100分de名著 ユゴー“ノートル=ダム・ド・パリ”第1回「神話的小説」[解][字] 2018.02.11

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(鐘の音)何度も形を変えて語り継がれる物語があります。
フランスを代表する作家ヴィクトル・ユゴーの「ノートル=ダム・ド・パリ」。
ユゴーは15世紀のパリを舞台に愛情熱嫉妬が渦巻く壮大なドラマを描きました。
天才ユゴーが生み出したその魅力。
それは神話と同じような普遍的な構造を持っている事でした。
「ノートル=ダム・ド・パリ」その驚くべき世界へいざないます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今月の名著はこちら。
19世紀に活躍したフランスを代表する作家ユゴーの「ノートル=ダム・ド・パリ」をご紹介します。
伊集院さんはこの作品ご存じですか?珍しくミュージカル「ノートルダムの鐘」として上演されてるものを見て感動して。
そうですか!僕ミュージカルって食わず嫌いだったんですけど一気にその先入観なくなるぐらい。
ぐらい!ただちょっとスタッフから聞いてるのはかなりそれともストーリーの解釈が違うっていうんで。
そうなんですよ。
この作品映画やミュージカルの原作になっていますしご存じの方も多いと思うんですが実は結末も含めて結構大事なところが少しずつ違うらしいんですよね。
戸惑いながらついていこうと思っています。
はい読み解いてまいりましょう。
指南役をご紹介します。
明治大学教授でフランス文学者の鹿島茂さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
鹿島さんは幼少の頃からとにかく読書好き。
古書収集にはまり自宅には貴重な本が並びます。
読書離れを危惧する鹿島さんは去年著名な文筆家たちの書評を無料で閲覧できるサイトを立ち上げました。
読者が多くの本にアクセスできる事を目指しています。
では早速基本情報を見ていきましょう。
鹿島さんこのタイトルはパリのノートル=ダム大聖堂の事なんですね?そうですね。
ノートル=ダム・ド・パリというのは一つの建物建築ですよね。
これ現代の建築と違って作者が分かってないんですよね。
集団建築ですよね。
ユゴーはこの「ノートル=ダム・ド・パリ」という小説を書いたんだけども小説はユゴーという作者がいるわけですよ。
そういう事を考えた人。
はい。
それはね大革命フランスで革命が起こるんですね。
相当に大革命で大聖堂は荒廃しててねフランス革命というのはそれぞれの…でユゴーはこれは人類の進化の過程であるというふうに考えたわけですね。
それでこれから本当の近代が始まるだろうと考えるんですね。
神様よりも個人が大切というのが近代です。
となると今後これ読み解いていく上で結構大事なキーですね。
それはすごく重要なんですよ。
大勢でこさえましたよ。
何となく神様がつくりましたよというものと個人が何かをつくってくという。
そうそう。
これは大きなる断絶があるわけですそこには。
でユゴーは断絶をね結びつけるっていう事を考えた。
そして「ノートル=ダム・ド・パリ」の物語。
ミュージカルや映画に何度もリメイクされているんですがオリジナルとはストーリーがかなり違うものもあるんですよね。
相当に違って作品ごとに全部違うと言ってもいいぐらいですよ。
この小説の最大の特徴はリメイク性にあるんですよ。
それは実はこのユゴーという人が非常に特殊な人だったんですよ。
どういう事かというと無数の人のある意味そういう声を全部聞こえちゃう霊媒みたいな人だった。
それがね「神話的小説」と僕が名付けたのね。
神話とか昔話になってるんですよ。
例えばギリシャ神話ってみんな何となく知ってますよね。
はい。
例えば「古事記」「古事記」の原文をちゃんと読むという人はめったにいないんですけれども大体分かってる。
例えば今のゲームアニメもそうですね。
