでも行くんか?やめといてくれんかな?分かっとりま。
ちぃっとも分かってへんやないか!行くんやろ?ああ行きますな。
相手は大物や。
まかり間違うたら…。
分かっとりま。
そしたらこれね。
おい…ちょっと音やん!えらい土産置いていきおったな…。
(白浪)君が音川音次郎君か。
(白浪)独断でバカなことをしでかしたうちの営業部長はわしの名前でも出したんかね?いいえ。
(白浪)ならあんた…。
一言申し上げたいと思ったまでです。
ああ…。
何を言いたいんだね?心と心で結び付いた人間関係は何よりも強い。
しかし欲と欲とで結び付いた人間関係は何よりももろいということです。
お宅の倉内営業部長。
会社の機密を墓場まで持っていけるような男ではないとみました。
フンッ。
刑事の勘ってやつかね?はい。
長年の。
私の首をお取りになりたいんならいつでもどうぞ。
(洋子)ただいま…。
・
(鈴の音)なあ…人間の業っちゅうもんは何でこう哀れなんやろな?ワッパはかけなあかんけど何かむなしいな。
さみしいな。
けど鬼にならなあかんねん。
刑事なら鬼にならなあかんのや。
溝口浩一郎こと野々村明雄。
五十嵐史郎事件に関する傷害罪で逮捕する。
まあどんな事情があるにせよ事件を起こした者を逮捕するのがわしらの任務や。
犯した罪は償わないかん。
まあ後は司法の問題や。
まあ…事によると正当防衛が認められるかもしれんな。
課長。
ええ弁護士さん探してやってよ。
分かってるがな!すこぶる腕の立つやつをな。
俺が放火を断ったばっかりに母さんが殺されてしまうなんて。
母さんは世間に背を向けたままのこんなどうしようもない息子を最後まで心配してくれて。
明雄さんよ。
母親とはそういうもんやないか。
なあそうやろ?さあ行こか。
(明雄)こと美。
子供のことは心配せんでもええ。
あんたが出てくるまで施設でちゃんと預かってもらうし。
音川さん。
俺これからは野々村明雄として一生懸命生きていきます。
ありがとうございました。
お父ちゃん。
お母ちゃん殺した犯人お父ちゃんが捕まえるまでうちお嫁に行かへんわ。
えっしかし…えらいプレッシャーやな。
そしたらあのいちずな土井はどないなんねん。
(洋子)フフフ…そんなこと知らんわ。
あっ?土井君はもっと気張ってお父ちゃんに協力せな。
そう伝えといて。
はいはい。
お父ちゃん。
うん?その帽子ほんまよう似合う。
ああ…皆さんそうおっしゃいます。
2018/02/09(金) 19:57〜21:49
関西テレビ1
金曜プレミアム・ミステリードラマスペシャル新 京都殺人案内[字][多]
京都府警の名物刑事・音川音次郎が今夜復活!京町家の再生計画に魔の手が忍び寄る!京都〜小豆島をつなぐ消えた七宝焼きに秘められた50年の愛憎劇!
詳細情報
番組内容
京都の古い町屋で起きた火災。この家は内装替えをして、近々シェアハウスとして生まれ変わる予定だった。放火の疑いがあると通報を受けて駆けつけたのは、京都府警捜査一課・係長の音川音次郎(橋爪功)と同じく捜査一課の刑事・土井賢人(風間俊介)たち。まだ入居前で無人の施錠された家の内部から出火しており、出火元には、誰かが持ち込んだとされる焼け焦げた燭台(しょくだい)が残されていた。
番組内容2
放火犯を探すため聞き込み捜査を開始する音川刑事のもとに、改装中だったこのシェアハウスに出入りしてる女がいたという目撃情報が入ってくる。音川はその情報を確かめるため、当時シェアハウスの管理人をしていた溝口浩一郎(野村宏伸)の元を訪れる。最初は口をつぐむ溝口だったが、音川の取り調べに、公園で知り合い身寄りがなく住むところに困っていた上羽朝子(左時枝)に無断で部屋を貸していたことを明かすのだった。
番組内容3
しかし、その朝子は寺院の池で遺体となって発見される。そして遺体のポケットには、火災現場から無くなっていた赤いライターが入っていた。さらに、この町屋の物件情報を提供した不動産ブローカー・五十嵐史郎(加納竜)が、故郷の香川県小豆島の自宅で何者かに殺害され…。
出演者
橋爪功
本上まなみ
風間俊介
・
加納竜
左時枝
角替和枝
野村宏伸
平泉成
他
スタッフ
【原作】
和久峻三
【脚本】
佐伯俊道
【編成企画】
渡辺恒也
【プロデュース】
佐々木淳一(松竹)
嶋村希保(松竹)
【監督】
石原興
【制作】
フジテレビ
松竹株式会社
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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