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ノート術は流行するがアウトラインプロセッサが使えない日本人[コラム]

何かを記録するにも、考えを整理してまとめるにも、箇条書きというスタイルは有効だ。
誰もが、いきなりまとまった文章を書ける訳では無いから、短い文章を積み重ねていく手法は、多くの人に有効なのだ。Twitterもそれで流行したといっても良いだろう。

そんなスタンダードな発想法をソフトウェア化したアウトラインプロセッサは、昔からあるのに、何故か日本では流行らない。

アイディアを形にするという作業は、デジタルに向かないという思い込みがあるのではないだろうか。

このところ、手帳界隈で「バレットジャーナル」というフレームワークが流行の兆しを見せている。
「バレットジャーナル公式サイト『入門ガイド』日本語訳」というページがあるので、そこに目を通せば、どういうものか掴めると思う。一言で言えば、日常の業務や予定、メモや思いつきを、まとめて箇条書きで管理するというノートの記述法だ。

日本的な言葉で言えば、一種の「ノート術」だろう。

この、物事を短い言葉で箇条書きにするというスタイルは、昔から色々なところで使われている方法で、特に、バラバラと散漫な思考に方向づけをしたり、ひとまとまりのアイディアとして整理したりするなどの、いわゆるアイディアスケッチ的なメソッドでは定番と言って良い考え方だろう。

実際のところ、ブログの流行の後にTwitterやInstagramなどのSNS的なツールが登場した時に、それを「ミニブログ」と呼ぶ人がいたが、あれは、そういうモノではなく、制限された短い文字数でなら、文章が苦手な人でも、自分の中のゴチャゴチャを言葉にしやすいという部分に目をつけた、いわば、箇条書きツールだったからこそ、多くの人が使ったのだ。

Instagramは、文章でなく1枚の写真で「今」を提示するという意味では、ビジュアルによる箇条書きの実現だった訳だ。
現在、そういう感じがしないのは、メディアとして長く続くと、どうしてもそこに技術が生まれてしまい、当初の箇条書き的な気楽さでは表現しきれなかったものまで表現できるようになってしまったからだ。

インスタ映えなどと気軽に呼んでいるが、本気の人たちが、インスタ映えする写真を撮るのに、当たり前のようにプロの技術を習得している事実は、バカにできるものではない。Twitterにしても、上手い人のツイートは俳句や短歌のような奥行きを示しているのだ。

それが達成できたのは、箇条書き的な表現の入り口としてのハードルの低さ。また、ワンショットの文章を書くことで、自分の考えの明確にしやすくなったこと。
これは文章だけではなく、写真+キャプションというスタイルも同じ。「まとめる」よりもさらに短いからポイントだけを抽出することになる。
これは、アイディアを考える際にも有効な、それこそ「箇条書き」の考え方。

パソコンが登場した昔からあるアプリケーションに「アウトラインプロセッサ」、または「アイディアプロセッサ」と呼ばれるジャンルがある。
本当に昔からあるジャンルだけど、何故か、日本では流行らないまま現在に至る。しかし、この「アウトラインプロセッサ」の考え方は、ほぼ「バレットジャーナル」そのものなのだ。
つまり、箇条書きの積み重ねと階層管理でアイディアを形にしていくスタイル。

まず、思いついたことを短い言葉で、どんどん箇条書きにしていく。アプリケーションでは、改行を打つと自動的に書いた行は箇条書きになる。
また、その箇条書きの項目ごとに、並べ替えたり、上下の階層を付けたりすることができる。つまり書きだしたアイディアを、似た者同士グループにして、それを大項目から小項目へと階層にしていくことで、散漫だったアイディアが形になるという仕組み。

階層構造を保ったままで並べ替えることもできるし、階層ごと他の階層の下に配置することもできるため、アイディア同士の相互作用を期待することもできる訳だ。

なぜ、アウトラインプロセッサが日本で普及しないのかはとても不思議なのだが、実は、この構造は、日本のビジネスマンに最も使われているのではないかと思われる、「パワーポイント」などのプレゼンテーションソフトと同じ。
というか、アウトラインプロセッサによるアイディアの整理手順を、スライド作成に援用したのがプレゼンテーションソフトだ。この、アイディアや文章の製作ツールが、人に見せるための清書ツールへと変化してしまう現象は、本来、文章作成ツールだったはずのワードプロセッサが、いつの間にか日本のビジネスシーンでは、清書用セミレイアウトソフトへと変化していった現象に似ている。

一方で、ノートやペンを使った「発想術」や「ノート術」「アイディア支援ツール」などは、ビジネス書やムック、Webサイトなどの形で、いくらでも登場する。バレットジャーナルの流行も、もしかしたら、それに近いのかも知れない。

パソコンをアイディア支援ツールとして使うという発想よりも、アイディアはアナログで作って、その結果をパソコンで清書するという考え方というか、ワークフローは、まだパソコンが非力でネットにも繋がっていなかった時代なら分からないでもない。
しかし、今、優秀なソフトウェアも快適な手書きツールさえ揃った状況の中で、まだ、アウトラインプロセッサは一般的なツールにならない。一方で、エクセルで方眼紙を作ったり、ワードでその社内でしか通用しない書式の書類を他所に送ったりしているのだ。

ワードにはアウトライン機能があるし、エクセルはそもそも方眼紙を使わないで済むように作られたソフトウェアなのに。
もしかしたら、日本企業はパソコンの能力を全然使いこなしていないのではないかと疑ってしまうのだが、実際のところはどうなのだろう。


<参考・参照元>
バレットジャーナル公式サイト「入門ガイド」日本語訳 | わたしのバレットジャーナル
「Excel方眼紙」の何が悪い? - 日経トレンディネット

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