アニメの中には神話とかそういうのいっぱい取り入れられてるからこれはリメイクいっぱいできますよね。
それと同じ構造。
昔話って先生が子供に教えたい時は分かりやすく教育的な事に変えるけど大本のやつの文章を読むとえたいの知れない何か力のある話の全部の複合体みたいな話だったりするじゃないですか。
そうそう。
そういうものって人間のいい面と悪い面全部ぶち込んじゃってるわけですから。
でも今現代風の私たちの社会にするには悪い面とかこれ除かないとできないでしょ。
そうなんですよねこれは泣ける話これは笑える話みたいなこれは学校向けの話みたいにしちゃうじゃないですか。
そのかわり大本のこれは相当難しいですね?相当難しいというよりも読めない。
はっきり言ってしまうと。
1夜目にして「読めない」宣言が出ましたけども。
それも先生からというね。
はい。
ユゴーはなぜこの小説を書くに至ったのでしょうか。
その背景を見てみましょう。
ユゴーが生まれたのは1802年。
フランス革命が終わり英雄ナポレオンが颯爽と登場!誰もがナポレオンのようになりたいと野心を抱き「俺が!俺が!」と自我の強い人間であふれた時代でした。
ユゴーは正反対の考えを持つ両親に育てられました。
父はナポレオン軍の軍人で共和派。
母は過激な王党派で二人は何かにつけて反発しあっていました。
また父は性欲旺盛で最終的には愛人の元へ走ります。
一方母は厳格な禁欲をユゴーに押しつけます。
そのためユゴーは性的に早熟だったにもかかわらず二十歳で結婚するまで禁欲生活を貫きました。
両極端な両親のもとでユゴーは次第に「光と闇」「美と醜」という互いに相反する要素が共存するのが人間であると考えるようになったのです。
その後フランスの政治は混乱を極めていきます。
その15年後には再び民衆が立ち上がり七月革命が勃発します。
ユゴーは七月革命が起こる直前に「ノートル=ダム・ド・パリ」の執筆を開始しました。
正反対な両親そして民衆の蜂起による政治の大転換が作品に大きな影響を与えます。
「ノートル=ダム・ド・パリ」は多くの矛盾を抱えたユゴーの魂の叫びでした。
小説は次のような序文から始まります。
正反対の思想を持つ両親に育てられたユゴーなんですが共和派と王党派というのが今説明の中で出てきましたけれども。
最初はユゴー自体もものすごく悩んだみたいですね。
でも自分はそういう…そうでないと俺はやってけないと思うぐらいに強烈な矛盾だったんだと思うんですね。
それはでも物語も難しくはなりますね。
その「ノートル=ダム・ド・パリ」の冒頭部分はこのように書かれています。
この「宿命」とはどういう意味を持ってるんですか?これはまずキーワードはノートル=ダム大聖堂。
これはさっき言ったように集団の建築。
誰も作者がいない建築ですね。
でそこの中に自分の落書きしてきますね俺がここに来たんだという事をね。
ある種の個人の自己表現を見たんだと思うんですね。
しかもこの「宿命」という言葉。
そういう欲望を抱えたやつは当然何らかの形で…これが「宿命」なんだろうなという事なんでしょうね。
この短い入り口でも解説してもらわなきゃ全く分からないしでもちょっと分かりかけるととても面白い。
さあではいよいよ小説の世界に入っていく事にしましょう。
時は1482年1月6日。
パリのらんちき祭り無礼講のお祭りの日から始まります。
広場では聖史劇「聖母マリアの正しいお裁き」の上演を待つ人の波でごった返していました。
なかなか劇が始まらないので群衆は騒ぎだします。
ようやく劇が始まってもクロパンという物乞いの邪魔が入ります。
更に群衆の一部が騒ぎだし一番おかしな顔をした者を「らんちき法王」に選ぼうと「しかめっつら競争」を始めます。
大歓声が起こったのはカジモドが顔を出した時でした。
その男はノートル=ダム大聖堂の鐘つき男。
眉毛やイボで隠れた目ガタガタの歯タコのできた唇大きく曲がった背中に大きなコブひどく曲がったX脚という風貌でした。
彼の醜い姿に群衆は大喜び。
しかしカジモドは耳が聞こえず何が起こっているか分かりません。
群衆はそのままカジモドを引き連れて広場から出ていってしまいます。
