AIベンチャーが狙うクルマの「頭脳」

2018年2月13日(火)

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 2030年には新車販売の半分が「レベル4」以上の自動運転車になる──。

 こんな予測を示したのは、米コンサルティング会社のPwC Strategy&だ。米国、欧州、中国といった世界の主要市場で、自動運転車が年間4000万台規模で売れるようになるという。ハンドルを握る人間の運転手は不要となり、判断能力を備えたAI(人工知能)と半導体がクルマを操る時代がやってくる。

 自動車産業の収益構造も大きく変わる。産業全体の利益が2015年の4000億ドル(約44兆円)から2030年の6000億ドル(約66兆円)へと拡大する一方で、ハードウエアを製造する完成車メーカーや自動車部品メーカーの取り分は縮小する。自動車産業全体が稼ぐ利益のうち、20%を「シェアリングサービス」が、11%を「新技術/ソフトウエア」のサプライヤーが占めると、PwC Strategy&は試算する。

 完成車メーカーが頂点に君臨してきた従来の産業ピラミッドが、自動運転の普及を契機にきしみ始めた。ソフトやサービスを軸に、新たに創出される市場は膨大だ。ここにチャンスを見いだしたベンチャーが、相次いで自動車業界に参入している。

中国・西安の監視カメラ映像を示す、センスタイムジャパンの勞世竑(ラオ・シーホン)社長(写真:山田哲也)

 香港のAIベンチャーであるセンスタイムは2017年12月、ホンダと自動運転用のAIを共同開発すると発表した。武器とするのは画像認識技術。中国の公安当局が複数の都市で運用する、監視システムで使われているものだ。

 中国では大都市の主要な交差点にカメラを設置して、クルマや人間の動きを記録している。センスタイムジャパンの勞世竑(ラオ・シーホン)社長は、同社の画像認識AIを使えば「100台以上のクルマの動きをリアルタイムで把握できる」と話す。

 AIによる画像認識の精度を高めるには、膨大な「学習データ」が必要だ。監視カメラの映像を使って鍛え上げたAIを、自動運転車の「視覚」に活用しようというわけだ。ホンダはここに魅力を感じ、設立からわずか4年のセンスタイムと手を組んだ。(ホンダが頼った 中国公安の“視覚”

 参入するのはベンチャーだけではない。米国のインテルやエヌビディア、クアルコムといった半導体大手も新たな市場に攻め込んだ。半導体にソフトやセンサーを組み合わせ、自動運転の「プラットフォーム」を握るのが狙いだ。彼らのもくろみが現実になれば、未来のクルマは半導体の製品開発ロードマップに従ってモデルチェンジを繰り返すようになるだろう。その構図は、今のパソコンとうり二つだ。(頭脳狙う巨人達 日本勢にも活路

 自動運転車の普及は、周辺産業にも大きな変化を迫る。東京ハイヤー・タクシー協会によると、現在、タクシーの原価に占めるドライバーの人件費の比率は約73%。自動運転車の車両コストは従来と比べて跳ね上がるが、人件費を考慮すれば「5年程度で採算が合う」と日の丸交通(東京都文京区)の富田和孝社長は試算する。自動車保険や駐車場、カー用品といった業界にも様々な影響がありそうだ。(走る5000万台 笑う業界、泣く業界

 完成車メーカーも攻め込まれるだけではない。トヨタ自動車は1月、自動運転によるモビリティーサービス専用のEV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)コンセプト」を打ち出した。先進企業の野望がぶつかり合う構図から、どんな未来が見えてきたのか。日経ビジネス2月12日号の特集では詳細に解説している。

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「AIベンチャーが狙うクルマの「頭脳」」の著者

小笠原 啓

小笠原 啓(おがさわら・さとし)

日経ビジネス記者

早稲田大学政治経済学部卒業後、1998年に日経BP社入社。「日経ネットナビ」「日経ビジネス」「日経コンピュータ」の各編集部を経て、2014年9月から現職。製造業を軸に取材活動中

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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佐々木 眞一 日本科学技術連盟理事長・トヨタ自動車技監