北朝鮮の「スリーパーセル」より恐いもの
三浦瑠麗氏のワイドショーでの発言が話題になっている。北朝鮮のスリーパーセル(工作員)は東京にも大阪にもいるだろうが、そんなものは戦争になったら大した脅威ではない。それよりワイドショーがこういう話題をもてはやすようになったことに危惧を感じる。
いまワイドショーの主な話題は森友・加計などの「反安倍」だが、視聴者は飽きているだろう。もし朝鮮半島が「有事」になると、180度旋回することは確実だ。かつてそういう現象が起こったからだ。1931年8月8日に大阪朝日新聞は、高原操主筆の署名でこう書いた。
軍備縮小の旗印が国民の支持するところであることは疑を容れることのできぬ事実である。[…]軍部が政治や外交に嘴を入れ、これを動かさんとするはまるで征夷大将軍の勢力を今日において得んとするものではないか。
当時の新聞の論調はそろって「反軍」や「軍縮」で、東京朝日の緒方竹虎編集局長は、8月に「軍縮座談会」で陸軍省と紛争を起こした。ところが9月18日に満州事変が起こると、新聞はいっせいに関東軍を支持し、大阪朝日は10月1日に高原の署名記事でこう書いた。
満州に独立国の生まれ出ることについては歓迎こそすれ、反対すべき理由はない。
同じ高原が書いた「征夷大将軍」の社説から、2ヶ月もたっていない。反軍の最強硬派だった東京日日も9月20日に関東軍に「満腔の謝意」を表し、10月26日に「守れ満蒙=帝国の生命線」という社説を出した。
新聞が雪崩を打って方向転換した最大の原因は、爆発的な部数増だった。どこの国でも戦争は最大の「キラー・コンテンツ」なので、その誘惑に抗するのはむずかしい。特電(海外特派員からの電報)は平時は月50~100通だったのが、1931年9月は360通、年末までに3785通に達したという。
北朝鮮の挑発が平和ボケの日本人の意識を変えつつあるのは、いいことだ。若い世代ほど内閣支持率が高いのは、「憲法9条で日本を守る」という左翼のレトリックが説得力をなくしているためだろう。こういう根拠なき平和主義は、現実が変化すると一挙に崩れることを1930年代の歴史は示している。
北朝鮮が自殺的な攻撃を日本に仕掛けてくるリスクは、客観的には計測できないが、常識的に考えてそれほど大きくないだろう。それよりマスコミが、何かのきっかけで「北朝鮮を攻撃せよ」に方向転換してパニックになるリスクのほうが大きい。かつて日本をミスリードした主役は、今のワイドショーのような新聞だった。
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