結局聖史劇は中断。
劇を演出していた劇作家のグランゴワールは怒りに震えていました。
そんな時エスメラルダという美しい踊り子が目に入ります。
見物人たちはかがり火の赤い光の中で生き生きと踊るエスメラルダに目を奪われていきます。
その群衆の中にいかめしく陰気な顔をしながらも誰にもまして夢中に彼女を見つめる男がいました。
彼はノートル=ダム大聖堂の司教補佐クロード・フロロ。
エスメラルダの美しさに強烈に惹かれながらも聖職者として淫らに踊る娘を許せず薄気味悪い声で彼女を罵ります。
クロードは有頂天になっているカジモドを見つけると行列から引きずり出します。
そしてカジモドにエスメラルダの誘拐を命じました。
物語はエスメラルダを中心に動き始めるのです。
ここまでの解説を聞いたうえに今のVTRの寸法だと意味する事すごい入ってくるんですけどただ実際に読んだ島津さんからすると相当大変なとこらしいですねこれ。
そうなんです。
メインキャラクターのカジモドが出てくるまで100ページぐらいずっとお祭りの描写なんですよ。
100ページ?そう。
どうしてそんな延々とそこをこの混とんをやってるんですか?普通はそういうところは削っちゃうんです。
ところがねユゴーはこれ削んなかった。
で先ほど言いましたユゴーって…中世というのはどういう時代だったか考えながらやってるとああこういうのもあったこういうのもあったってねかなりむき出しな欲望の丸だしとかねごた混ぜなの混とんなのね。
さあではこれから話を進めるにあたって主要人物のキャラクターを見ていきたいと思います。
まずクロード・フロロ。
続いてそのカジモド。
エスメラルダは16歳の踊り子。
フェビュスは王室射手隊の隊長です。
非常にはっきりした作りになるんですね。
だからキャラクターが降りてきてだんだんだんだん書いていくうちにキャラクターの輪郭がきっちりしてきたんでしょうね。
今回ですねこのキャラを分析して頂きました。
それがこちらの表になります。
この小説は神話的小説だって言いましたよね。
神話というものは現代の小説を読み解くような方法ではいけないんですね。
こういうふうに要素に分析しちゃうんです。
そしたらこれはプラスであるかマイナスであるかに分けちゃうの単純に。
「美貌」ある人が見ると美しいがある人が見ると醜いとかそういうのは駄目なんですよ。
「性格」悪いいいと。
こういうふうに二極のあるなし構造。
これがキャラというのの作り方なんだよね。
小説を書きたいという人に一つ虎の巻っぽいですね。
虎の巻です。
で現代も実際にマンガとかアニメはこうやってつくられてるんですよ。
こういう事をやったのはユゴーさんが最初なんですよ。
だから元祖キャラ小説。
このプラスマイナスをこういうふうにやってくと物語を回転させる力が出てきちゃうんです。
これを僕は「じゃんけん構造」と呼んでるんだけどね。
なるほど。
全プラスだと何も動かないしだからプラスとマイナス2人だとどっちかが勝ちですぐ終わる。
でもじゃんけん構造はかなり回り続けるし。
それから永遠につくれるから連載を永遠にできるという。
すごいな。
さあエスメラルダを誘拐しようと画策するクロードとカジモドですがこのあと一体どうなるのでしょうか?踊り終えたエスメラルダは真っ暗な通りを歩いていました。
その後をつけるカジモドともう一人の男。
彼女が角を曲がった瞬間カジモドはエスメラルダにつかみかかります。
カジモドはエスメラルダの体を軽々と片腕で担ぎ素早く闇の中に姿を消します。
「人殺し!誰か来て!」とエスメラルダが叫びました。
すると…。
カジモドはすぐに縛り上げられてしまいました。
エスメラルダは鞍の上で身を起こすと隊長の優しさとそのハンサムな顔だちにうっとりしてしまいます。
エスメラルダはすっかり心を奪われてしまったのです。
エスメラルダは礼を言うとするりと馬から滑り降りて去っていきました。
さてここからはちょっと奇妙な展開になるんです。
物語はしばらくグランゴワールを中心に進みます。
芝居が失敗して無一文になったグランゴワール。
