ジェイムズ・K・ガルブレイス「命取りに無邪気な七つの嘘(ウォーレン・モズラー)」 への序文

MMT(Modern Monetary Therory)創始者のひとり、ウォーレン・モズラーがサイトで配布している「SEVEN DEADLY INNOCENT FRAUDS
OF ECONOMIC POLICY、ttps://moslereconomics.com/wp-content/powerpoints/7DIF.pdf」。

原文は平易な英語で書かれており、超おススメなのですが、前半(七つの嘘のパート)だけ日本語化してみたく。
 嘘その1
 嘘その2以降(coming soon)

まず、ガルブレイス教授による序文です。



ウォーレン・モズラーは珍鳥だ。独学のエコノミストでありながら変人ではない。投資の成功者でありながら高慢ではない。教育の才をもつビジネスマン。公共の善に真にコミットする資本家。


彼とは議会証言や時事に関する記事を一緒に書いたこともあるが、それらへの努力は自分を超えている。私が保証する。


多くの経済学者は、複雑性というものをそのまま評価する。現代の経済学ジャーナルを見れば一目で確認できる。本当に、不可解な議論が威光をもたらしているのだ!議論が明らかに不可解に見える時は、論者自身もそれをわかっていない場合が多い(フィンランドのヘルシンキで中央銀行家と国際金融経済学者の会議に出たときのことだ。ある発表の後、スウェーデンの傑出した経済学者に尋ねてみた。「あなたが教えてきた学生のうちどのくらいがその数式を追えましたか?」彼は言った。「ゼロ」)。ウォーレンの才能は簡潔にして明晰であることだ。彼は物事をできるだけ単純に考える(そのために多大な労力を払っている。真の単純化は難しいのだ)。彼は馴染みやすい比喩や、素朴な喩え話を好んでする。彼の話を使えば誰でも、ほとんどの子供(少なくとも私の子供)や同級生、金融市場のプレーヤーにその説明をすることができる。難しいのは、固定観念への強い忠誠を持つ経済学者たちだけだ。政治家はもちろん理解するのだが、自分自身の考えを口にできることが滅多にない。


ウォーレン・モズラーのこの小本は、キーとなる7つの問題についての議論が提示されている。それらは、政府の赤字や債務、財政赤字と民間貯蓄の関係、貯蓄と投資の関係、社会保障や貿易赤字に関する論点だ。ウォーレンはこれらを「無邪気な嘘」と呼ぶ – 私の父が最後の本で作ったフレーズを使ってくれた。父も喜んだことだろう。


各々の論点を結びつける糸は単純そのものだ。現代金融はスプレッドシートだ!コンピューター上で動いている!政府の支出や貸出は、民間銀行の口座の数字を増やすことでなされる。税金を集めるときは数字を減らす。借りるときは当座預金(準備預金勘定と呼ばれる)から貯蓄(有価証券勘定と呼ばれる)に残高を移す。実務的な操作はこれがすべてだ。政府が支出する貨幣はどこかから来るものはなく、貨幣を作る費用すらない。ゆえに、政府は破産のしようがない。


貨幣は政府の支出で創造される(あるいは信用を創出する銀行貸出によって)。税は私たちが貨幣を欲しがるようにするためだ – 税金を納めるために貨幣が要る。そして税は支出を制限する役割を持つ。税は私たちの支出の合計が、今の値段で入手できるモノを超えないように、つまり、物価を押し上げたりインフレーションにならないようにしている。但し、支出に先んじた税金は必要ない。必要ない言うより、できない。なぜなら政府が支出するまでは納める貨幣が存在しないから。
政府の自国通貨での借金は、デフォルトする必要が全くない。利払いとは、債券の保有者の銀行口座に金利を加えるだけなのだから。あり得るとすれば、政府が自分からデフォルト – 金的な自殺行動 – を決断するか、中央銀行に強制されるかだ。しかし米国の中央銀行は何が起こっても米国政府の小切手を決済するだろう。


政府債務が将来の重荷になるということもない。なりようがない。未来に生産されるものは未来に消費される。どのくらい生産できるかは、その時の経済の生産性に依存する。それは今日の公的債務とは何の関係もない。今日の公的債務は未来の生産性を下げたりしない。むしろ、債務こそが今日の資源の賢い活用に直結し、未来の経済の生産性を高めるだろう。


公的債務は民間金融貯蓄を増やす。会計の事実として、ぴったり同額増やす。輸入は利益で、輸出は費用だ。私たちは消費の資金調達のために中国から借りているのではない(訳注:対中国の貿易赤字の話が出ます)。その借入の資金とは、米国の消費者が米国の銀行で借りているものだ。社会保障の民営化は、単に経済に存在する株式と債券の所有者を、リスク資産はシニア層に、安全資産は金持ちに入れ替えるだけになるだろう。連邦準備制度は好きなように金利を決めている。


この小本ではこれらは全部、単純な原則として提示される。


ここにはまた、一人の金融専門家の教育についての魅力的な記述、また、米国の経済を高失業の危機から救うためのアクションプログラムが書かれている。ウォーレンの方法は、給与支払税を停止することによって勤労者の所得を8%以上増やし、州や地方政府に人口に比例した補助を出すことによって財政の危機を癒し、職を望む人ならだれでもある程度の報酬で雇う公的な雇用プログラムを提示するというものだ。これによって失業の危機を消滅させ、特に若い人々に有益な仕事を与えることになる。


ウォーレンのヒーローは、経済学者では父を別とすれば、ウェイン・ゴドリーとアバ・ラーナーだ。ゴドリーは最近亡くなった驚くべき人物で、そのストックーフロー一貫マクロ経済モデルによってこの本の内容の多くの部分の見取り図を描いた。このモデルは最も優れた景気予測ツールの一つだ。ラーナーは「機能財政論」を提示した。これは公共政策の評価は債務や赤字がどれだけになろうと、雇用、生産性、物価の安定といった現実世界の結果で判断されるべきという論だ。ウォーレンもまたラーナーの基準に忠実だ。その原則とは、経済学においては他人に理解してもらうのがどれほど困難であっても原理において妥協をしてはいけない、というものだ。願わくば自分も彼のようにこの原則を貫くものでありたい。


とにかく、この本は魅力的で、非常に有益な読み物だ。大いに推薦する。


James K. Galbraith The University of Texas at Austin June 12, 2010