宇宙空間での重力波検出に向けて、超順調。
2016年、米国の物理実験施設・LIGOで史上初めて重力波が観測されました。「実験施設」とサラッと言ってますが、LIGOは2つの観測所を3000kmも離れた場所に設置してお互いに連携させるという壮大な仕組みです。でも今、もっと壮大な構想が実現に向けて着々と進んでいます。
重力波はとても弱いものなので、それを検知するには他のノイズを極限まで排除する必要があります。そこでNASAや欧州宇宙機関(ESA)の研究コンソーシアムは、地球よりノイズの少ない宇宙空間に重力波検出器を打ち上げることにしました。それが、LISAパスファインダーです。打ち上げの後どこまでノイズを低減できるか実験を行ったところ、結果は予想をはるかに超え、必要なレベルより20倍も良い数字が出ているそうです。
ここでいったん、重力波について簡単におさらいしますね。重力波とは、アルベルト・アインシュタインが存在を予言した時空の歪みです。物質が動くと発生し、光の速度で時空を伝播していきます。2015年に初めて観測されて以来、ブラックホール同士の衝突のようなとてつもない事態が発生させた重力波は観測されてきました。2017年には2つの中性子星同士の衝突による重力波も爆発的な光とともに捉えられています。
もう重力波は「たまたま見える」とかじゃなく、宇宙を理解する手がかりとして光(電磁波)みたいに安定して検知できる時代に突入したんです。
でもLIGOをはじめ地球上にある重力波実験施設には、観測できる重力波の周波数に限りがあります。今ある検出器では、「普通の恒星くらいの質量のもの同士が衝突したときに発生する帯域の重力波」しか検知できないんです。もっとばかでかいもの、たとえば我々の銀河の中心にある巨大ブラックホールみたいなもの同士が衝突していても、それによって発生する重力波には気づけていないんです。具体的には、重力波の周波数が10Hz(1秒間に10回波打つ)以下だとわからないんです。
宇宙空間でノイズを避けつつ、そんな既存の検出器で捉えられない周波数までカバーしようとしているのが、2034年打ち上げ予定のミッション・LISAです。今回実験したLISAパスファインダーは、その先行テストという位置づけ。LISAは3機の衛星がセットのミッションで、それぞれ250万kmずつ離れた距離に留まりながらお互いにレーザーを飛ばしつつ、地球の軌道を追うように太陽周回軌道に乗る予定です。もしそこを重力波が通過すると一帯の空間がほんの少し歪み、レーザーの進む距離がその分変化するので、これを検知して間接的に重力波を観測するという仕組みです。
そして、正確に検知するためには衛星に載っている立方体の鏡が重力以外の影響を極力受けないようにする必要があるので、自由落下状態(鏡と衛星が実質接触していない状態)に置かれます。これを実現するため、LISAは鏡と宇宙船の位置関係がつねに一定になるよう、センサを使って微調整しながら飛ぶことになっています。ここで重要となってくのが、鏡にかかっている力を全て把握しきることです。LISAパスファインダーは鏡にかかっている力を分析し、ノイズの特徴を調べていました。
って、そんなことができるんですね…と思ってしまうんですが、ともあれ下のグラフが、Physical Review Lettersにて報告されたものです。2015年に打ち上げられたLISAパスファインダーは、このLISAで使う3つの衛星のうちひとつを単体で動かしたようなものでした。論文には、ミッションの目的よりもノイズの特徴の方がずっと詳細に書かれています。きわめて細かなノイズまで把握できた上、立方体が外から受ける力も非常に小さかったので、本来の目標と比べて20倍も高精度に重力波の観測が可能になったとされています。その敏感さといったら、蚊が飛んだだけでもその重力を検知できるほどだそうです。
「今回発表した結果は、我々の技術が本当にうまく行っている証拠だと思います」フロリダ大学のPeter Wass氏は米Gizmodoに語りました。「我々は重力波検出器を宇宙に設置する方法を理解できています。実際設置するときにも、巨大ブラックホールの連星を観測できるという自信を持っていることでしょう」。
ただし、ノイズの排除はLISAの課題のほんの一部に過ぎません。他にも3機の宇宙船を連携させるためのシステムやその間をつなぐレーザーの仕組みを完成させる必要があります。でも、今こうしている間にもLISAのチームはそれらの準備を着々と進めています。
ちなみにLISAがもし小惑星に衝突されたらどうなるか聞いてみたところ、「LISAはすごく小さいからその可能性は低い」とのことでした。でも研究チームは小惑星どころかマイクロメートルレベルの流星塵の影響まで考慮しており、もしLISAの衛星のどれかが多少押されたりしたら、そのデータまでも排除できるそうです。
重力波検出の方法についてはLIGO(地上)やLISA(宇宙)だけでなく、たとえば「パルサータイミングアレイ」という、パルス状の電波を発する星から電波が届くタイミングのずれを分析する手法なども提案されています。2034年にLISAが打ち上がるまでには、宇宙について知る方法がもっと広がっていることでしょう。そのうち市販の天体望遠鏡に重力波検出器が付いてきてて、誰でも星やらブラックホールやらの衝突を(あくまで遠くで)体感できたりしたら…なんて、夢が広がります!
Image: ESA, LISA/ESA
Source: PRL, ArXiv, ESA
Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文]
(福田ミホ)