寝る場所を探すためさまよっていると奇跡御殿に迷い込んでしまいました。
奇跡御殿とは物乞いや泥棒娼婦や宿なしの巣窟。
奇跡御殿の王様は冒頭に登場した物乞いのクロパンでした。
グランゴワールに気付くと近づいてこう叫びます。
闖入者は処刑されるという奇跡御殿の恐ろしいルール。
グランゴワールは首に縄をかけられ命を奪われそうになります。
しかし寸前でクロパンはある事を思い出しました。
絶体絶命のグランゴワール。
その時前に出てきたのがエスメラルダでした。
奇跡御殿の住人だったエスメラルダはグランゴワールの命を救うために結婚する事にしたのです。
相関図をこちらで見てみたいと思います。
クロード・フロロはエスメラルダを自分のものにしたいと強い欲望を持っていますね。
そのエスメラルダはフェビュスという自分を助けてくれた人に片思いしています。
ところがグランゴワールが絶体絶命のピンチになりましてそれを助けたいという思いから「結婚するわ」と言って二人は結婚する事になるんですね。
一方カジモドはクロード・フロロに絶対服従をしているんですけれどもこのあとエスメラルダと出会ってカジモドにも変化が訪れそうな予感という。
片思い構造でグルグル回ってるの。
この人は好きだけどもこの人はこっちの方が好きだという感じでね。
ところがさっき言ったじゃんけんの1個ない必ずどれかに負ける事になっていると。
そういう感じでグルグル回るわけですよね。
またこの普通に追いかけてるだけだったらじゃんけん構造にならないのがあの奇妙な場所に行く事でまた秩序が変わるじゃないですか。
そうそうそうそう。
奇跡御殿?うん奇跡御殿。
何で奇跡なんですか?例えば物乞いをやってて身体の障がいがある人とかあれやってるとお金恵んでくれるでしょ。
はい。
ところがそういう人たちが奇跡御殿に入るとピーンと元気になっちゃうの。
「奇跡なんだね」って言うところがすごいですよね。
すげえな。
皮肉もいいとこですね。
そう。
ここのところでは…つまり偉かった者が駄目なやつになって駄目なやつが急に偉くなったり王様が乞食になり乞食が王様になるというような事があるんですね。
それはそのやっぱりユゴーが価値観というものは混在するもっと言えば絶対的なものはあまり信じてないみたいな。
だからユゴーっていうのは天上世界があったら…なるほど。
それがリメイクに対する対応性の高さにもつながってて子供向けのいい話という形で抽出しようと思えばその成分も当然入ってるだろうし。
当然そうなんですね。
そこだけを取ればいいという事ですもんね。
そう。
さあ次回物語はどんな展開を見せるんでしょうか。
皆様お楽しみに。
鹿島さん今日はありがとうございました。
どうもありがとうございました。
2018/02/11(日) 14:30〜14:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 ユゴー“ノートル=ダム・ド・パリ”第1回「神話的小説」[解][字]

現代の漫画やアニメに出てきてもおかしくないような輪郭の際立った魅力にあふれる登場人物たち。第1回は、このキャラクター設定にスポットを当て物語の魅力に迫っていく。

詳細情報
番組内容
元祖ストーカー男、クロード・フロロ司教補佐。醜い容貌の内に無垢(むく)なる魂をもつ鐘つき男、カジモド。少女性と妖艶さをあわせ持つ異邦の女、エスメラルダ。そして圧倒的な民衆エネルギーを放つ「奇跡御殿」の人たち。いずれも漫画やアニメに出てきてもおかしくないような、輪郭の際立った魅力にあふれている。第1回は、このキャラクターたちにスポットを当て、神話的な魅力を放つ物語の秘密に迫っていく。
出演者
【講師】明治大学教授・作家…鹿島茂,【司会】伊集院光,島津有理子,【朗読】石丸幹二,【語り】加藤有生子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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