サメは、4億年以上にわたる進化を経て、水中を高速で泳げるように適応してきた。なかでもアオザメは最も速く、短距離なら最高時速100kmにもなる。2位はネズミザメで時速80km、有名なホホジロザメは3位だ。(参考記事:「海のハンター ホホジロザメ 有名だけど、謎だらけ」)
サメの皮膚は楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる小さな歯のようなウロコに覆われている。1980年代にこの構造が見つかって以来、空気力学的な研究が行われてきたが、水の抵抗(抗力)を減らす効果について研究者の意見は分かれていた。そこで今回、米ハーバード大学の進化生物学者と工学者のチームが詳細な研究を行った。
学術誌『Journal of the Royal Society Interface』2月6日号に発表された論文によると、サメの楯鱗は、抗力を小さくして前進を容易にしているだけでなく、揚力を高めていることが明らかになった。今回得られた知見は、飛行機、ドローン、風力タービンにも役立つという。(参考記事:「ヘビのウロコに「剥がれない潤滑油」、初の発見」)
サメ肌の効果
航空機には、機体を上昇させる力と、進行方向に姿勢を保たせる力とが必要だ。論文の共著者であるメヘディ・サーダト氏の説明によると、サメはもともと水に浮くようにできているため、揚力は上向きではなく主に横向きにはたらくという。「アオザメのウロコは、揚力を大きくし、抗力を小さくすることで、燃費を良くすることができるのです」と、論文の筆頭著者である博士課程学生のオーガスト・ドメル氏は話す。(参考記事:「大洋の稲妻 アオザメ」)
アオザメのウロコは、三つ又のほこのような形をしている。研究チームはウロコのマイクロCTスキャンを行い、飛行機の翼のモデル表面に3D印刷した。
研究チームは、この翼を水流の中に入れて、ウロコの大きさや、並べ方や、並べる場所を変えて、20種類の配置を試した。その結果、ウロコは抗力を小さくするだけでなく、揚力を大きくしていることが明らかになった。ウロコは、目立たないが高性能のボルテックス・ジェネレーター(車や飛行機の表面にある突起で、渦を作ることで運動を安定させるためのもの)として、高速かつ滑らかな泳ぎを可能にしていた。
この実験の結果は、より大きな翼にも当てはまる。「今回の研究は、ウロコのデザインを利用して翼の空気力学的性能を大幅に向上させられることを示しています」と、ドメル氏は言う。(参考記事:「まるで鶏肉、ウロコをはがす新種のヤモリを発見」)